誘惑魔法――これで異性を思いのままに操ることが可能ということか――
「セレイナ、背中に乗せてもらいなさい」
アムレイナはそう言うと彼女は遠慮がちに言った。
「えっ!? いえ、私は大丈夫です――」
だが、アムレイナは言った。
「セレイナ、あなたは今の身体になってまだまだ慣れていないのではありませんか?」
えっ……その話は他の誰かにしたことがなかったセレイナは驚いていた。
「あなたから感じるものは私たちの持つそれよりも大きなものですが――
でも、基本的には私たちと同じ身体であることはわかります、
以前とは明らかに違うものであることも……」
えっ、どういうこと!? ライアは訊くとアムレイナは答えた。
「彼女の存在は私たちが最初に出会ったセレイナとは明らかに違うセレイナです。
ですが――どうやら私が見る限り、その変化は彼女にとってはすごくありがたい変化だったように思います、
以前よりもなんだか嬉しそうな顔をしていますからね」
すべて見抜かれている――セレイナはドキっとしていた。
「つまり、セレイナは――プリズム・エンジェル族になったってこと!?」
ライアは核心を突いてきた。
「何をどうやってプリズム・エンジェル族に転身できたのかはわかりませんが、要はそういうことです。
ですが、まだ今の身体に慣れているわけではありませんので、ディアさんに乗せてもらいなさいと言ったのです」
馬車でなくてあえてディアさんというのは――
「彼の脚力には目を見張るものがあります。
ちょうどいいですから偵察にでも行ってもらいましょう。
手綱はセレイナにお任せしますね」
そういうことか――流石に計算高いな、プリズム・ロード・アムレイナ様。
ウサギはセレイナを背に元気よく楽しそうに西の大平原へと飛び出していった。
「偵察でしょ!? 何処まで行く気!?」
アルクレアは呆れていた。
「ちょっと暴走癖があるようですね……。
かといって、これ以上この能力で心を縛り付けるわけにも参りません」
アムレイナは悩んでいた。それについてはナナルが説明した。
「誘惑魔法は術者への依存性の高い魔法で、
最悪の場合、術者にすべてを――身も心も奪われ、そのまま元に戻らなくなってしまうこともあるんだっけ?」
つまり、そうならない絶妙な加減で使ったというわけか――聞けば聞くほどすごいぞプリズム・ロード・アムレイナ様。
「それに、色ボケウサギだからね――女の子の言うことならホイホイ聞いてそう――」
レオーナはそう言うとライアは悩んでいた。
「そうなのよ、あいつ、男女で反応が180度違うのよ。
ある意味ネシェラのそれと同じようなものだけど、あいつのはあからさまなのよね。
ロイドが頼んだことは嫌がっていたくせに、私が同じことを頼んだら手のひらを返すように二つ返事でやってくれるのよ。
その分には何でもしてくれるからありがたいっちゃありがたいんだけど、なんかだんだん腹が立ってくるのよね――」
「ふむむ……なるほど、それはディア君おしおきが必要だなぁ? ネシェラちゃんは知っているのかな?」
アルクレアはそう訊くとライアは呆れながら答えた。
「もちろんよ。
でも、ネシェラはその辺ちゃっかりしていて、狡猾と言えるほどにあれこれ頼んでいるわね」
流石だ――アルクレアは舌を巻いていた。
とにかくパタンタから馬車が出る頃、ランブルの馬車も出始めていた。
「まずはアルトレイに行くのでしょう?
先導しますよ――先に飛び出して行ってしまった者もいるようですが……」
ランブルはにっこりとした面持ちで言うとアムレイナが言った。
「それなら、一緒にお供いただけません?
あなただって流星の騎士団に配属されたばかりなのですから、徒党を組んでもよろしいのでは?」
ランブルは考えた。
「そうですね、そういうことならばぜひ。
その前にまずは一度自宅に戻らせてください」
ランブルが加わった。どこぞの色ボケクソウサギとはまるで違う。
するとその道中――どこぞの色ボケクソウサギが急いで引き返してきていた。
「あら? あの様子じゃあ、なーんか変なのがいる感じ?」
ナナルがそう言うとレオーナが訊いた。
「どうしたのよ?」
ディアは答えた。
「やばいのがいるぞ! とにかくみんな、戦闘だ!」
素面なのか誘惑魔法の影響を受けているのかさっぱりわからない。
実際、もともと色ボケクソウサギなやつならあんまりその差がわからないという。
「なんか妙な空気ですね――みなさん、急ぎましょう!」
ランブルはそう言って馬車を急がせるとアムレイナたちの馬車と色ボケクソウサギも急いだ。
そして、その現場には例の合成獣が騎士団と対峙していた。
騎士団はボロボロの状態で苦闘していた……。
「やるしかないわね!」
ライアはそう言いつつ馬車から飛び出してくると、それよりも先にナナルが飛び出してきており、
二刀を構え得意げな表情で合成獣に激突していった。
「この間久しぶりに戦って、昔を思い出したからねー! せっかくだからあなたも私の相手をしてもらえるかなー♪」
その手振りも表情も戦い方もまさに娘のシュタルと同じスタンスだった。
だが……そこは流石に伝説に名を遺すほどの御仁、その能力は圧倒的だった。
「ふふっ、魔法というのを教えてもらって早速試したい技があるんだけど実験台になってもらえる?」
すると、ナナルはまったく肉眼ではとらえられないほどの超絶スピードで相手を猛烈に切り刻んでいた!
「なっ!? 何あれ!?」
ライアは驚いていた。
「おやおや、流石はナナルですね、昔の腕は全く衰えていませんか。これでは私の出る幕はなさそうですね」
アムレイナはにっこりとしながらそう言った。
「えっ!? でも、お母様!」
アルクレアがそう訊くとアムレイナは言った。
「あなただって彼女と同じような状況でしょう?
みなさんへのあいさつ代わりにその腕を見せてあげてはいかがです?」
そう言われると――アルクレアは馬車を飛び出していった。
「それもそうね、風雲の騎士団元メンバーのこの私の腕を見せてあげないといけないわね♪」
それにはライアが反応するが――
「いいから、ライアはそこで見てて。
私の戦い方というのを見せてあげるからね♪」
と、アルクレアはナナルに続いて魔物へと突撃!
それと同時にナナルは――
「”シャドウ・ステッチ”!」
合成獣の影を地面に縛り付け、身動きとれないようにした!
「さあほらアルクレアちゃん! あとはよろしくねー♪」
ナナルは嬉しそうに言うとアルクレアは剣を握りしめ――
「ええ! いくわよ――<コキュートス>!」
剣から吹雪が放たれると合成獣は氷漬けに! そこからそのまま――
「喰らいなさい! シルヴァンス・レイド!」
剣の周りを吹雪がまとい、凍てつく冷気によって殺傷力を増した剣先が合成獣に襲い掛かる!
そして、合成獣はそのまま惨殺されたのか凍死したのか――よくわからない状態になっていた。
「なるほど、ロイドが”雪女”って言っていたのがよくわかるわね――」
ライアはいよいよ納得した。