アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第117節 不穏な動き続々

 数週間前の話の続き、フラッティル邸にて。
「お母様、セレイナ、これまで見てきて怪しい動きをしている人物を挙げてみて。」
 そう言われてアムレイナとセレイナはそれぞれ言ったのだが――
「ただ、怪しいといっても、的が絞れていない分なんとも言えないところがありますが――」
「そうなんですよね、だから怪しいといえるのかどうか――」
 だがしかし、この女だけは違った。ネシェラはにっこりとしていた。
「いえ、むしろ助かったわ、確実にこいつが2人の怪しいリストに入っているということがわかって私としては大助かりよ。」
 えっ!? 2人は驚いていた。
「どういうこと?」
 セディルは訊くとネシェラは得意げに頷いた。
「私も怪しい動きをしている人物を挙げてみるわね。 ただし! 私の怪しい人物リストにリストアップされているやつはこいつ1人よ。」
 この女マジでヤバすぎる。既に的を絞ってるじゃねーか。

 時は戻り、今度はアルトレイにて――
「うっし! 流通経路については問題なさそうだな。 街道の魔物も減ってきたことだし、なんとかこれで持ちこたえられそうだな!」
 ディアは調子よく言うとランブルはにっこりとしていた。
「お休みなのに、わざわざこんなところまで見てくださって嬉しいですね!」
 そう言われてディアは得意げになっていたが、ランブルに言った。
「そんなこと言ったら、将軍さんだってそうじゃないか? わざわざ現場を見に来るだなんて――」
 ランブルはにっこりとしながら答えた。
「いえいえ、ある意味現場を見に来るのが日課のようなものですから。 それに――私自身は特に他にやることもないので」
 そうなのか、ディアはそう思うとランブルは訊いた。
「それより、ディアさんはお国には戻らないのですか?」
 ディアは頷いた。
「戻らないんじゃない、戻れないんだ。 なんたってアトローナの島だからな、ちょっとでも海の機嫌が悪いとそれだけで船旅はあきらめないといけなくなっちまう、 しかもこれから海が荒れる時期だからなおさらね。 俺はしがない旅ウサギ、そう思って渡り歩いているから別にちょっとぐらい帰れないだけじゃあどうってことないし、 そのうえで住を提供してもらえるってんならこれほどありがたいことはないな」
 そうなのか、ランブルは考えるとディアに言った。
「そうなんですね。でしたらどうです? うちに休んで行かれてみては――」
 ところが――その場にスクライトとクレアが現れた。
「ななっ!? スクライト!? どうしたんだ!?」
 というのも、彼は何故か悩んでいたからである……何とも珍しい光景にディアは驚いていた。
「やあ2人とも、奇遇だね! 実は大変なことが起きたんだ、聞いてくれるかな?」

 ランブルの家、彼は話を聞いて驚いていた。
「盗まれた!? えっ、”禁呪の書・雲”をですか!?」
 なんだそれ、ディアは訊くとランブルは言った。
「太古の書物とされる代物です。 雲と呼ばれる所以はまさに書いてある内容が雲をつかむような話――まるで解読をできないが故にそう呼ばれているのです。 そんなものが、どうして!?」
 スクライトは悩んでいた。
「ああ、まったくもってその通り、だからこうして悩んでいる。 しかもやった犯人はわからずじまい――やれやれ、ロイド君がいたら、 ”なんでそんな肝心なところで役に立たない能力なんだ”って言うだろうね――」
 ランブルは訊いた。
「ちなみに――解読できたりはしませんよね?」
 スクライトは呆れ気味に答えた。
「ああ、そいつは流石に敵わないよ。 恐らくだが、世界創世時代からある代物――そいつだけはなんとなくわかっているんだけど、それ以外のことはさっぱりだ。 ランブルも知っての通り、あの本には強い魔力が働いていて、処分することもかなわない―― だからとても重要な代物であることは確実なんだ。 しかし、それがわからない以上は手も足も出ないときたもんだ、実に悩ましい問題だねぇ……」
 そう言われてランブルは悩んでいた。
「……最悪、エターニスの精霊たちが動くようなことがありうるかもしれません。 そうなったとき、我々の立ち位置はどうなるんでしょう?」
 スクライトも悩んでいた。
「言ってしまえば我々のような”第5級精霊”は彼らのような高位の精霊にしてみればはみ出し者同然の存在だからね、 人間の世にいる以上は人間たちと同じ扱いにしかならないさ。 つまり、”粛清”するって話になったら我々をも容赦なく処分するに決まっているさ。 ただし、”あの方”が我々についていてくださる限りはすぐさまそうなることはない、そこは安心していいだろうね」
 ランブルは悩んでいた。
「”フローナル様”ですね……もはやあの方だけが頼りということですか――」
 何の話なんだろう……置き去りにされたディアはずっと首をかしげていた。