アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第114節 中心人物ネシェラの手腕と怒り

 パタンタにて、ランブルとゼクスが話をしていた。
「さて、そろそろ引き上げますかね――」
「こんなものでいいでしょうな。 時にランブル殿、ほかの者は休暇を取っているようだが――」
 えっ、ほかの者? ランブルは考えるとすぐに気が付いた。
「そうでした、私の隊は全滅していつの間にか私ら2人は流星の騎士団に引き取られたんでしたね。 ロイドさんたちと一緒に戦えるとはなんとも光栄なことですが――」
 ゼクスは考えた。
「ロイドか……ティバリス殿にはずいぶんとお世話になったようですな」
 ランブルは頷いた。
「それはそれはもう。 本当はこんなこと言ってはいけないんですが、他の重鎮たる精霊たちとは違って彼の家柄はとてもフレンドリーに接してくださいますからね。 それこそ何でも話せる仲でもあります。 だから彼の家についていく精霊は多いのですよ、私もそのうちの1人ですね――」
 ゼクスは考えていた。
「エターニスの精霊というのはなんとも気難しいものですな。 さて、そしたら我らもこれより休みを頂くことにしますか?」
 ランブルは頷いた。
「ネシェラ執行官がいないのでそれで問題ないでしょう。 そしたら私はこのままアルトレイへと戻ろうと思います」
 えっ……ゼクスは訊いた。
「ん? エターニスとかではないのですか?」
 ランブルは首を振った。
「ええ、今の私の家はアルトレイのあそこですからね。 エターニスに行くかどうかはまた今度考えますよ、 どうせ行くのならロイドさんとネシェラさんが一緒にいるときにでもね――」
 2人の母親の墓参り――ゼクスはそう思った。
「ランブル殿――彼にも思うところがあるということか――」
 ゼクスは自分よりも小さい彼の背中を眺めながらそう考えていた。

 そんな中、アテラス執行官はいろいろと対応していた。
「アテラス執行官! アムレイナ様とネシェラ執行官はどこか!? サイス執行官もおらんぞ!」
 ノードラスが慌ててそう訊くとアテラスは答えた。
「休暇ですよ、流星の騎士団はみなさんそろって休暇を取られました。 サイス執行官も一緒のハズです」
 なんだって!? ノードラスは耳を疑っていた。
「また大きな魔物が現れたそうなのだ! だからなんとかしてもらいたいのだが――」
 それに対してアテラスは照れた様子で言った。
「それなんですけど、ネシェラ執行官から苦言を呈されてしまいましてね――」
 そう言われてノードラスは悩んでいた。
「……流星の騎士団をこき使いすぎか――」
 心当たりがあるようだ。するとアテラスはある場所へと案内した、そこは――
「こっ、これは……!?」
 そこは騎士団の訓練所だが、まるで例の”キング”の名を冠する末恐ろしい例の魔獣が現れたかのような、 なんだかとてつもない力でそこにあった訓練用の人形と背後の壁を一度に吹き飛ばした跡だけが残されていた。
「恐らく言うまでもないですが、ネシェラ執行官の仕業ですよ。 先日、流星の騎士団のその件についてあなたとネシェラ執行官が激しく言い合っていたじゃないですか?  これはその後にネシェラ執行官が八つ当たりした跡ですが、復旧困難ということでこのままになっています。 そもそも、彼らには夏季休暇さえ与えていないでしょう?  それでは私も流石に同情するしかなくってですね、いろいろと手を回しているところです。 もちろん、ネシェラ執行官と連携して事に当たっていたセレイナ執行官やサイス執行官、もちろんアムレイナ様もお休みです。 その間は我々のほうでなんとかアーカネルを維持するしかないでしょう」
 ノードラスは悩みながら答えた。
「わかった、このままではアーカネルが魔物に潰されるよりも先に私がネシェラ執行官に滅ぼされてしまう……致し方あるまい。 確かに、いくら何でも彼らに休みもろくに与えずに仕事をさせるのもよくないな。それなら他の手を考えよう――」
 アテラスは頷いた。
「ネシェラ執行官が書き残して言ったメモがあります。 恐らく、ここに記載してある通りに事を運べばいいみたいです」
 そう言われてノードラスはそのメモをすぐさま取り上げるとすぐさま読み始めた。 冒頭には”脳なし共へ”とデカデカと書かれた一文から始まっているが――
「よっ、よーし! そうだな! まずはここに書かれている通りに――」
 ノードラスはそのまま足早に去って行った、脳なし共上等と言わんばかりの様子だった。
「結局、ネシェラ執行官に頼りっ切りなんですね――」
 アテラスは苦笑いしていた。