一方、女性陣は元エデュート邸のリビングにて話をしていた。
シャオリンは久しぶりの仲間と話ができて嬉しそうだ。
”プリズム・シャドウ”族とはいうが、
見た目上は”プリズム・エンジェル”族や普通のライト・エルフとも違いが全然分からない。
確かに、”プリズム族の女性”であるからには24の美人のお姉さんであることは共通しているが。
しかし、そんな24の美人のお姉さんはアムレイナよりも2つ下の御年60歳! やっぱりプリズム族は魔女だ……。
「こんなにプリズム族の女性だらけで会いに来てくれるなんて――嬉しいですね。
それにナナルまで……白銀の騎士団は再開するのですか?」
別に再開というわけでは――アムレイナとナナルは悩んでいた。
「なるほど、シルルですか……」
すると、そこへ何者かがやってきた。
「あれ? お客様です?」
なんと、彼女もまたプリズム族だった、当然と言えば当然だが。
「あら、おかえりなさい。わざわざ買い出しに行ってくださってありがとうございます――」
シャオリンは嬉しそうに言うと、彼女もまた楽しそうに言った。
「いいえ、どういたしまして、ドミナントの空気もいいものです。
私は所詮は客ですから、働かざるもの食うべからず、どんどんこき使ってください!」
えっ……それでいいのだろうか……
「あっ、そうです、申し遅れました!」
彼女はそう言って態度を改めていた。
「私、ヴェラニス=フォーティアと申します! よろしくお願いいたしますね!」
ん? ヴェラニス=フォーティア? 何人かは悩んでいた。
「えっ、ヴェラニスってあなたまさか――」
アムレイナも驚いていた、そう訊くと彼女はにっこりとしていた。
「はい! そうなんです!
私はプリズム・エンジェル族ですが、今はヴァナスティアの聖獣ヴァリエスをさせていただいております!」
な、なんだってー!?
「まさか、同族から聖獣なる者がいるなんて――」
アムレイナは絶句していた。
「私も最初は驚いたんですけどね――」
シャオリンも最初は同じだったようだ。
ヴェラニスがここにいるのは単なる暇つぶしらしい。
「ヴァルハムスさんがこちらにいらっしゃるというので、どうせですから一緒に来ることにしたんですよ。
そしたらこの家からなんとも懐かしい甘い香りがしたものでして、向かってみたら彼女たちと遭遇したんですよ!」
それにしても、何とも気さくでよさそうな人である。
今でこそ彼女は人の姿をなしているが、聖獣ヴァリエスと言えば聖獣としてトランス・フォームした際の姿は”癒しのドラゴン”である。
癒しのドラゴン……癒しの精霊とも呼ばれるプリズム族なら適任か。
「暇つぶしとは言いながら、探し物をしているみたいなんですよ」
シャオリンはそう言うとヴァリエスは申し訳なさそうにしていた。
「いえ、別にそう言うわけでは……。
確かに探してはいますけど、みなさんまで巻き込むわけには――」
「いいじゃない? 何を探しているか訊いてみたいわね、聖獣様の探し物っていうのは……ちょっと興味あるわね――」
ライアが言うと他の者も同調していた。
「そうですか……? それなら、遠慮なく言わせてください。
私、”メシア”を探しているんです!」
メシア……その言葉にはセディルがすぐに反応した。
「なんと、あなたもですか!?」
”も”っていうのはつまり――
「そう、私は”古来種”のライト・エルフ……つまり――」
ヴァリエスは驚いた。
「まさか――エターニスの第4級精霊!?」
なんと、まさかのロイド達とは同郷の存在だった。
ライト・エルフで”古来種”と言えばエターニス由来なのだが、それがまさか第4級だとは……。
だが、先の話の通り第4級ということは、
上位の精霊のお使いかそれともはみ出し者であるかということだが――
「ええ――私は、私の母が精霊界から”メシア”を探し出すように言われまして、
この私が今は亡き母の遺志を継ぎ、今になってもなお人の多いアーカネルにて、
その存在をつぶさに観察しているのです」
この人、意外とヤバイ人だった。
”メシア”――その名の通り、まさに世界の救世主なる者を表す存在である。
世界を味方につけ、世界の邪悪に立ち向かうとされる伝説にして究極の存在なのだそうだ。
「精霊界が”メシア”を探せということは、それだけの事態が起きている――私はそう思っていますね。
精霊界がティバリスを粛清しようとしていたことまでは知っています。
ですが――それは断念せざるを得なかったと言ったほうが正しいのかもしれませんね――」
セディルがそう言うとライアが訊いた。
「ティバリスさんが……殺されたから?」
セディルは首を振った。
「精霊界はそんなことで粛清を躊躇ったりはしません。
死してもなお、その者の存在を抹消するために動くのが普通でしょう。
そうなると、ロイドさんやネシェラの処遇についても危ういものだったのかもしれません」
だけど――それは成されなかった? アムレイナは訊いた。
「上の者の決定なので詳しいところまではわかりませんが、
どうやら精霊界では恐るべき存在が生み出されたことを察知したようなのです。
それについては私にも話は届いておりまして、とにかく”メシア”を探し、
なんとしてでも恐るべき存在を斃せと念押しに指令が下ったのです。
これについては、他にもエターニスを飛び出した第4級精霊たちにも同じことが通達されているはずですので、
ランブルやサイス、クリストファーにも同じ話が届いているハズです」
「ロイドやネシェラにも……?」
ライアは訊くとセディルは答えた。
「彼らはわかりません。
第4級精霊としての啓示を受けていませんので、恐らく、そのような話は通じていないハズです。
とにかく、ティバリスが飛び出したことがきっかけでむしろ”メシア”を探すための目が増えたことも事実――
つまり、お咎めなしという結論に至ったのだと思います」
「そうですか、探す目が増えたというのは大変心強いですね。
私は癒しのドラゴン……そう、この世に”メシア”がいる気配を感じるのです、
ですから、あの地に現れた破壊の悪魔、あいつが現れるようなこの現状を何とかしてもらおうと考えているのです――」
と、ヴェラニスは深刻な面持ちで言った。なるほど、そう言うことか――だが、セディルは楽観的だった。
「大丈夫、”メシア”の目星は既についていますからね。
私たちは今後の行方を見守りつつ、そして流れに任せてことを成し遂げるだけで十分なのです。
もちろん、”メシア”が行くというのなら私もついていきます……ただ、それだけのことですね――」
なんと、それだけの大いなる存在をもう見つけたとでもいうのか――
いや、そう言われるとなんか心当たりがあるようなないような――?