ということで、ティンダロス邸にて、ネシェラがアテラスを尋問していた話をみんなで聞くことにした。
「トラキアス? ガルデス?」
ロイドは訊くとサイスが言った。
「トラキアス=デルセリヤ、アーカネルにあるクレメンティルの教会の管理者です。
クレメンティル教では司祭にあたる方ですね。
もう一方は詳しくは存じておりませんが、こちらも高僧に当たる方だったと思います――」
ネシェラは嫌そうに言った。
「トラキアスって言ったらクレメンティルはアーカネルの一部だから制限なく行けて然るべき――
それをずっと唱えている右翼勢力的な厄介者よ。
そいつにそそのかされて届け出なしで行ったみたいなのよ。」
アルクレアは訊いた。
「それで? ネシェラちゃんは納得したの?」
ネシェラは首を振った。
「もちろん追求したわよ。
そしたら巡礼と、いろんな話をしに行ったって言ってたわね。」
すると、そこへノードラスが焦ってやってきた。
「ネシェラ執行官! 一体どういうことだね!? いくらなんでもやりすぎなのでは!?」
しかしネシェラは何食わぬ顔でただ一言。
「なんで?」
ノードラスは言い返した。
「なんで!? いや、それこそどういうことだ! どうしてアテラスを投獄したのか!?」
なんだってー!?
サイスも流石に焦って訊いた。
「あっ、あの――アテラスさんがどうして投獄されたのでしょう?
ネシェラさん、彼は本当にそれほどのことをしたとでもいうのでしょうか?」
ネシェラは頷いた。
「今話したように、クレメンティルの知り合いにいろんな話をしに行ったんだけど、
どうやら職務上の機密情報も漏らしちゃったようなのよ。
そもそも彼はクレメンティル教の信者、向こうに知り合いも多いからついつい話しちゃったんでしょうね。
それを素直に認めたから投獄することにしたってわけよ。」
いやいやいや、それはやりすぎなのではないのか、サイスは言うとネシェラは首を振った。
「いいえ、そうでもないわ。そもそも彼は投獄されることに合意しているからね。
だから、当面はこれでいいのよ。」
本当なのか!? サイスは改めて訊くと、ノードラスは悩みながら言った。
「いや、それがどうやら間違いなさそうなのだ。
あまりにもやりすぎだと思った私は彼を牢屋から出すことにしたのだが、
彼は自分の犯した罪だからこのままでいさせてくれと言って出たがらないのだよ――」
えっ、そうなのか――ますますどうなっているんだ……。
セディルの家で秘密のお話。
「アルクレア――よかった、無事だったのね――」
その前にまずはセディルとアルクレアが抱き合っていた。
「セディル……あなたにもずっと会いたかった――」
ロイドは腕を組んで考えていた。
「確かに――アテラスがやけに素直に応じたのが気がかりっちゃ気がかりだよな。
そんなにあっさりと認めたのか?」
セディルが話した。
「あなたたちがアルティニアに行った後、アーカネルに探りを入れていました。
もちろん、ネシェラが最も怪しいとしている人物、アテラスを探るためです」
そう、ネシェラは最初から彼を疑っていたのだ。
アムレイナとセレイナは怪しい人物として複数人を挙げていたが、
ネシェラは最初からアテラス一択だった。
「あいつ、事あるごとに私らのことをつけていたからね、
絶対に何かあると思ったわけよ。」
そう言われてみればそんな感じがしなくもない、
それでも職務上のことだとは思うのだが――
「流星の騎士団が留守の間に何やらいろいろと探っていたので、私はアテラスをディアスの家に呼び出しました」
ディアスも一緒に話をしていた。
「そこで今回のアルクレア復帰計画を話した、すべてネシェラ執行官の予定通りにな」
ネシェラは頷いた。
「それはもちろんお姉様を狙う暗殺者を掃除するため。
いつ狙われるかわからないというのも考え物だから、
狙われるとわかっている時にさっさと片付けてしまおうと思ったのよ。」
でも待てよ、そうなると――
「アテラスはクレメンティルと関わり合いがある、
そしてクリストファーはクレメンティルの一番偉いやつ――ということは……」
ロイドはそう訊くとネシェラは得意げに言った。
「ええそう。私のカンはこういってるのよ、怪しいやつは確実にクレメンティルの関係者だってね。
つまり、暗殺者もクレメンティルの連中が差し向けたもの、これである程度ははっきりしたってことね!」
なんてことだ……。
それにより、アテラスの話を通じて暗殺者に話が知れ渡ることで、今回のアルクレアの殺害未遂を働いたと……
「でも、それだとクレメンティルはアルクレアの殺害を諦めていなかったということになりませんか?」
サイスは言うとロイドが言った。
「どうかな? 純粋に暗殺者がクレメンティルに駐在しているだけの話かもしれねぇぞ。
最初にも話したように、俺らが狙われていない理由と雪女たちが狙われている理由の区別がまったくはっきりしていない。
雪女も自分が狙われている理由がよくわかっていないみたいだからな、純粋に暗殺者の自己満足のようにしか思えないな。
まあ――今後はとりあえず、雪女は俺らと一緒にいれば大丈夫だってところだろう。
もしそれでも危ないんだったら雪女だけでなく俺らも同じ目に合うはずだ、雪女と行動を共にする以上はな。
だろ?」
ネシェラは頷いた。
「そうね、そしたら黒幕は私たちには手を出しにくくなる――
それがたとえクレメンティルだろうと暗殺者だろうと同じことね。」