アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第113節 屍を超えて――

 その夜、ランバートとアレスはランバートの部屋で何やら真剣な話をしていた。
「そうだよなぁ、やっぱり、お互いに親父の後を追って騎士になったんだもんなぁ……」
 ランバートはそう言うとアレスは答えた。
「最初は確かにそれだけでした。 でも――騎士をやっているうちにいろんなことがわかってきて、 今ではお父さんの亡くなった謎を追いたいっていう気持ちのほうが強くなっています――」
 ランバートは考えた。
「ロイドだな、いや――あいつだけじゃねえか。 でも、その影響を受けていることは確実ってわけか。 俺もそんな話を聞かされて、正直驚いちまった。 まさか自分の親父がアーカネルにいる何者かの陰謀で殺された可能性があるってな――」
 ランバートは改まった。
「ところで、シュタルに親父の話をしたのは? ロイドか?」
 アレスは考えていた。
「だと思いますけど―― そもそも随分前のクロノリア行きの話では避けて通ることはできなかった話でもありましたし―― 何か不都合でも?」
 ランバートは悩みながら言った。
「いいや、それならそれでいい。 実は俺も、親父がお城に従事していたことまでは知っていたんだが、 それが騎士だったって聞かされたのは騎士になった後からだった、まさか風雲の騎士団ってところに所属していたなんてな――。 それこそ、俺が騎士になったのってちょうど風雲の騎士団が結成したころだったんだがその中に親父がいるとは思ってなかった、 親父はずっと諜報部隊だったからな――だから騎士内部の俺にもそんなことは知らされていなかった。 もちろん、母さんは親父の死については絶対何か知っているハズなのにそんな話一言もしたことがなかった。 後で何故って訊いたら自分たちで親父の真実に耐えられる年になったら教えるつもりだったって――」
 それに対してアレスは考えていた。
「真実に耐えられる年か――そう考えると、ロイドとネシェラさんは強いんだろうな――」
 ランバートは頭を掻いた。
「いやいや、言っても俺は親父の死を伝えられたのって18だったし、シュタルだって8か9の頃の話だぞ?  だからなーんか妙に引っかかるんだよな――」
 あれ? アレスはなんだか違和感に気が付いた。
「え? 風雲の騎士団失踪って結成から5年後じゃなかったんでしたっけ?  あれを訊いたのは確か、俺が11のころだったハズだから――」
 ランバートは首を振った。
「失踪が公表されたのは確かに結成から5年後だって話だったな。 でも俺の親父は結成から2年半後ぐらいに亡くなったらしいんだ」
 そうなのか!? アレスは耳を疑った。
「母さんが真実に耐えられる年になったらって言っていたことの裏がわかった気がするな。 それによく考えるとだ、実は風雲の騎士団結成から俺らは一度も親父に会っていない」
 言われてみれば――アレスは考えた。
「俺もお父さんが風雲の騎士団を結成してから一度も会っていませんね。 ただ5年後に失踪したって知らせが来て――」
 ランバートは腕を組んだ。
「うちはその2年半前に母さんが親父が死んだって知らせを受けたって言ってたな――」
 つまり、騎士団失踪の公式発表以前に身内には早く知らせたのか、アレスは考えた。
「そうそう、親父たちが結成した時は俺は16だったけど、 シュタルやお前らは6つの時なんじゃないか?  そんな時からお父さん死んでしまったからもう二度と会えませんって話になると―― 俺だったら当時のシュタルにはそんなこと伝えずれぇよなぁ……」
 なるほど、そうかもしれないな――アレスは考えた。 つまり、レギナスのことを伝えなかったのはシュタルのため?
「でも、それでもうちは母さんがいるからな。 だから――あの兄妹はマジで強ぇえって思うよな――」
 ヴァーティクス兄妹――
「だって、ティバリスさんって遺体も戻ることないってことだし、 それにあの2人は母親も随分昔に亡くしてんだろ?  まあ――それを言ったらアレスもそうだろうけど――」
 アレスは頭を掻いていた。
「いや、俺は――確かに母も病気で亡くなっちゃったけど、 その後は使用人たちに囲まれて何不自由なく暮らしていたから、それで当たり前だと思っていたところがありましたね。 確かに、母が亡くなったときは悲しかったし、寂しかったけど――今でもそうかな――」
 ランバートは腕を組んで考え、遠い目をしていた。
「そっか、そうだよな――みんな強いよな。 そう考えると、俺らはまだ恵まれているほうなんだろうな――」
 だからなのか、そんな強い兄妹に対しては敬意を表し、 たとえ呼び捨てされようと何を言われようと受け入れるっていうのが彼のスタンスらしい…… 思いっきり尻に敷かれているのだがそれでもいいのか……

 一方でシュタルとレオーナはお母様と一緒にリビングで話をしていた。
「ナナルさんって素敵な方ですね!」
 レオーナは嬉しそうに言うとナナルは嬉しそうに答えた。
「あら! ありがとう♪ レオーナちゃんも素敵じゃない。いい人でもいるの?」
 そう言われてレオーナは遠慮がちに答えた。
「いえ……私なんてそんな……」
「でも、気になる人はいるんじゃなくて?」
 それは――レオーナは答えた。
「ええ、一応は――”いる”というよりも”いた”というべきね――」
 過去形? シュタルは訊いた。
「私の初恋の相手はね、死んじゃったのよ。 学生時代にね、騎士候補生の見習い剣士時代に、演習授業の時に――」
 そっ、それは何とも――2人は悩んでいた。
「付き合ってた……?」
 シュタルはそう訊くとレオーナは頷いた。
「ええ。あの人はとてもいい人だった。 それこそ将来を語り合う仲でもあったわね。 だけど――あの人はもう戻ってこない、だから――」
 その雰囲気を察したナナルは悩んでいた。
「ごめんごめん! そんなつもりじゃなかったのよ、嫌なこと思い出させてごめんなさいね!」
 しかし、レオーナは前向きだった。
「いえ、むしろ騎士になるのだからそういうことがあってもおかしくはないってことを教えられました。 だから私、一日一日を大事に過ごそうって決めたんです、そう――あの人がそう言っていたように――」
 なんだか嬉しそうなレオーナだった。
「よっぽどいい彼氏さんだったのね――」
「みたいだね!」
 ナナルとシュタルもなんだか嬉しそうだった。