リアントスはそのままそっとセレイナをお姫様抱っこで自分の家の中へと抱えて運んでいった。
彼女をベッドの上へと置くと、そのまま――
「待って、リアントスさん――」
セレイナはそう言うが、リアントスは頷いた。
「大丈夫だ、何処にもいかない。
使用人もいるし、スティアもいるからな、関係のない連中には遠慮願おうと思ってな――」
リアントスは部屋の鍵をかけた。
「あっ、いやっ、その――これは別に――」
リアントスは焦っていた、だが、セレイナは彼の意図することを理解していなかった。
「いや、なんでもない、気にしないでくれ――」
リアントスは冷や汗をかいていた。そしてカーテンを閉めた。
「眩しいだろ?」
セレイナはにっこりしていた。
「リアントスさんは優しいんですね――」
そう言われてリアントスはさらに照れていた。
リアントスはセレイナのそばに寄り添い、話をした。
「プリズム族の身体だろ?」
セレイナは頷いた。
彼女らの住まいの場所、そして自らの能力――
各々の要素はすべてプリズム族にマッチしたもの、
セレイナはネシェラたちが目論んでいた通りの話をリアントスにした。
「ネシェラとかは知っているんだな」
「誰にも話していませんけど――でも、ネシェラさんなら気が付いていると思いますね――」
するとリアントスは悩みながら言った。
「なんだろうな、こんなハズじゃあなかったんだけどな――」
リアントスは照れていた。さらに続けた。
「俺……どうやらセレイナのことが好きになってしまったみたいだ。
こんな気持ち、生まれて初めてなんだ、だから、その――」
リアントスは顔を真っ赤にしていたが、セレイナも――
「私もです、リアントスさん――これが人を好きになるってことなんですね――」
するとリアントスはおもむろに――
「えっ――」
セレイナのその華奢な身をしっかりと抱きしめていた。
「悪いな――今はこうしていたいんだ――」
だが、セレイナも――
「私もです、リアントスさん――私、嬉しい――」
こいつは完全にデキとりますな!
愛し合う2人はさておき――
”彩りの大地”にてエンチャント素材を採掘中の5人だったが、
そのうちアーカネルの兵隊たちがそこへやってくると、
アムレイナとサイス、そしてネシェラの3人は最初に採取した分を持ってアルティニアへと戻って行った。
「とりあえず、こんなもんだな――」
そして、残されたロイドとライアも作業を終えようとしていた。
「そうね、早く戻りましょ――」
ライアは汗をぬぐいながら言った。
2人は馬車の荷台にエンチャント素材を載せ、その足でそのままアルティニアを目指していた。
距離的にはそこまで遠くはないハズなのだが、例の白い坂を上ったあたりから雲行きが怪しくなってきた。
「こいつはまずいな、長続きしないかもしんねえぞ――」
「そうね……この天気はちょっと心配ね――」
ライアは息を切らしながら歩いていた。
「少し休もうか?」
ロイドは心配そうに訊くとライアは答えた。
「まだ大丈夫よ、早くしないと天気が持たないからそっちのほうが心配よ――」
だが、そんなわけにはいかず、ロイドは言った。
「いいから、馬車の中に入っているんだ。
何かあったら言うから、とりあえず今は休んでてくれ――」
そう言われると――ライアはおとなしく馬車の中に入って行った。
次第に天気が悪化し、猛吹雪に見舞われていた。
「ちっ、持たなかったな……。
まあいい、アルティニアまではそんなに遠くないはずだ――」
とはいうものの、馬車馬であるこの地方特有の生物”アリア”は辛そうだった。
馬のように見えてもおかしくはないフォルムだが、寒さに強いだけあって少々毛が長いのが特徴である。
さらに馬よりも筐体は小さいが力は強く、野生のものは魔物同然に襲ってくることもあるほどである。
「もう少しの辛抱だからな、頑張れよ――」
ロイドはアリアの頭をなでていた。
「優しいのね――」
ライアはロイドのその様を眺めて言うとロイドは答えた。
「まあ、そう言うことにしておこうか。
こいつはエルフ族特有の”おまじない”ってやつだ。
こうすることで動物は力を与えられる――その通り、優しさってやつだな」
そうだったのか、意味がある行動だったのか――ライアは納得した。
言われてみれば、ネシェラやランブルあたりもよくやっていた、理にかなっている行動だったのか。
だんだん雪が激しくなってきて、いよいよ馬車も進めなくなってきた。
「ロイド! 大丈夫!?」
異変に気が付いたライアは馬車から飛び出してきた。
「くっ、こんなことになるとは予定外だな。
仕方がない、その辺にほら穴があったはずだ、そこに一旦避難しよう――」
えっ、どこ!? ライアはそう訊くとロイドは剣を構え、街道脇の雪の塊を吹き飛ばした!
そこには大きな穴が――
「俺も何度か逃げ込んだことがある。
とにかく、まずは馬車を――」
だがしかし――その時上空から奇声が。
「ちっ、こんな時に面倒なのが現れやがったな――」
ロイドは再び剣を構えた。
「もしかして、レッサーロプロス!?」
翼竜タイプの魔物、このあたりではよく見かける種類だ。
ロイドの過去の話にも何度か現れている魔物だが、
「昔の個体よりも強くなっているが、天候が荒れているほどやつらは強さを増す。
俺はあいつを仕留めるからライアは馬車を頼む!」
ロイドはそう言いながら立ち向かった。
「無茶はしないで!」