アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第130節 伝説の名をかたる男との公式セッション

 クレメンティル大聖堂、建物の中は外観のなんとも言い難い荘厳さとは裏腹に、 シンプルで一切飾りっ気のない通路が続いていた。 礼拝堂は正面こそなんとも言えない豪華さが目立つが、 それ以外はドシンプルというに相応しい質素な装いだった。 まあ、そんなものなのだろう。
 そして――
「この奥か、抜き打ち訪問の利かない場所は――」
 そこは聖堂騎士によって守られている通路だった、関係者以外立ち入り禁止というやつである。 何かあるとしたらもちろんあの中だろうが、やっぱり許可がないと入れなさそうである。 ロイドはそう言うとネシェラは頷いた。
「仕方がないわね、尻尾をつかむまでお預けってところね。 でも、せっかくだから一通り見れるところだけ見てから考えましょ。」
 それにしても、なんとも仲の良い兄妹である。
「さあどうぞ、お通りください――」
 そして、その奥へと促されるまま入ると、しばらく経ってから二手に分かれた通路を曲がるように促された。 もう片方の道は騎士が行く手をふさいでいた。 それだけではない、行く道行く道騎士がふさいでおり、まさに関係者以外立ち入り禁止といったところなのだろう。 しかし、そこはただ警備をしているだけなのだろうか、それとも――

 そして、広い空間の場所へとやってきた、ここは何をする部屋なのだろうか。
「わざわざヴァナスティア様とアーカネル様がいらっしゃるなんて――」
 そこにいた司祭、恐らく高司祭と呼ばれるものなのだろう、 その人が祈るようにそう言うと、例の聖女っ子のエスティアも祈りを捧げながら言った。
「いえいえ、此度のクレメンティルの教えに通ずる2人の尊い命が失われ、 そして先の大戦――アルクラドの地における戦死者のために、こうして赴いてきたに過ぎません――」
 そこへクリストファーがシャービスを伴って現れた。
「サイス――久しいな。 わざわざアーカネル騎士たちまでやってくるとは――そうだな、まだ戦死者の霊が鎮まったと考えるのは時期尚早か――」
 サイスは首を振った。
「いえいえ、彼らは祖国を守るためにと頑張ったのです。 あの憎き破壊の悪魔ウロボロスを斃すために頑張った者たちです。 と――そう美化して言うのは簡単ですが、そっちのほうが正しいのかもしれませんね。 それより、今回アーカネルとしてはトラキアス司祭の件でやってまいりました。 ご存じの通り、彼はアーカネルにおいてクレメンティルの教えを直に広めていた方で、 特に命の尊さについて説いておりました。 そのような方がアーカネルから去ってしまったというのは大きな損失――せめて、 アーカネルのためにと尽力いただいた方のご冥福をお祈りしようと、こうしてやってきた次第にございます――」
 それに対してクリストファーが何それとなく訊いた。
「ふむ――それは果たしてそうなのかどうか…… 時に、アーカネルではクレメンティルの一信者に過ぎない者を投獄していると聞く、 だからもしかして、我々を怪しんでいるのではないかと思っていたのだが――」
 それにシャービスが反応した。
「何!? それは本当か!? どういうつもりなのだ!?」
 ネシェラは堂々と答えた。
「それはクレメンティルがどうだということとは関係のない話よ。 彼への嫌疑については純粋に職務上の機密情報を口外したということで取り調べを受けてもらっているだけよ。 流石に機密情報をバラしといてよしとするわけにはいかないからね。」
 クリストファーは悩みながら言った。
「なるほど、そういうことか……。 ルールを破ったのであれば致し方あるまい、そういう者には正当な処罰を与えねばなるまいな―― いやいや、疑ってしまったようで申し訳なかった、てっきりそういうことかと思ってしまってな――」
 クリストファーは悪びれた様子でそう言いつつ、今度はシャービスの肩をたたいて言った。
「そうだった、忘れていたな。 この者はシャービス=ディランゾという――昔はハンターをやっていたそうだが、 今はこうして我らが聖堂騎士団の長をやってもらっているのだ」
 シャービスはかしこまって話をした。
「すまん、悪かったな。 一部にはすでに言ったと思うが、俺はシャービス=ディランゾという――」
 それに対してアレスも答えた。
「俺はアレス=ティンダロス、流星の騎士団のリーダーをやっています。 よろしくお願いします!」
 アレスは爽やかなあいさつで返していた。その名前にシャービスが反応した。
「ティンダロス? どこかで聞いた名だな――」
 それに対してリアントスがおちょくるように言った。
「流石は我らがリーダーだな、昔は伝説のハンターと呼ばれたことのある男にも名を覚えられているとは――」
 そう言われてアレスは困惑していた。
「はっはっはっ、シャービスよ、その者だけではないぞ。 ほれ、そこの――ダーク・エルフの男と女がいるであろう?  その2人はランバート=ヴィームラスとシュタル=ヴィームラスなのだ」
 クリストファーにそう言われて当事者の2人は驚いていた。
「まっ、マジかよ……クリストファー様に名前を覚えてもらえているとは――」
「なっ、なんか意外……」
 クリストファーは頷いた。
「それはそうだ、私の依頼をこなしてくれたのだから当然のことだろう、それも親子2代に渡ってな――」
 親子2代!? シャービスはさらに悩んでいる様子だった。
「思い出せぬのか? ならば、これならどうだ?  そこにライト・エルフの男と女がいるだろう?  名前はそれぞれロイド=ヴァーティクスとネシェラ=ヴァーティクスというのだ」
 と、クリストファーが言うと、シャービスは驚いていた。
「ん……なっ!? ヴァーティクスだと……!? まさか――」
 ロイドが調子よさそうに言った。
「ほう……あんたほどの存在にその名を知られているとは光栄だな」
「そうね、驚いているようだけど、どうしたのかしら?」
 シャービスは我に返ると、何それとなく答えた。
「いや、昔のことを思い出してな、お前たちの親父のことだ――」
 ロイドは腕を組んで答えた。
「親父のことを知ってくれているのか?」
 シャービスは呆れ気味に答えた。
「ハンターだったからな、一時期徒党を組んでいたことがあった、それだけだ――」
 なんともそっけないな。