翌日のこと――
「”黄金の鍵”ねぇ……」
ネシェラは考えていた。一緒に話をしているのはセレイナとリアントスだった。
「ネシェラに隠し立てしたって仕方がないからな、だからさっさと話しちまったほうがいいかと思ってな」
リアントスは言うとネシェラはさらに考えていた。
「昔、お父様が言っていたやつね、何者にでもなれるって言う――」
セレイナが話をした。
「私も聞いたことがあります。
”黄金の鍵”には強力な呪いがかけられているそうです。
使用した者に望みと災いを与える”アーティファクト”と呼ばれるものだそうですが――」
そうなのか!? リアントスは驚いているが、ネシェラは――
「災いは叶えた望みの大きさに比例するのよね。
でも、リアントス兄様がセレイナに願ったのは――」
「俺はセレイナを助けたかった、それだけだ。
だから彼女が人の身体になればいい……そう思っただけだ。
冷やかすんならいくらでも冷やかせばいい、どんな仕打ちでも受けるつもりだ」
と、リアントスは言うと、ネシェラはリアントスとセレイナの2人を抱きしめた。
「ちょっ……!? なんだ、どうしたんだよ!?」
ネシェラは離れてから話し始めた。
「ううん、なんでもない。
ただ――お兄様もセレイナも災いを受けることなく無事で入れたみたいだから――
よかったと思って――」
なんだかんだで面倒見の良さはあるんだよな、リアントスはなんだかほっとしたような面持ちだった。
「で、災いっていうのは……例えば死ぬ可能性があるとか?」
リアントスが訊くとネシェラは頷いた。
「でも、彼女が死の危機に瀕しているのにそんな重い呪いを与えるわけないでしょ?
しかも純粋な思いなんだしさ。
つまり、適切な使い方がなされた証拠と思っていいわね。
ただ、セレイナに強力な呪いを与えてしまった――その程度のものよ。」
そう言われてセレイナはにっこりとしていた。
「私はこの呪いを受けてむしろ嬉しく思います――」
言うまでもないが、セレイナに与えられた呪いというのはそれのことである。
数週間前――
「またしてもプリズム女だらけの冒険記ってところね!」
と、ナナルが楽しそうに言うとシュタルが少々呆れ気味に言った。
「私たちはダーク・エルフだよー!」
「似たようなもんだよ! ねっ、アムレイナ! シャオリン!」
ナナルがそう言うと2人ともにっこりとしていた。
「そうですね、私たちは同じ者同士ですからね」
「ええ、ナナルも私たちプリズム族と同じですからね。
だからこそ今まで一緒にやってこられました」
何とも分厚い女の友情である。
「そうなんだ……そういうのいいなあ……」
シュタルはそう言うとネシェラとライアがにっこりとしながら言った。
「こーら、シュタルー? 私たちがいること、忘れてなーい?」
「そうよー、シュタル! 私たちと一緒にいましょうよ。
そしたらあなたもプリズム族よ!」
「あんたもよ、レオーナ。セレイナとアルお姉様は言うまでもなくプリズム女だけどね。」
レオーナとセレイナとアルクレアはにっこりとしていた。
「ありがとう、2人とも。嬉しいわね!」
「私も一緒だなんて嬉しいです――」
「そうね――ネシェラちゃんが言うんだからそりゃあそうよね!」
そんなやり取りを見てシュシュラとセディルも嬉しそうだった。
「やれやれ、私もプリズム族だってこと忘れてたわね、まだまだかな――」
「私もそうだということか……伝説の”プリズム・ロード”……精進しませんとね――」
とにかく、プリズム族の里へとついた彼女ら、
セレイナは単身、別の場所へと赴こうとしたら、
「お母様に会いに行くの?」
ネシェラが追いかけてきた。
「ネシェラさん!? ええっと、そうなんです――」
ネシェラはにっこりとしていた。
「そうよね、まさに魔性のミラージュ・フライヤ、霊獣なんだし、
他の者にも危害が及ぶ可能性があるから隠れて住んでいるのよね――」
だが、セレイナは言った。
「でも、ネシェラさんなら大丈夫だと思います!
あのウロボロスの力をも退いたほどですから!」
そして――霊獣レジーナの住まいまでやってきた2人。
「お母様、セレイナです! ただいま戻りました!」
セレイナはそう言うと、レジーナはすぐさまその場へとやってきた。
彼女はミラージュ・フライヤの姿で――以前にロイドたちの前に姿を現したあの姿だった。
「お母様! こちら、私の友達のネシェラさんです!」
セレイナは嬉しそうに言うと、レジーナは見る見るうちにその姿を人の姿へと変えていった。
「あなたが――セレイナと仲良くしてもらっているネシェラという子なのですね――」
しかし、ネシェラは遠慮がちだった。
「いえいえ! むしろこっちこそ、セレイナと仲良くさせていただいているわね!」
そんな様子にレジーナも嬉しそうだった。
「ありがとう、ネシェラ――。
セレイナ、あなたはネシェラと2人で、この世界で未来永劫仲良く生きるのですよ――
それも遠い遠い未来の世界まで――ずっと仲良くね……」
何を言っているんだと思われがちだが、
ネシェラとセレイナはその言葉にはなんとも言えないほどの感情を覚えた、
私たち、ずっとずっと一緒にいられるのか、と――。
「それからお母様、私、言わなければならないことが――」
セレイナはそう言うと、お母様は首を振っていた。
「そんなこと、気にしなくていいのよ。
あなたは愛する人と一緒にいるという選択をしました、
そのためだったら幻妖蝶の姿を捨てるというあなたの選択――
その思いはきっと、愛する人にも届いたことでしょう。
セレイナ、自分の信じた道を突き進みなさい――
母はいつもあなたのそばにいますよ――」
そして、母はそのまま再びミラージュ・フライヤへと変化しながら――
「さあ行きなさい、みんなの元へ――愛する者の元へ――」
と言い残すと、彼女はその場から去って行った――。
「お母様――」
セレイナはそうつぶやいた。
「また会いにきてあげましょう――」
ネシェラはにっこりとしながらそう言うと、セレイナもにっこりとしながら「はい――」と答えた。