それから数時間が経ち――
「ん……? なんだ……?」
ロイドは気が付いた。
「俺は――どうなったんだ……? 確か、毒にやられて――
てことはここが死後の世界ってやつか……」
ロイドは目を開けたがすべてがぼやけて何も見えず、それに身体を動かそうにもまったく動けなかった。
しかも――
「ん? なんだ? 温かい――誰かが俺の上に乗っているのか――!?」
誰かがいたようだ。するとその人は、ロイドに思いっきり抱き着いてきた。
「ロイド! よかった、助かってよかった――」
これはライアの声? ロイドは気が付いた。
「やっとレッサーロプロスの毒に対する知識が役に立ったわね!
しかも治癒魔法として回復させるすべを教わったのよ! よかった――」
治癒魔法――それにはロイドも脱帽ものだった。
「悪いな、無茶しちまって――」
ロイドはそう言うとライアは、
「ほんとよ、もう!」
と苦言を呈していたが、それでも彼女は嬉しそうだった。
「わっ、悪かった――。だが、それにしても、寒いところで意識が飛んでいたのに身体が温かいな――」
ロイドはそう言うと、ライアは――
「ええ、それはそうだと思うわね、だって――」
といいつつ、なんと!
「ロイド……あなたに死なれたら私も困るからね――」
ななっ、なんとライアは大胆にも自分の身体をロイドにぴたりと密着させ、しっかりと優しく抱きしめた――!
それには流石のロイドも視力とは関係なく気が付いていて、焦っていた――。
「らっ、ライア――」
「いいの、何も言わないで。今は自分の身体のことだけを考えて。
私は――ロイドが元気になればそれでいいから――」
ライアはそう言うが、ロイドはしっかりとライアを抱きしめた――
「えっ……?」
「腕は動くみたいだな。
とにかく――今はしばらくライアとこうしていたいな――」
そう言われたライアも嬉しそうだった。
それから日が落ち、そして夜が明けて朝になると――2人の仲はそれなりに出来上がっていた。
こいつも完全にデキとりますな!
「朝になっちまったな、流石にみんな心配するか――」
ロイドはそう言うとライアは頷いた。
「そうよね、仕方がない、戻りましょう――」
ロイドはほら穴の出口を例によって吹き飛ばすと、外はすっかり晴れていた。
「よし、流石はライアだ、身体はすっかりと元通りだ」
そう言われてライアは嬉しそうだった。
「うふふっ♪ よかったわ、ロイドが元気になって♪」
「ライアも元気になってよかったな」
ロイドも嬉しそうに言った。
「ええ! 元気百倍よ! だって、アーカネル最強の騎士と夜を共にしたのですもの♪」
そう言われてロイドは照れていた。
愛し合う2人はさておき――いや、続きの話である。
「あら遅かったわね、急に天気が崩れたからちょっと心配だったのよ。」
家まで戻ってきた2人、ネシェラが出迎えていた。
「ああ。でも、何とか無事だ、この通りな」
「ええ。とにかく、心配させたわね――」
ロイドとライアは何食わぬ顔でそう言うと、ネシェラは意地が悪そうな顔で言った。
「いいえ! 申し訳ないけど、私は全然心配してなかったわね!」
えっ、なんで――2人は狼狽えていた。
「さぁ? どうしてかしら? ふふっ――」
ネシェラはさらに意地が悪そうに言った。
するとネシェラはロイドをじっと見ながら――
「ほうほうほう……レッサーロプロスの毒にやられたのかしら?
それを……毒を治す魔法をかけつつお兄様に甘えながら優しーく優しーく労わっていた?
そしてそのまま2人は夜を共に――なーるほどねー♪」
そう言われて2人は焦りを見せていたが、ロイドが冷静に言った。
「あのな、何を言っているんだ? そんなこといいから、持ってきたエンチャント素材はどうするんだ?」
だがしかし、ネシェラは――
「ええ、そうねえ……今の話と共にお母様に提出しないといけないわねぇ――」
と言いつつ、アシュバール別荘へと行こうとしたネシェラに対してロイドは流石に――
「ちょっ! ちょっと待った! わかった、降参だ! そうだ、お前の言う通りだ!」
素直に白状したロイドだった。
「やっぱり、ネシェラに隠し通すのは難しいのね――」
ライアはそう言うが、ネシェラは――
「えっ? 何の話かしら? えっ、本当にそうなの!?
へぇー♪ カマかけたつもりだったんだけど本当にそうだったのね♪」
なっ……この女――してやられた!
「大雪になったらレッサーロプロスが活性化するし、
お兄様の視力が正しく定まっていないように見えたから毒にやられたんじゃないかと思ったのよね。
で、ライアってばレッサーロプロスに限らず毒の治療方法を頑張って教わっていたから――
そこまでは間違いないと思うんだけど、
レッサーロプロスの毒を受けたのならもう少し生死の境を彷徨っていてもおかしくはない気がするから、
プリズム女と一緒に寝て治癒効果を高めたりなんかしないことには説明付かないかな――
だから考えられるのはただ一つってわけよ。」
ぐっ……相変わらずこの女の観察眼は鋭すぎた。
だが、そこへ険しい顔をしたアムレイナが登場すると、ロイドが冷や汗が止まらなかった。
「そうですか――ロイドさん、私の娘とそのようなことを――」
もはや逃げも隠れもできない! が、しかし――
「うふふっ、なるほど、そうですか――ライアが見込んだ方ということですね。
ライア――本気なのね?」
そう言われてライアは嬉しそうな顔でにっこりとしていた。
「ふふっ、やっぱり――私の目に狂いはなかったようです――」
なんと、ロイドとライアを一緒に行動させることにしたのはお母様の策略だった――。
「ロイドさん? まだ少々気は早いかもしれません。
ですが――うちの娘のこと、これからも仲良くしてくださってもよろしいかしら?
もちろん、今はその時ではないかもしれません。
ですが――あなたになら任せられそうです、いかがでしょうか?」
そう言われてロイドは狼狽えていた。
「そっ、それは――そうだな、まだ付き合い立てだから前向きな回答は差し控えるが、
ライアとはこれからも良好な関係で行かせてもらえればいいなとは考えてる――」
そう言われたアムレイナはにっこりとしていた。
「うふふっ、いい返事ですね!」
ロイドは冷や汗が止まらなかった。そしてネシェラも嬉しそうだった。
「うふふっ、よかったわね、お兄様♪
バイバイ、私の彼氏♪ ライアと幸せになってね♪」
そうか――ネシェラが最初から思い描いていた通りのシナリオだったな。