アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第148節 ライアの計算教室

 ライアは話を続けた。
「この兵士だけど、多分こんなことするんじゃないかって思ってたのよね。 根拠なんてないわ、ただ――」
 すると、ライアは身体中がしびれて動けなくなっているラウドオリスの持ち物を物色すると――
「結果論でしかないけど、見つかってよかったわね――」
 と、なんと、そこにはサークレットが!
「何っ!? まさか――”トラクロス・サークレット”!?」
 セディルは驚いていた。
「これはあなたに必要なもの?」
 ライアは訊くと、男は答えた。
「……どうやらすべてお見通しと言ったところだな、いいだろう―― そうとも、私はマドラス、またの名を――」
 と、男は眼帯とマントを外すと――
「何っ!? まさか――エンダリフか!?」
 セディルはそう訊くと男は答えた、男はどう見てもライト・エルフ族の男だった。
「久しぶりだな。 こいつらのせいでしばらく死体として活動することになってしまったが、 一応生きているぞ――」
 すると、セディルはエンダリフを優しく抱きしめた――
「姉貴……」
 まさかの姉弟――
「何処に行ったんだと思っていたけど無事でよかった――」

 エンダリフはアルクレアを連れてきた。 その後は宿屋へと共に話をすることに。無論、ラウドオリスは投獄された。
「エンダリフさんは紳士だったよ♪」
 アルクレアはむしろ上機嫌だった。
「ああ、そう思ってもらえて何よりだ。 問題はお前を殺したいやつがいるということ……それはわかっていた。 誰がそうなのかがわからなかったが―― 一番驚きだったのは私と同じことを考えていたやつがいること……それは流石に想定外だな――」
 エンダリフはそう言うとライアは得意げだった。
「ライア……なぜあの時アルクレアを呼んだのかと思えば……危ないことをするのですね――」
 アムレイナは複雑だったが、アルクレアはにこにこしていた。
「大丈夫よ! いざというときのためにセレイナちゃんが守ってくれるのよ!」
 セレイナが?
「はい! アルクレアさんには強力な守護方陣を施していますので、そう簡単には殺させやしません。 その分、アルクレアさんの行動も制限をかけさせていただくことになるのですが――」
「いいのいいの♪ セレイナちゃん、可愛いし綺麗だし美人だし、とっても素敵だから一緒に仲良くしていたいんだもんね♪」
 無茶苦茶仲良しだった。それなんてネシェラ。
「そう……ここは本当にセレイナ頼りだった。 誘拐されてちょっと焦っちゃったけど、 人質にとるってことは可能性としてまだ命については安心できるレベルだと思ったから犯人をあぶりだすことだけを考えたのよ。 だって……本当に黒幕の手の者ならこの前みたいに人質にするぐらいなら殺しているハズだしね、 だから誘拐犯については少なくともその類ではないことはなんとなくだけど考えたのよ。 もちろん、それを確信したのはマドラスが殺すつもりはないとはっきり言いきった時。 念押しで言っているあたり、この人は犯人をあぶりだすことを目的にしているんだって考えたのよ。 そしたら、いきなりあの兵士が私たちの意に反して勝手にアルクレアを渡せって力づくで訴えたから―― ああ、こいつが犯人かって思ったのよね」
 ライアは得意げに言うと、エンダリフはサークレットを取り出して答えた。
「だが、その判断だってギリギリの賭けだったハズだろう? どうして兵士が怪しいってわかったんだ?」
 ライアは答えた。
「そもそも駐在所が持っている記録がおかしかったからよ。 みんなには既に話した通り、それは別の拠点で作られたデータであることは確実だってことだけど、 そうなると怪しいのは確実に駐在所の人間しかいないことになるわよね。 ううん、そもそもマドラスまでがドミナントで死んだって言うこと自体が妙な感じだった―― だから最初はドミナントの中でもアーカネルとも立場的に距離が近いであろう駐在所からターゲットにしてみようって考えたワケ。 そしたら――見事にヒットしたようね」
 アムレイナとアルクレアは感動していた。
「ライア、あなた――」
「ライアってすごーい! まるでネシェラちゃんね!」
 男性陣にとって”まるでネシェラ”は微妙だが、女性陣にとって”まるでネシェラ”は誉め言葉である、ニュアンス次第だが。
「いいえ、これはちょっとした因数分解よ」
 ライアは得意げに言うが、どういうことだろうか――何人かは首をかしげていた。
「ところでそのサークレットを探していたようだけど、なんなの?  ただただ国宝が欲しいってことじゃあないんでしょ?」
 ライアはそう訊くとエンダリフは答えた。
「ああ、実はこれはエルヴァランがクロノリア遠征に向かうってことになった際、 当時はまだご存命だった最終国王陛下がエルヴァランに密かに送ったとされる代物なのだ」
 えっ、てことはまさか――ライアは予感した。
「そう、エルヴァランの遺体はもちろんティンダロス邸からもこのサークレットが見つかっていないことがわかっている。 そう、だから――こいつを持っていた者こそがエルヴァランを殺した犯人―― もしくは、そのグループの一味であるという確たる証拠ということだ」

 翌日、ライアたちはエンダリフを伴い、再び南駐在所へとやってきた。 だが――
「くっ、真相は闇の中ってことね――」
 ライアは呆れていた。なんと、ラウドオリスは牢獄の中で、隠し持っていた毒を飲んで自殺していたのだった――
「だが、とりあえず、ドミナントへの脅威がこれで少しでも晴れるといいのだがな――」
 エンダリフも呆れ気味にそう言った。