アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第140節 世界の守り神たち

 エデュート邸へとやってきた彼女ら、 確かに、貴族の家と言わんばかりの立派な佇まいのその家の扉をノックすると、 1人のプリズム族が現れた……プリズム・シャドウ族だ。
「あっ、えっと、シャオリンはいますか?」
 アムレイナはそう訊くと、そう言われた彼女が現れた。
「……まさか、アムレイナなの!?」
「シャオリン!」
 2人はそのまま玄関先で抱き合っていた。

 その一方、男2人は森のほうへとやってきた。
「サーディアスー! 何処にいるんだー!」
 ディアはそう言いながら探していた。
「このような森の中にいるんですね――」
 ランブルは訊いた。
「聖獣は町の外からデンと構えて町を見守るのが自然なんだそうだ。 つっても本当に外だと危ないからあくまで町はずれの森にいるってことみたいだけど。 俺は町の中にいるからその辺の感覚はよくわからないんだよなぁ……」
 ディアはそう言った。すると、いきなりデカイ丸い物体が目の前に出てきた。
「ん!? まさか、これがサーディアスですか!?」
 ランブルはそう言うが、ディアは驚いていた。
「ちっ、違う! サーディアスはこんなにでかくないけど……」
 というと、その丸っこい物体はゆっくりと動き出し、こっちに顔を見せていた……どこかで見たことのあるシチュエーション――
「えっ!? これはまさか……ウサギ!?」
 そう、この物体の正体は――
「うおおおおい! ヴァルハムス! どうしてここにいるんだぁー!?」
 そう、現聖獣のヴァルハムスだった。 見た目こそディアと似たようなでかくて丸っこいウサギだが、 そのたたずまいはディアとは比べものにならないほど貫禄のある佇まいだった。
「なんだ、ディラウスか、お前もここにいたんだな。 てっきりアーカネルでずっと女の尻でも追っかけているとでも思ったぞ――」
 うっ……ディアは図星を突かれた。
「まあ――職人道を極めるために精進しているというのならそれ以上は言うまいが――」
 いいんですか……ランブルは呆れているとヴァルハムスは頷いた。
「私も昔はそんな感じだったからな」
 うそーん……貫禄のあるイメージとのギャップ……しかも聖獣なのに……ランブルは悩んでいた。 それよりも、ヴァルハムスと対峙しているのは、彼と同じぐらいの大きさの大きな狼だった、 流石に丸っこくはないが、白銀の毛並みを整えた美しい狼……サーディアスだ。
「なるほど、キミが次の世代のディヴァイアスなんだね!」
 話し方からなんとも若そうな印象のサーディアスである。
「そっちのエルフは……”第4級精霊”かな?」
 ヴァルハムスはそう言うとディアは驚いた。
「えっ!? ランブルって第4級だったの!?」

 精霊族の階級には第1級から第7級までがある。 普通にアーカネルの世に住んでいるような精霊は基本的には第5級精霊である。 つまり、ライアもシュタルは言うに及ばずだが、ロイドもネシェラも第5級のハズ……ではなく、
「ティバリス=ヴァーティクスは4級だよね、ティバリスには少し前にお世話になったよ。 もちろん、その子らもここには来ているよ、とってもいい子たちだ――」
 と、サーディアスは嬉しそうに言った、つまり――
「あの2人も第4級精霊だったのか――」
 ということである。ヴァーティクス家は第4級精霊の一家なのである。 第4級精霊はさらにその上位の精霊のお使いみたいな立場である、 つまり、エターニスから離れず、精霊界の思惑により行動を遂行するのが主な役割となる。 数値の通り、それだけに第5級精霊よりも上位の存在となるのである。
「でも、どうして第4級精霊がこんなところに?」
 ディアはそう訊いた。言ったように、第4級精霊はエターニスから離れるハズがないのである。
「ティバリスさんが外の世界に遣わされたからですよ。 アーカネルの世に相応しい精霊として、 魔法の力よりも腕力で勝る戦士だったティバリスさんに上位の精霊たちがとある使命を与えたのです。 その役目は果たされたようですが、ティバリスさんはそのまま外の世界を偉く気に入ってしまいましてね、 要するに、そのままはみ出し者としての烙印を押されてしまったのですよ――」
 しかし、その流れはとどまることを知らず――
「なるほど、ということはあのティルフレイジアもサイスもクリストファーとかもそうだってことだな。 で、ティバリスが外の世界に行ったことに感化されてみんなで外の世界に飛び出すようになった……」
 ディアはそう考えながら言うとサーディアスは嬉しそうに言った。
「だけど、自分たちは第5級精霊だって言い張っていてね、第4級精霊として生まれ出ている以上は変えられようがないのに―― でも、それを押してでも、この世界に生きているってわけだから、彼らにはやりたいようにやらせるのが一番だよね!」
 エターニスにいる精霊ってことは、 それだけ力差の関係があるわけだからランブルはヴァーティクス家を敬っているということか、ディアはなんとなく納得した。
「精霊の掟を破ったのか、それでも”粛清”されないあたり、何か違う力が働いているの?」
 ディアはそう言うが、サーディアスは首を振った。
「いや、実はティバリスは粛清されることになったんだ。 だけど、実際にはそうなる前に死んでしまった――上位の精霊たちは死んだのならと粛清することを辞めたようなんだ。 でも、それっていうと実は精霊界的には本当はよろしくないことで、 単に命が尽きてしまったのと粛清されたのとでは意味合いが全然違うんだ。 粛清はそのものの存在を世界を管理している者のレベルで否定すること―― 最初からいなかったものとして扱うんだ、だからティバリスが死んだというのは恐らく彼自身が考えたこと―― 自殺ではないけれども、アーカネルに起きている事態を解決するべく自分の子供に残したメッセージのようなものと捕えるべきものなのかもしれないね――」
 自分の命を賭して――どうせなくなる命なら意味のある最期にしたい――なんだか壮絶な最期な気がしてならない。
 ちなみに、第3級精霊以上はさらに上位の精霊であり、 エターニスの奥にある精霊界からこの世界を管理しているのである。 そもそもこの世界には世界創世のローアの時代で唯一無二の神が没しているとされている。 これについてはヴァナスティアの教えにもあり、その名を”創造神ユリシアン”と呼ぶ。
 そして、神の代わりに世界を管理しているのがこの上位の精霊たちであり、 文字通り、世界の裏側から世界を管理しているのである。 中でも第1級精霊というものがおり、これが事実上の神の役割を果たす創造”神”ならぬ創造”精”と呼ばれている。 なお、”創造精と呼ばれるものがいる”ということについては一応知っている者はいるが、 精霊界のそういった事情についてはアーカネルではほぼ知られていない。
「ティバリスさんが粛清されなかった理由……いや、そういうものではなかったような気がするのですが――」
 ランブルはそう考え悩んでいた。
「ん? どういうこと?」
 サーディアスは話を聞いた。