ところが――次の日になるととんでもないニュースが舞い込んできた。
「やれやれ、闇はずいぶんと深そうね――」
ティンダロス邸のリビングにて、ネシェラは呆れ気味に言うとその場を去って行った。
「どうしたんだ?」
リアントスが訊くとロイドが言った。
「昨日、クレメンティルが怪しいって話しただろ? その矢先のできごとだ――」
ロイドは新聞を見せるとリアントスは――
「なんだ? クレメンティル教のトラキアス司祭とガルデス司祭が魔物に襲われて死亡!?
んだよ、つまりはトカゲの尻尾切りってわけか」
呆れていた。ロイドも呆れていた。
「しかも遺体はさっさと火葬しちまったそうだ、随分と早い葬儀だな、まるで何かを隠しているようにしか見えない」
「あり得ねえ……一応クレメンティルのお偉いさんになるのにもう焼却しちまうのか?
イナカでも最低でも3日は”お別れ会”をしているもんだぞ?」
ランバートも呆れていた。
「魔物にやられた傷が激しく、苦しんだ姿をさらすのは当人のためにもならないので早めに火葬しました――
もっともらしいと言えばもっともらしいけど、それでもいくら何でも亡くなったタイミングが変なタイミングだよな――」
アレスは記事を読みながら悩んでいた。
そんなこんなで次に流星の騎士団が集まった際の新たな指令と言えば、クレメンティル訪問である。
「殴り込みってわけじゃねえが、公式訪問って建前で敵地視察ってわけだな」
ロイドはそう訊くとネシェラは頷いた。
「まあそんなとこ。
今回は再び聖騎士団にもご助力を得て、ヴァナスティアが直々に2人の司祭の冥福を祈りに行く建前よ。」
用意周到だな、非常にもっともらしい手法を使って行くわけか。
クレメンティル大聖堂はアーカネルの東、例のフィダン方面へと向けて出発する。
無論、このルートはアルティニアに行く時にも使用するルートとなるが、
クレメンティルに行く場合は途中の分岐路を右に進み、森の中へと入っていくことになる。
途中に宿場町があるが、そこを通過したらもう少しだ。
そして――そこには荘厳なる佇まいの聖堂があった。
「ようこそおいでくださいました、ささ、こちらへどうぞ――」
1人の司祭が案内してくれた。
「公式訪問じゃあ抜き打ちチェックってわけにはいかないよな――」
ロイドは言うとネシェラが答えた。
「そう――公式訪問の欠点はそこね、抜き打ちチェックができないところよ。
そのせいで私としてもあんまり前向きじゃないけど、まあ今回はタイミングがタイミングだからね、
念のために連中の顔色だけでも確認してこようかと考えたわけよ。」
公式訪問自体は過去に何度か――もちろん、新年一発目の行事みたいなものを毎年しているのだが、
ネシェラの言うように、抜き打ちチェックがしたい彼女らにしてみれば公式訪問でなんやするのは得策ではないというわけである。
だが、今回は――
「なるほど、流星の騎士団ですか。
あなた方はこのアーカネリアスを平和に導こうという、つまりは正義の使者というわけですね。
我々はあなた方のような存在と共に生きることができて幸せだ、そのことに感謝しなくてはいけませんね――」
司祭らしき存在のところに案内されると、その人はそう言って優しく話していた。
するとそこへ――
「ほう、なるほど、流星の騎士団か――」
そこに騎士らしき風貌の男が現れた。
「おお、これはちょうどいいところに。
流星の騎士団殿、こちらは我がクレメンティルの聖堂騎士団のリーダーを務めているシャービスという者です」
えっ、シャービスって確か――ロイドとリアントスとスティアがすぐに反応した。
「何だって!? まさかあんた――シャービス=ディランゾか!?」
「伝説のシャービス=ディランゾ……見かけないなとは思ったが、まさかここにいたとは――」
「スゲェ! 本物かぁ!?」
そいつは伝説に名高いハンターとして有名な男だった。
そうだ、以前にクロノリアに行く際にロイドがしていた話に登場したやつだった。
それに対してシャービスは悩んでいる様子だった。
「ほう、俺のことを知っているとは――そうか、お前たちはハンターだったのか。
だが、そんなの昔のことだ、忘れてくれ――」
そう言い残してさっさとその場から早めに去って行った。
「どっ、どうしたんだ!?」
スティアは狼狽えているとリアントスとロイドが言った。
「ハンターやってりゃ何かといろいろあるからな、つまりそういうことだろ」
「伝説を名乗るほどならなおさらってわけだな、触れないでやるのが一番か」
そっ、そうなのか――スティアは冷や汗をかいていた。
「騎士やっててもいろいろとあるんだけど――」
スティアの後ろからライアは複雑な面持ちで言った。
「ま、いいんじゃない? それだけ面倒くさいこと考えずにバカ正直に生きているって証拠だからね。
悪く言えば能天気だけど、時折、ああいう生き方もいいなって思うこともあるわね――」
ネシェラはにっこりとしながら言った、あなたの場合はそもそも思考回路がおかしいだけでしょ。
「はぁ? 誰が面倒くさい女ですって?」
ネシェラは背後にいるランバートに対してイラつき気味に訊いた。
「おっ、俺、何も言ってないです! 考えてもございません!」
ランバートは必至になって彼女をなだめていた。シュタルはその様を見て笑っていた。
いや、むしろある程度は自覚があるらしい――