そのころ、アーカネルでは――
「うーん……」
スティアは悩んでいた。
「どうしたの?」
櫓で一緒に見張りをしているレオーナが訊くとスティアは話した。
「いやな、アルクレアさんって命狙われているんじゃないかなってな。
なのになんでネシェラやロイドやリアントスのやつは大丈夫って思ってるんだろうなって思ってな――」
レオーナはため息をついていた。
「じゃあ、彼女が命を狙われかねないような理由ってどんなことだと思うの?」
えっ、それは――スティアは悩んでいた。
「そっ、そりゃあ……とんでもない秘密を知ってしまったとかか? 確か、そんな感じに話をしていたよな?」
レオーナは腰に両手をあてて言った。
「ま、大体相場はそんな感じに決まっているわよね。
でも彼女、知っているように見えて?」
それは――スティアは腕を組んで考えていた。
「いや、そいつは知らねーが、それでも命を狙っているやつにしてみればんなこと知ったこっちゃねえことだと思わねえか?」
レオーナは得意げに訊いた。
「それはそうよね。
でも、もしそれだけのとんでもない秘密だったらさ、
アルクレアさんが私たちみんなにその秘密をばらしている、
そう考えないものかしら?」
えっ……それは……スティアは固まった。
「てことは……つまり、俺らも命狙われる可能性があるってことじゃないか!」
レオーナは両手を広げて呆れたような態度で答えた。
「ええ、まさにその通りよね。
でも、それっていうのはことと次第によってはアーカネル騎士団に対して宣戦布告をするのと同じことになるわけよ。
つまり、アルクレアさんが私たちの手にある以上は連中もそう考えているハズ、
だから連中としては迂闊にボロを出すことなく現状の状態を保つしかないってことになるわけよ。
ということになると、彼女の安全もとりあえずは保証されているようなもの、そう考えられないかしら?」
なるほど! スティアは大いに納得していた。
「そういうことか! レオーナってスゲーな! よくそんなこと考えられるよな!」
「あのねぇ……今までそういう話をしてきたの! あんた今まで何を聞いていたのよ!」
もはや突っ込まずにはいられないレオーナに対し、スティアは驚いていた。
「えっ、そうだったのか!?」
こいつ――このまま櫓から突き落としてやろうか……そう何度も頭によぎったレオーナは呆れかえっていた。
そんな渦中のアルクレアだが、実家ではなくティンダロス邸でのびのびとしていた。
「ここがネシェラちゃんの使っている部屋なのね!」
アルクレアは嬉しそうに言った。
「そうなんです! 私も一緒に使わせてもらっています!」
セレイナは嬉しそうに答えた。
「そうなのね、ネシェラちゃんって、やっぱり女の子に人気があるんだね!」
やっぱり昔からそうだったのだろうか、ライアはそう訊くとアルクレアは答えた。
「そうみたいね、
友達ができてからは相手のほうから一緒に遊ぼって誘ってくるぐらいだったからね。
もっとも、小さい頃の彼女といたのはたったの3年だけど――
それでも、彼女との3年間はとっても楽しかったわね。
私もライアやお母様とも離れててちょっと寂しかったから、
ネシェラちゃんにすごく助けられたわね――」
ライアはさらに追及した。
「うん……そうなのよ、私が寂しそうにしているとネシェラちゃんが甘えてきてくれるのよ。
そしてしまいには――アルクレアお姉様、私についてきて! 私と一緒に遊ぼうよ!
……って誘ってくれるのよ。
そうは言いながら、結局遊んでいるのは私と他の子たちばかりで、
ネシェラちゃんは輪の中心にいながらも、いっつも1人で違うことをしてた。
でも――それが本当にすごいことで、いろんなものを作っているところを見て、みんなを沸かせていたのよね。
あの頃からなんだか不思議な子だとは思ってたけど、つまりそれが今でも続いているってわけなのね――」
と、彼女は既に商品化されているセラミック製の武器の束を眺めながらそう言った。
なるほど、その頃から安定のネシェラということか、2人は納得していた。
「そうなのね! それなら、私やセレイナと同じってわけね!」
ライアは楽しそうに言うとアルクレアも楽しそうに言った。
「そっか、みんな同じなのね。
だったら今後は私もネシェラちゃんにうーんと甘えちゃおっかなー♪」
そして本当に全員をしっかりとまとめていくからあの女ヤバイ。
その後、3人はアルティ門にてレオーナと合流した。レオーナはなんだかイライラしていた、当然、あの彼のせいである。
「あいつって前々からあんななの!?」
ライアはため息をついていた。
「だからあいつ、私らよりも階級がいっつも下なのよ。
がんばってはいるようだけど、ネシェラからも”お前にはまだ早い”って言われてことごとく中佐位への昇級の話について却下されているし。
腕だけは確かで特攻隊長として先陣を切る役目には向いているけど、せいぜいそのぐらいってところね――」
ライアからいろいろとエピソードを聞かされてレオーナはさらに呆れていた。
「やれやれ、あいつと一緒にクレメンティル組を見張り台から見送る役を買って出たのは間違いだったってことね――」
だが、それに対してセレイナが――
「いえ、そういう人とならむしろしっかりした方が一緒にいたほうが安心できますね――」
と、はっきりと言った。なるほど、それはそれで必要になるわけか。
アルティ門から移動しようとした際、町の外から女性が1人そこへやってきた。
その女性には見覚えがあった。
「あれ? リリアン?」
アルクレアはそう訊くと彼女は答えた。
「どうも、ご無沙汰しています、みなさん、アルクレアさん――」
なんとも落ち着いた女性だった、リリアン=ラクシュータ……
兄サイスのイメージにもぴったり当てはまっている、似た者兄妹ということか。
さらにそこに、もう1人似たような印象の女性が現れると――
「あれっ!? もしかして、長!?」
アルクレアが気が付いた。長とは言うが、見た目はやはりアルクレアやアムレイナとさほど変わらない年齢に見える……プリズム族故の特性である。
「アルクレア、元気そうにやっているようで何よりです。
身の安全が保障されたようでよかったですね。
それより、今日はアムレイナに用があってやってまいりました。
こちらにいらっしゃるのでしょう?」
ライアが答えた。
「お母様なら城にいるけど――」
それに対して長は嬉しそうに言った。
「まあ! あなたがアムレイナが生んだ2人目の娘なのですね!
こうして会う日を楽しみにしていました!」