リアントスは目の前の光景を――セレイナの正体を受け入れた。
セレイナはミラージュ・フライヤだった、随分前にブレイズ・フールの魔の手から守り通したあの蝶々だったのだ。
「セレイナ……そうだったのか、俺に会うためにわざわざ――。
それなのに俺は……こんな目に合わせるなんて――」
リアントスは悔しそうにしていた、リアントスはセレイナのすべてを悟ったのだった。
そう、ネシェラたちの予想通り、ミラージュ・フライヤであるセレイナは人間の姿を借りてまでリアントスのそばにいたかったのだった。
「いや……死なせるわけには! 待ってろ、今助けてやる!」
リアントスはセレイナを抱えて地上へと戻ろうとした。
だが、出口付近で彼は重大なことに気が付かされた――
「待ってろ、今医者に連れて行って――」
えっ、医者に!? どうやって!? 彼女、簡単に言えば虫じゃないか!?
もっと言ってしまえば、魔物と同じような存在と言ってもいいだろう、”ミラージュ・フライヤ”なのだから。
そんなのを見てくれる医者がどこにいるんだ!? だったら魔法で――自分では無理かもしれないが、
クロノリアの魔導士などに依頼すれば――
いや、ダメだ! こんなに衰弱している!
彼らに頼むには少なくともアーカネルまで行かなければ!
だけどそれまで彼女の命が持たない!
くそっ、どうすればいいんだ! リアントスは嘆いていた。
「いやあ、ちょっとした助言をね。
もちろん、キミのその腕についてとやかく言うつもりはないよ。
ただ――キミにはそのうち”黄金の鍵”が必要になる……と言いたかっただけさ」
何故かあの言葉が脳裏によぎった――こんな時になんで!
いや待てよ、そう言えば――リアントスは考えた。
自分が小さい頃の話。
「あくまでおとぎ話だけどね。
でも――もしかしたら、そういうことが可能なのかもしれないな」
リアントスの小さい頃、ティバリスと話をしていた。
「ふぅん……そうなのか。俺にはわかんないな!」
リアントスは走っていった。
「なんの話だ?」
ロイドはそう訊くとリアントスは言った。
「”黄金の鍵”があれば自分は何者にでもなれるってやつだ」
そこへティバリスが話に加わり――
「ロイド、お前だったら何になりたい?」
ロイドはすぐに答えた。
「俺は強くなりたい。親父よりも強くなる!」
ティバリスはにっこりとしていた。
「そうか。それならいい方法がある、”黄金の鍵”があれば何者にでもなれるということらしいが――」
だが、ロイドとリアントスは――
「なんだそれ? そんなものの力に頼りたくはねえな! 俺は俺自身の力で強くなってやるっ!」
「だよな! そんなものは俺らには必要ない!」
といいつつ、2人は遊んでいた。そんな2人を見て、ティバリスはにっこりとしていた。
「いい子らだ」
リアントスははっとした。
「何者にでもなれるか――」
彼は”黄金の鍵”を取り出すと、鍵を自分のほうに向け……
「いや、違うな……」
鍵を彼女のほうにむけると――
「使い方は、これであっているんだろうか?
見た目も鍵だしな、これで違ったら――いや、お願いだ、彼女を助けてやってくれ! 頼む!」
リアントスは願いを込めてセレイナに鍵を差し込んだ! すると――
「うっ、うわっ! なんだ!」
セレイナの光に包まれ、身は宙に浮き出すと、その身体は少しずつ変わっていく――。
そして、彼女の身は一定の形を留めると、その身はリアントスの両腕の上にゆっくりと下りていった――。
「セレイナ!」
光がおさまると、彼女の姿はこれまでのリアントスも知るプリズム族の――人間の姿の彼女がいた。
「うっ……うん……?」
彼女は気が付いた!
「セレイナ! 気が付いたのか!?」
リアントスはそう訊いた。
「リアントス……さん……? 私、魔法に打たれて――」
リアントスは心配そうに聞いた。
「セレイナ! 大丈夫か!? 何処も痛くないか!?」
するとセレイナは背中を押さえ――
「うっ……ちょっと、背中が痛いです……でも、それ以外は特に――」
どこもケガをしている様子はなさそうだ。
「そうか、助けてくれてありがとうな。
それに、わざわざ俺に会いに来てくれたんだな――」
そう言われてセレイナは顔を赤くしていた。
「すみません、黙っていて――」
リアントスはため息をついていた。
「いや、そんなことは気にしなくたっていい。
むしろ、そのおかげで俺はセレイナに何度も助けられている――
俺のほうこそ感謝だな」
そう言われてセレイナは照れていた。
「”黄金の鍵”ってのを使ってしまった、
それでセレイナは人間に――ミラージュ・フライヤじゃなくなってしまったんだ。
助けるためにはそれしかなかった――悪いな……」
リアントスは申し訳なさそうに言ったが――
「そうですか……それなら、リアントスさんと同じになったってことですね!」
セレイナは嬉しそうだった。