すべては出発前から話が動いていた。
あのメンツでアルティニアへ行く――そうなると、アルクレアの安否がどうしても気になるところである。
特にあのメンツで行くということになると、まさに黒幕としても何かしらの動きがあるのではと怪しまれても仕方がない、
実際には何もないのだが。
だが――ネシェラはその点について裏をかくことにしたのである。
アルクレアを表舞台に出す――そのことについて、黒幕に揺さぶりをかけることにしたのである。
黒幕とは言うが、厳密には暗殺者をあぶりだすということである。
それ自身はセディルに頼み込み、話を進めてもらうことにした。
それについては後で改めて説明するが、連中はどうやらエサにかかったようだった。
そして、アルティニアの港で暗殺者らしきやつがいるのかどうかを確かめるために時間を潰していた5人は、
とうとうそれらしいやつがいることを突き止めた。
5人で”作戦”という名目で話をする上ではすでにアルティニアにいる段階である程度示し合わせているので内容については正直どうだっていいのだが、
重要なのはネシェラも言う通り、暗殺者にわかるように堂々と作戦の内容を漏らすことである。
だが、それはもちろんフェイク――すべてはネシェラの手の内ということである。
ということで、本当の作戦はこうである。まず、プリズム族の出待ち状態自体がウソ。
本当は、気流の流れがおかしいとか何とかいうことにかこつけてネシェラが迎えに行くというもの。
アムレイナの故郷ゆえに彼女がいかないのがおかしいことになるわけだが、
風が相手とあらばネシェラなら大丈夫というもっともらしい理由を盾に彼女が迎えに行くというものである。
もちろん、森にはそんなことが起こっているハズもなく、ただただネシェラが行かなければならないという口実でしかない。
もっとも、プリズム族の里自体が特殊な環境故にアムレイナの故郷というものがそもそも知られていないのだが。
では、何故、ネシェラでなければダメなのかということだが、
これこそがまさに彼女が風使いであるという本領を発揮する場面である。
「お姉様、お久しぶり♪」
森の中、ネシェラが指定していた場所にて、
ネシェラは嬉しそうな声でアルクレアにそう言いつつ甘えてきた。
「ネシェたん! 久しぶりね! 随分と大きくなって――私の背と同じぐらい……?」
甘えるにしては背が高くなり過ぎなネシェラだった。
「そうだったわね、お姉様と最後に会ったのって私がまだ随分と小さい頃のことだったわね――」
アルクレアは嬉しそうだった。
「まあ、ネシェたんったら――随分と大人っぽい……ネシェラさんって言わないとダメかな……?
だけど、元々大人っぽいところもあんまり変わってないし、私が生きていることにそんなに驚いていないみたいね――」
ネシェラはにっこりとしていた。
「ええ♪ 私にかかればこの程度のパズル、大したことないわよ♪
あとは逆算して行動するだけだから、やることは決まっているってわけよ♪
それと、別にどう呼んでもらっても構わないわよ、アルお姉様♪」
そんな小さな頃からこんな子だったのか――そいつはヤバイ。
「ウソっ!? そうなの!? ネシェラちゃんって執行官なの!?」
アルクレアは彼女の話を聞いて驚いていた。
「ったりまえでしょ、サイス兄さまにできるぐらいなら私にだって余裕よ。」
ネシェラは安定の得意げな態度でそう言うと、アルクレアは腕を組んで大きく頷いた。
「うん! 確かにサイスにできるぐらいだからネシェラちゃんなら余裕だ! ごめんねサイスー♪」
そして――
「とゆーことは? ネシェラ執行官の言うことを聞いて行動したほうがよさそう?
それならネシェラ執行官! 私はどうしたらいい!?」
ネシェラは頷いた。
「とりあえずはここでじっとしていて頂戴ね。あと、それからリリアン姉様だっけ?」
アルクレアと一緒にいる女性、リリアン=ラクシュータ、サイスの妹である彼女は反応した。
「あなたがちょうどよさそうね……。よし、あなたを利用しましょう――」
すると、ネシェラはリリアンに魔法をかけた――
「えっ!? ネシェラちゃんが2人!?」
アルクレアは驚いていた。
「一時的に姿を変えただけよ。さてと、そうと決まれば私も――」
ネシェラはアルクレアの姿に変化した!
「うふふっ♪ ほーら! どこからどう見てもすぐにカレシができそうなイイオンナにしか見えないでしょー♪」
と、ネシェラは楽しそうに言いつつ、エレガントに美人の香りを漂わせるようくるりくるりと回っていた。
「ホントだ! 確かにカレシがいるオンナだー!
でも、ネシェラちゃんだってどこからどう見てもすぐにカレシができそうなイイオンナにしか見えないんだけどなー♪」
「私ゃそんな女じゃないわよ。」
「まーだそんなこと言ってるのー!?」
えぇ……昔からでしたか……。
風魔法の力で2人はそれぞれ変身、そして、風魔法の真の力はここで真価を発揮することとなる……
「風の幻影ですか……」
サイスは呆気に取られていた。
「そう、こいつが射貫いたのは私の影……攻撃が来るのはわかっていたから森から出る前には既に仕掛けさせてもらったわ。
これが毒矢をかわすための秘策ってわけよ。
もちろん、念には念を入れてライアに治療してもらうことを考えたけど、要らぬ心配だったってわけね。」
ロイドは腕を組んで悩んでいた。
「ったく、この幻影のせいでネシェラに一太刀でも浴びせるのが難しくなっているんだ。
この女がマジモードになったらアーカネル騎士が束になっても敵いっこないってわけだな」
確かに……ライアは息をのんだ。
「もう、ウィング・マスターどころの話じゃあないってわけね――」
「そんなことないわよ♪ 私は何処にでもいる普通の女の子よ♪」
ネシェラは嬉しそうにそう言い返した……いや、どこがだよ。すると――
「やっぱりすごいなー、ネシェラちゃんはー♪」
あのおねーさんが森の中から現れた。
「アルクレア!」
「お姉様!」
お母様とライアはすぐさま反応し、3人で嬉しそうに抱き合い、喜びを分かち合っていた。
「ただ、肝心の真の元凶がどう反応するかですね――」
サイスは3人の様子を眺めながら悩んでいた。
「それなら心配要らねえんじゃないか?
野郎が言ってただろう、クライアント様は見放されたんだと。
いつまでもねちっこく狙うのが連中のやり方だがクライアント様はそうじゃない、
親父たちと同じ轍を俺らは踏んでいるのに俺らは命を狙われていない。
むしろ、それでもこの雪女の命を狙い続ける理由があるとすれば――
今度は俺らが目を光らせればいいだけのこと、そしたら黒幕の正体も暴きやすくなるってわけだな」
確かにそうか――ロイドに言われるとサイスは考えていた。
「しばらく雲隠れしていたお姉様が今になってってことでクライアント様は驚くだろうけどね、しかも暗殺に失敗したし。
いずれにせよ、私らやお姉様を狙ってない以上はそれよりも別の狙いがあるハズって考えるべきね。」
と、ネシェラ、そう言うことになりそうである。すると――
「ほら! ネシェたん! それからサイスとロイドたんもこっちにおいで!」
アルクレアにそう言われるとネシェラは嬉しそうに、サイスとロイドは微妙な面持ちで行った。