アーカネリアス・ストーリー

第5章 深淵へ……

第112節 リオルダート組の帰郷

 さらに少し時間が経ち――
「なーんか、みんなで休暇モードだよな……」
 スティアがそう言うとリアントスは答えた。
「今年の夏は休暇なしだったからな、戦士には休息が必要なんだから当然の休みだ、 でなければアーカネルはただのブラック企業にしかなんねえ」
 という男2人、すでにランペールからリオルダートへ向けて出港し、船の上である。 そんな男2人の中に紅一点のこの人が何故か一緒にいた。
「すみません、わがまま言って――」
 セレイナだ。彼女は2人について行ったのである。
「ん? ああ、別に気にしなくたっていいぞ。 あちこち見て回りたいってんなら別にそれはそれでいいじゃないか、 まあ――流石にそのまま見捨てておくのもなんだから、 寝泊りするところぐらいなら提供してもいいけどな――」
 と、リアントスが言うと、セレイナはなんだか嬉しそうだった。 それに対してスティアは意地が悪そうに言った。
「おいリアントス! ちょっとこっちこいよ!」
 なんだよ――リアントスは言われてセレイナから少々離れたところに連れていかれた。
「見たか? あの嬉しそうなこと―― セレイナってお前に気があるんじゃねーの!?」
 そう言われてリアントスは呆れていた。
「はぁ? 何言ってんだお前? んなことあるわけねえだろ?  見るからに、あんな感じの女が俺みたいなハンター崩れに興味があるわけ――」
「でも、セレイナってリアントスと一緒に話している時ってなんだか嬉しそうだよな!?  最初の時もそうだったぜ! 見るからになかなか美人だから俺も見た目だけはタイプだったが――ありゃあお前にご執心だなぁー♪」
 リアントスは悩んでいた。
「お前――ったく、マジで惜しげもなく自分のこと言うよな。 だからって俺も同じとは限んねえんだぞ――」
「俺は自分正直に生きてるからな!」
「バカ正直すぎて周りが見えてないのも考えもんだけどな」
 図星を突かれたスティアはぐうの音も出なかった。
「おっ、おう……」
 リアントスはため息をついていた。
「ったく。 にしても……セレイナって何者なんだろうな、 そういやロイドやライア、ネシェラ辺りは知っているような感じだが、やっぱり精霊族とかそっちの種族なんだろうな。 今度詳しい話を聞いてみるとするか――」
 と、リアントスはセレイナを眺めながら言った。 セレイナは青空を仰ぎ、潮風を浴びながら空を飛んでいる白い鳥を眺め、なんだか嬉しそうにしていた。

 リオルダート島に到着した。 そこは鉄筋コンクリートでできたビルディング群の並んでいる建物が多く、電気も既に通っているのだが――
「いつの間にやら文明レベルでアーカネルに越されちまったな、ひとえにネシェラ執行官様様の力が強すぎるせいってわけか――」
 リアントスは見上げながらそう言った。 ビルディングといっても階層は技術的にせいぜい5階層程度が上限、たかが知れている。
「すごいですね! こんな世界もあるんですね!  でも、それでもネシェラさんの力には敵わないんですね――」
 スティアは頷いた。
「アーカネルに慣れちまったからな、こっちは電気点けても暗れぇんだぞ?」
 そんなに暗いんだ――セレイナはそう思った。
「発電力が違うからな。 こっちは化石燃料を消費することで電気を作り出している――火力発電ってやつだが、 作り出せている電気にも限度があるらしく、停電なんてしょっちゅうだ。 でも、ネシェラ執行官はエーテル・エネルギーそのものを使って発電している、まさに魔法の力様様ってわけだな。 そりゃあ、流石にあれには勝ち目はないだろう――」
 魔法を使っていない? セレイナは訊いた。
「ん? そっか、知らないんだな。 アーカネルにはもともと魔法の力なんてないんだ、だから――」
 リアントスはその一部始終を歩きながら話していた。

 そんなこんなでリアントスの家に着いた。
「とりあえず、入ってくれ――」
 リアントスは言うとセレイナとスティアまでもが家に――
「って! お前は自分の家に帰ればいいだろ!」
 リアントスはスティアに言った。
「いいじゃねえかよ! たまにはお邪魔させてもらうぜ――」
 リアントスは呆れていた。
「ま、帰ったところで居場所がないお前のことだからな――」
 そう言いつつリアントスは家に入った――スティアもあんなでも何かしらの悩みを抱えているのか……。 ともかく、家とはいうが彼の家も立派な豪邸である。 但し、”離れ”という通り佇まいだけは立派だが、規模は推して知るべしということである。 となると、本家であるスティアの豪邸はどれだけ立派なんだろうかということか。

 そして、アレスとレオーナはエドモントンのシュタルの家にお邪魔していた。
「なんか、すみませんね――」
 アレスは申し訳なさそうに言うがランバートが言った。
「いいって! 遠慮すんなって! 誘ったのは俺らなんだしな!」
「そうだよアレス! レオーナもゆっくりとくつろいでいってね!」
 シュタルもそう言うとレオーナは嬉しそうに言った。
「ありがとう、シュタル! のどかでいいところね!  私も将来、こういうところに住んでみたいかな――」
 そうかな? シュタルは訊くとお母様が答えた。
「都会はいろいろと大変なところだからね。 そりゃあ、いろんなものがあって暮らしていくのには不自由はしないかもしんないけど、 でも、その分返って忙しくしていなきゃいけないからねぇ。 ここはゆっくりと時間が流れているところだから、ゆっくりしていきなさいね!」
 そう言われてレオーナは嬉しそうにしていた。