アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第116節 目的と責務

 フラッティル邸――
「そうですか、わかりました。 お疲れさまでした、あとは私が引き取りますのでアテラスを呼んでください、お願いいたします――」
 セディルが何者かと話をしていた、アーカネル騎士の誰かのようである。 騎士が去った後、セディルは窓から外を見ていた。
「ネシェラ――あなたの想像通りの展開になったみたいですよ。 さて、どうしますか?」

 数週間前――
「ったく、やれやれだわ――」
 ネシェラは嫌そうにしていた。ティンダロス邸に戻るや否や、ぼやいていた。
「なんだ、また仕事か?」
 ロイドが訊くとネシェラが言った。
「ええそう、例によってまた魔物退治よ。 日程は3日後の昼にパタンタで集合……ったく、 帰ってきたばかりだってのにまた行かされるハメになったのよ、腹が立つわね――」
 ロイドは頭を抱えていた。
「半ば強制的に受けさせられたって感じだな、仕方がない――」
 ロイドは立ち上がったその時――
「たっ……大変! 魔物が現れたそうよ!」
 レオーナが慌ててティンダロス邸へとやってきた。
「今度はなんだ?」
 ロイドがそう訊くと一緒にいたライアが話をした。
「とてつもなく大きな魔物が騎士の訓練施設を破壊したのだそうよ!  ただ――それだけ大きな魔物なのに、魔物がそこに入った形跡がないって――どうなっているのかしら?」
 するとそこへセレイナが戻ってきて話をした。
「騎士の訓練施設ですか? さっき、ネシェラさんがそちらにいましたよね?」
 ネシェラは片手で頭を抱えながら言った。
「ああ、それ――騒がしてごめんね。 お兄様と今話した仕事の件の際にノードラスと口論になって、 無性に腹が立ってたからちょっと派手にやり過ぎたわね――」
 犯人が見つかったようだ。
「ともかく、3日後にパタンタ集合だから――いやなら私1人でも行くけど、そう言うことだからよろしくね――」
 と、ネシェラは大きなため息をつきつつ、そのまま自室へと入って行った。
「ノードラスさんと口論、ね……。 あれは私にも聞こえたわ、確かにそろそろいい加減にしてほしいところだけど―― ネシェラとしても気持ちは同じってことね」
 ライアがそう言うとレオーネは頷いた。
「そうね、訓練施設の件は老朽化が原因だとして処理しましょう――」
 いやいやいや、無理がありすぎるのではなかろうか……?  するとセレイナはネシェラの元へと行った。
「私、ネシェラさんについていてあげたいです――」

 パタンタでの一件の終わりごろ――
「いい加減、これぐらいの魔物の群れを一兵卒でも処理できてくれなきゃ困るんだけどな」
 ロイドはトドメをさしたグリフォンから剣を抜きながら言った。
「まったく、その通りね。 そうでなければこの草原が荒れる一方よ――」
 言わんとしていることはわからんでもないロイドだった、 一部の者――自分含めてだが技が強烈すぎて大地に負担をかけそうだ。 中でも、特に深刻なことをしでかすのがライアが向いているほう――ネシェラのいるほうへと向いて言ったとおりである。だが――
「あれ?」
 ライアは首をかしげていた、もはや暴風そのものがグリフォンに襲い掛かっていたのだった―― 最悪、草原の草花が彼女の竜巻で丸坊主待ったなしである。 ところが、それは既に収まっており、ネシェラはセディルと話をしていた。
「やれやれ、この程度の魔物で――わざわざ私らの手を煩わせるんじゃないわよ。 セディルもそう思うでしょ?」
 セディルは話をした。
「確かにその通りですね、アーカネル騎士団の栄光というのはどこに行ってしまったのでしょうか、 私たちがいなくなったら間違いなく壊滅してしまいますね――」
 ネシェラは得意げに答えた。
「んじゃあ、いっそのこと、いきなり蒸発してどこかに消えてみようかしら?」
「あら、案外恐ろしいことを言うのですね」

 セディルは話を続けた。
「ところで――あなたのことですから、このままずっと執行官なんて続けているつもりはないのでしょう?」
 ネシェラは答えた。
「ええ、もちろん。そもそも私はクリエイター志望だからね、アトローナに行ったのもその一環だし。 アーカネルに来たのはあくまでお父様やアルお姉様たちの謎を追うため――それが終わればここを去るつもりよ。」
 セディルは頷いた。
「なんだか、終わりが見えているのも寂しい話ですね――」
 ネシェラは笑顔で答えた。
「いつでも会えるわよ、今生の別れってわけでもないんだしさ。」
 セディルも笑顔で答えた。
「確かに、それもそうですね!  でも――そうですね、私も昔からの仲間もどんどんいなくなっていますからね、 騎士を引退して、また違う人生を歩んでみるのもいいかもしれませんね」
 セディルはさらに話を続けた。
「ところでネシェラ、そろそろ何かをつかみましたか?」
 ネシェラは考えた。
「そうね――また例の部屋で話ができるかしら?」