ルルカ=ラクシュータ、プリズム族の長。
何処からどう見ても適齢期のお姉さんという見た目でしかないのだが、
そう見えて実は御年74のお婆様、アムレイナよりもさらに12個も年上――まさに魔女が魔女と呼ばれる所以である。
とにかく、彼女らはお城へと向かっていた。
「懐かしいですね、ちっとも変わってない――」
ルルカはお城を見上げ感傷に浸っていた、古き良き古城がそこに堂々と佇んでいたのだ。
「長、ここにはいらしたことが?」
リリアンがそう訊くとルルカは答えた。
「もちろんです。
当時の私は”プリズム・テラー”として――あなた方と同じ”プリズム族の番人”として、
当時の里長のいいつけの通り、当時の不穏な情勢を調査するためにアーカネルにおりることになりました。
そのようなことは前代未聞のこと、
リリアン――あなたと同じようにアルティニアの港へと赴く程度がせいぜいである私たちの掟、
ですが、当時の長は何かを感じ取ったのでしょう、アーカネルまで行って私に調査を頼んだのです」
リリアンは”プリズム・テラー”と呼ばれる”プリズム族の番人”としての使い手である。
無論、番人は1人だけというわけではないが、えりすぐりのプリズム族の実力者を選出し、里を守るための番人を務める者、
やがてはその者の中から里を治める長が選ばれる――それが彼女らの掟である。
「アルティニアの港へと赴く程度がせいぜいって……遠出は禁止されているの?」
ライアはそう訊くとレオーナは考えていた。
「そういえばネシェラからいつだったか訊いたことがあったわね、
プリズム族の女性は妖魔なる存在……つまり、妖かしの血を以て異性の気を引く種族だって。
もしかして、その能力を抑えるために?」
ルルカは頷いた。
「ええ、まさにそういうことです。
言ってしまえば私たちの血が持つこの能力はまさに世の中をかき乱すことすら可能とする禁忌なる力――
安易に世の中に出すことは躊躇われる力と言うことです。
里の娘たちの多くはその力をうまく制御することすら叶いません。
ゆえに、里の娘たちについては原則、里から出ることは禁じているのです」
ただし、来るものは拒まず、つまり――
「なるほど、プリズム族は女社会、基本的に女ばかりで成立しているから男がいないってわけね。
だからよその種族の男を捕まえて種族繁栄を狙っていくと――ネシェラが睨んだ通りの文化ってわけか――」
と、ライアは考えながら言うとルルカはにっこりとしていた。
「まあ、そういうことですね。
詳細は省きますが、それが私たちの能力であり、誇りでもあるというわけです」
でも――里の外にいるプリズム族は? それについてルルカは話を続けた。
「一方で、自らの血が持つ魔性を克服し、抑えるすべを持つ娘ももちろんおります。
そういう者は里の外に出ても恥ずかしくないような娘へと育てます。
そして一人前になると、里の番人として、里を守りつつエモノ……いえ、
よその種族の男を里におびき寄せるようなことを考えたりする役割を担ったりもしますね」
おっと、つい本音が出てしまったようだ。
なるほど、妖かしの血を以て異性の気を引く種族というわけか。
「でも、里の外だからと言ってそう簡単に羽目を外したりしませんからご安心くださいな♪ うふふっ――」
なんか怖い。
主に男どもの視線が気になる彼女らだが、当の本人たちはそんなことは気にせずお城へとやってきていた。
「まさか、ルルカ……?」
アムレイナはちょうどお城の1階ホールへとやってきていた。
「アムレイナ――久しいですわね――」
お互いに抱き合い、再会を喜んでいた。
「ここを離れてからどのぐらい経つの?」
アムレイナはそう訊くとルルカは答えた。
「あなた方”白銀の騎士団”が結成してから8年後に当時の里長が倒れました、
それ以来ということになりますね――」
なんと、ルルカは当時アーカネルの執行官長を務めていたこともあった人物なのだという……偉いこっちゃ。
「随分と長い時間が経っていますね。
でも――私はこの通り、ずっとアーカネルに――里の外で暮らしております」
ルルカは頷いた。
「あなたは伝説のプリズム・ロードに相応しき者、当時の里長もそれを見抜いておいででした、
だからあなたを里の掟から放ったのです、そして今はこうして過ごしているところを見ると、その選択は正しかったようですね――」
アムレイナは応接室へと促すと、話を続けた。
「ところで、”白銀の騎士団”は解散しましたが、まだ活動しているのでしょうか?」
ルルカはそう訊くとアムレイナは答えた。
「騎士団というより、騎士が個々にという状態ですね――」
ルルカは考えていた。
「……シルルですか――正直、彼女についてはあまりよくわかっていないところがありますね。
ただのプリズム族にしては――力がありすぎるようにも思います……」
そう言われてアムレイナは考えていた。
「確かに、私もそう思います。
よくナナルが話していました、シルルはすごいって――
だけど、どうして彼女がそんなにすごいのか――
エデュードの家に拾われて育った彼女、そもそも彼女は何者なんだろうか――
わからないことが多すぎるようです」
そう言われると――ライアは言った。
「そんなすごい人物がいるのね、私なんかは噂でしか知らないけど。
そうねぇ……例えて言うなれば、ネシェラみたいな感じ?」
その言葉にはアムレイナがすぐさま反応した。
「そうそう、私の活動についてはすべてネシェラに一任しております。
あの娘の能力はずば抜けています。
それこそ、かの伝説のプリズム・ロード、イセリア・シェールに近しい存在かもしれません――」
そう言われてルルカは考えていた。
「なるほど、やはりあなたもそう思いますか。
しかも、万物の作り手・シルグランディアとしての才をも持ち合わせているとか――」
セレイナも頷いていた。
「ネシェラさんはすごいんです! 私もいろいろと助けられています!」
「ネシェラだったら伝説に名を残してもおかしくはないわね」
「そうね、ネシェラに最強女を名乗られたら――納得するしかないわね」
「ネシェラ執行官様に任せれば間違いない! うん、そうだそうだ!」
ライアとレオーナとアルクレアも楽しそうに言った。
「なるほど、必要なピースは大体そろっている感じですね。
そしたら後はシルルですか――」
ルルカは再び考えていた。
「ドミナント、孤児――」
アムレイナは頷いた。
「やはり、久しぶりにシャオリンに会ってみるのがいいかもしれませんね――」