アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第143節 ランブルとプリズム・シャドウ族との邂逅

 宿に戻ってくるとランブルとディアがいた。
「なるほど、”南”駐在所に行ったのですね」
 南? アムレイナは訊いた。
「アウロディ=テネーバル隊長の所属は南の駐在所です。 それとは別に、アムレイナ様が休職されている間にドミナント自衛団の要請で”北”駐在所が新設されまして、 そこにはカウディス=オルナースト駐在隊長が指揮しているんですよ。 私も北駐在所の立ち上げの際には同席していましたし、 彼は当時までアルトレイ駐在所の隊員の1人でもありましたので、久しぶりに会いに行ったのですよ。 もちろん、話についても訊いてみたのですが、 だいたいアムレイナ様が訊いた話とだいたい同じでしたね――」
 ただ、ランブルはそこで怪しい人物について情報を得ていたという。それについては後程。
 それにしても、うーん……もう一つか――行くべきか、行かないべきか――アムレイナは悩んでいるとシャオリンが言った。
「とりあえず、今回はこれで行きましょう。 そっちはしばらく様子を見てからまた動くことにしましょう、ね?」
 彼女に対してランブルが話した。
「シャオリン様――その節は大変ありがとうございました」
 えっ、知り合い!? アムレイナとナナルは訊くとシャオリンは答えた。
「いえいえ、こちらこそ私の里の娘たちのために尽力いただいて――。 彼は迷子になった里の娘を探してくださったのですよ、 エターニス由来の血ということで、頼って正解だったようです。 そのお礼にと、彼のためにいろいろと提案させていただいたのですが、すべて断られてしまいまして――」
 それに対してランブルは照れた様子で答えた。
「ですが、プリズム族さんもなんとも押しが強いもんでして、 結局は駐在所新設のイベントの際にご飯を作ってもらうことにしたんですよ――」
 要は美女の作る手料理にありついたランブルたちだったということか。
「そっ、そいつはうらやましい……」
 ディアはランブルを睨めつけていた。
「はいはい、今度あんたのご飯を作ってあげるから――」
 ライアは呆れながら言うとディアは尻尾をぶん回していた、ありもしない約束――やっぱり女は怖い。
「ライアって意外とやるわね――」
「すごい――これが誘惑魔法の真の使い方ってやつかしら……?」
 レオーナとアルクレアは舌を巻いていた……えっ、そうなの? ――って、違う違う。

 次の日――
「おはようございます!」
 セレイナはにっこりとした顔であいさつした。
「あらおはよう。昨日は全然目を覚まさなかったわね、大丈夫?」
 最初はディアの背中に揺られていた彼女だったが、最後はそれも具合が悪くなっていて、 エルナシアについてからドミナントに至るまではずっと馬車の中でダウンしていた彼女だった。
「ごめんなさい、迷惑ばかりかけてしまって――」
 レオーナは答えた。
「でも、顔色がよくなったんじゃない?」
「はい! おかげさまで元気になりました!」
 満面の笑みで答える彼女、間違いなく美女の中の美女だな、2人はそう思った。 しかし、これがつまり、あのリアントスの彼女――バレてるし。
「彼って本当にすごいことしたんだと思うわね――」
「そうね。これで万が一彼女を泣かすようなことをしたら――」
 満面の笑みで答えるセレイナ……この彼女と双璧をなすほどの美人がもう一人、ネシェラである――が……
「まず、ネシェラに言いつけましょ?」
「そうね、確かに地獄を見せつける上では真っ当な手段ね――」
 女は怖い――ライアとレオーナはひそひそとそんな話をしていた。
「うーん……ふぁあっ……なーにー? もう朝ー?」
 この部屋で最後に起きたのはアルクレアだった。
「お姉様も起きたみたいね」
 ライアはそう言うとレオーナは2人を見て考えていた。
「……本当に全然似てない姉妹ね――唯一似ているのは顔つきだけ?」

 一方で、アムレイナとシャオリンとナナルとセディルはランブルと話をしていた。
「ほら、あそこにいるあいつですよ……。 ああやって、あちこち嗅ぎまわっているようなんです」
 と、ストリートでその様子を見ていると、 黒いマントに身を包んだ眼帯の男が歩き回っていた。 そいつがランブルが北駐在所で聞けた人物なのだそうだ。
「明らかに怪しいですね――」
「あんな人がドミナントに出入りしているのですか――」
 アムレイナは怪しんでおり、シャオリンは悩んでいた。さらにナナルとセディルは――
「怪しいのは怪しいけど、日中堂々といるって言うのも――」
「確かに、あれだけの要素では駐在たちも迂闊に怪しい者だとして連行するわけにはいかないですね――」
 考えていた。
「言われてみればそうですね、逆に目立っているほどとまでは言いませんが、 それでもあからさまって感じですね――」
 アムレイナも考えるとシャオリンも考えた。
「でしたら、何が狙いなのでしょう? 嗅ぎまわっているっていうだけでも気にはなりますね――」
 いずれにせよ、用心するに越したことはなかった。

 その日はライアとレオーナ、そしてセレイナが再び南駐在所へとやってきた。
「昨日はどうも。遺体の真相についてはまだ何もわかっていないのですよ」
 アウロディはそう言うと、ライアは頷いた。
「ええ、忘れていたんだけど、実はもう一つ気になることがあって。 マドラスってハンターがドミナントで亡くなったって聞いたんだけど、何か情報ある?」
 ん、そういえば――伝説のハンターの話でロイドが言っていたような気がするな。
「マドラス……ですか? はて、どこかで聞き覚えが――」
 アウロディは悩んでいた、そこへライアは伝説のハンターの件を話すと――
「ああ、”カイルフレアザード”クラスのマドラスですね!  確かに……それほどのハンターが急に亡くなるというのもなんとも妙な話ですね――」
 それについて、ライアは腑に落ちていなかった。
「それ、気になるんだけどさ、どうやってマドラスだって判断したの?」