アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第146節 ドミナントの真相

 翌朝――
「お母様! 大変です!」
 セレイナが慌ててアムレイナの元へとやってきた。
「あら、セレイナ? どうかしたのですか?」
「来てください! 大変なことがわかりました!」

 アムレイナとセディル、それからランブルとナナルの4人は南駐在所へと呼び出された。 すると、そこにはライアが椅子に座って待ち構えていた。
「ライア? 何があったのです?」
 ライアは立ち上がると説明を始めた。
「お母様、みなさん……大変興味深いことがわかったのよ。 まずはこの人――バディアス=ランディオスね」
 と、彼女はその資料を掲げて言った。 バディアス――その名を聞いたことがあったセディルは言った。
「風雲の騎士団結成当時に在籍していた元アーカネルの貴族議員ね。 まさか、ドミナントの地に――」
 しかし、ライアは首を振った。
「いいえ。 それがね、このデータには不自然なところがあるのよ。 ねえセディルさん、バディアス=ランディオスといえば、歩き方に特徴がなかった?」
 そう言われてセディルははっきり答えた。
「もちろん。そもそもバディアスは元騎士、 だが、職務中に重度のケガを負ってな、それで身体の中に金属を入れて骨を固定している、 足が少々不自由なのだ」
 ライアは得意げな顔で答えた。
「ありがとう、セディル。 だけど、このバディアス=ランディオスの遺体からはそんなものは見つかっていないそうよ」
 なんだって!? セディルとアムレイナは慌ててその資料を確認していた。
「まだいるのよ。次はこれね、アントリス=クロアトインよ――」
 ランブルが反応した。
「えっ!? クロアトインって、まさかロードアン伯爵!?」
 アムレイナは頷いた。
「ロードアンからはアントリスは行方不明だと訊いたけど――でも、そのアントリスのデータも!?」
 ライアは頷いた。
「ええ。 アントリスは右目が義眼だったんだけど、実際には左目が義眼の遺体だったそうよ」
 セディルは悩んでいた。
「そう、アントリスは不慮の事故で右目を失った――彼は青光の騎士団の一員だった時の出来事だ。 私はその時の光景を見ている、義眼は左目ではなく右目、間違いない――」
 なんてことだ。そして、トリを務めるのはもちろん――
「他にも何人かいると思うんだけど、私が一番気にしているのはこれよ、マドラスという名のハンター……」
 ナナルは驚いた。
「カイルフレアザード8段!? えっ、そんな人が!?」
 カイルフレアザード8段……やばい人物だった、何人かは絶句していた。
「これだけ人が死んでいるだけでも異様だというのに、 それに加えてどうしてカイルフレアザード8段の人までもが亡くなっているのかがどうしても気になってね――」
 確かに……アムレイナは感心していた。
「流石ですね、ライア――我が子ながら実に感心します……」
「すごいよライア! まるでネシェラちゃんみたい!」
 お母様とお姉様にそう言われて少々誇らしげなライアだった。ただし――
「それで? 不審な点は見つかったのですか?  そもそもマドラスと言えば、謎の多いハンターとしても有名です。 男であるということ以外はあまりわかっていないんですよ。 ですので、それでも何か得られるというのであれば――大きな収穫になりますね――」
 と、ランブルが言うと、ライアは悩んでいた。
「ええ、残念だけど、ランブルさんの言うように、マドラスは謎多きハンター、 つまり、さっきの2人とは比較できる対象がないのが心残りね。ただし――」
 ただし――えっ、まさか……何かがあるというのだろうか?
「いいえ、その逆よ。 マドラスの遺体だけど、その特徴的にセドラム=ゼンゲルスの特徴と一致するようなのよ」
 なっ、何だって……!? しかも――
「驚くのはまだ早いわよ。 そもそもこの資料、それにさっきのアントリスとバディアスもそうだけど、 どうやらドミナントで作られたものではないようなのよ。 例えばこのエルヴァランさんのデータの資料の紙―― これは恐らくドミナントで作られた再生紙だと思うけど―― でも、このセドラムのデータのものはリオルダート製の上質紙みたいなのよね!」
 なんと、まさか!
「ドミナントでリオルダート製の上質紙なんて滅多に手に入りませんよ。 ですからそうなると――どこかから間違ってうちのデータとして保管されるようになったことになりそうですな――」
 アウロディはそう言った……なるほど、ということは――しかし、その時だった!
「アルクレア!」
 黒いマントに身を包んだ眼帯の男が突然現れ、アルクレアを捕まえていた!
「おっと、動くなよ!  この女の命が惜しくば、俺の要求にしたがってもらおうか!」
 そっ、そんな――
「なっ、何のつもりだ!」
 ランブルはそう訴えると眼帯の男はニヤッとしていた。
「何のつもりか? いい質問だ。 だが、知りたければ10億ローダと”トラクロス・サークレット”を持ってこい!  場所はサンレイクのほとりにある太陽の祭壇付近、時間は今夜0時きっかりだ! いいな!」
 そう言いつつ、眼帯の男はアルクレアをさらって消え失せてしまった!
「アルクレア! アルクレア!」
 アムレイナは酷く嘆いていたが、ライアは冷静に考えていた。
「”トラクロス・サークレット”だと……?」
 セディルは身構えていた。