出発前のこと。
「なるほど、そういうこと――」
ネシェラは考えていた、アテラス執行官の話を聞いて何やら考えている様子だった。
「でもなあ……普通は魔物ってのは力に引き寄せられて来るもんだろ?
だから魔法を使って町から遠ざけるっていうのはなんともなぁ……。
それに、機械だってそんなことが実現できていれば――」
ディアはそう言いながら悩んでいると、アテラスも悩んでいた。
「そうですよね、そんな都合のいい話があるわけありませんよね――」
だがしかし、ネシェラは違った。
「いえ、原理的には可能よ。
確かに、普通は魔物ってのは力に引き寄せられて来るもんだから、
ただ魔法を使って魔物を遠ざける、それを機械的にやって何とかできないか――
それだけを考えると悩みどころだけど、使い方を変えることでやれないことはないと思うのよ。」
マジか!? ディアは驚いていた。
「ええ、それ自体は実現したこともあるし、技術面ではそんなに難しくないことも確認済みよ。」
既に実現済みとか……まあいいや(ネシェラだから)。それにはアテラス執行官も期待していた。
「それでは――すぐにでも完成しますかね!?」
ネシェラは首を振った。
「残念だけど、そうは問屋が卸さないわね。
言ったように、実現しているからには技術面ではクリアーしているんだけど、
問題は規模――つまりフィジカルな部分が不足しているってことよ。」
どういうことだろう? アテラスは訊いた。
「私が実現しているスペックのものは、簡単に言うと手で持って運べるサイズのもので人一人守れるかどうかが関の山――
つまり、大きさや効果範囲的にも町1つを守るということを考えると明らかに材料が足りていないってことね。」
そう言われてアテラスは悩んでいた。
「そっ、そうですか――わかりました。
それでは、材料を手配すればよろしいのですね? 何が必要でしょうか?」
するとディアが言った。
「なるほど、そういうことか。
てことはまずは大量のエンチャント素材が必要そう?」
ネシェラは頷いた。
「ええ。それに、完成形のそれの性質を考えると拠点設置型のものにした方がいいことになるし、
それにいくら大量のエンチャント素材って言っても場所を取るようじゃあねぇ――」
場所? それなら――アテラスは言った。
「場所なら城下への入り口に置きましょう! それならスペースなどいくらでも――」
だが、
「残念だけどそう言うわけにはいかないわね、
いたずらとか窃盗とかされたりなんかしたら一大事だからね。
だからここでやることはただ一つ、
まずは城下町――いえ、セキュリティ面に配慮して安全かつメンテもしやすい場所を確保すること、
そして、その場所に設置するのにふさわしい大きさで、
なおかつ周りへの影響も考えたエンチャント素材を加工することよ。
さらに設置する上で耐久面を重視した設計にすること、鉄鉱石で専用の設置台みたいなのを作るなどした方がいいわね。
ということで、これが必要な要件よ。」
そっ、そんなに――アテラスは悩んでいた。
「一度に考えずにまずはブツを作ることから始めましょう、
そのためにはとりあえず素材ね。
第一に考えないといけないのはもちろんエンチャント素材、そして鉄鉱石ね。」
なるほど……アテラスはさらに悩んでいた。
「となると、またアルティニアですか――」
ネシェラは首を振った。
「できるだけパワーのあるエンチャント素材のほうがいいわね。
となると、採掘する場所は一つ――」
えっ、どこ? 2人は首をかしげていた。
「それは私が案内するわね。
さてと、そうと決まったら早速休暇の準備でもしようかしら。」
休暇って――ネシェラが去って2人は悩んでいると、話を聞いていたサイスがやってきた。
「少なくともアルティニア方面に行く必要がありそうだということですね。
私にも採掘場所の目星がついています、他にありませんからね。
折角ですから、私も久しぶりに休暇を取ることにしますかね――」
そう言われて2人はキョトンとしていた。
「そっ、そしたら鉄鉱石が必要だってさ。
俺はネシェラから設計について打ち合わせをしたらそのままメタルマインの調査に行ってくるから、
執行官殿は材料の事務処理系とかの手配と設置場所の検討をお願いしていいかな?」
「えっ!? ああ、そうですね――それなら承知いたしました……」
そしてティンダロス邸にて。
「なるほどな、わかった。そんなら俺も帰ることにするか――」
ロイドはそう言うとシュタルは頷いた。
「じゃ、私は留守番してよっかなー?」
ネシェラも頷いた。
「お願いね。というか、なんなら実家に戻ったって構わないでしょ、近いんだしさ。
ここんとこ魔物魔物で働きづめなんだし、たまにはゆっくりしてたってバチは当たんないわよ。」
それもそうか――シュタルは考えていた。
「アルティニアですか……久しいですわね」
今度はアムレイナが話に参加してきた。
「お母様? やっぱりアシュバール邸の別荘でも?」
アムレイナは話した。
「もちろんありますが、アルティニアは私のいたプリズム族の里から一番近い町ですからね。
もちろん一番近いのは本当は”港”のほうですが、大きな町を目指すとなると、やはりアルティニアということになりますからね」
その詳細はともかく、どうやら彼女にとってアルティニアは第2の故郷みたいなところがある町らしい。
「そうです! それなら、私も一緒に連れて行ってくださらない?」
アムレイナはそう言うとネシェラは頷いた。
「ええ、もちろん! 断る理由はないわね。ですってよ、ライア、一緒に行かない?」
ライアは嬉しそうだった。
「もちろんよ! そっか、お母様はアルティニアで生計を立てていたことがあったのね――」
ロイドは周囲を見渡したがアレスが見当たらないことに気が付いた。
「あいつ、まだ戻ってきてないのか――」
ランバートが頭を掻きながら言った。
「まーだ帰ってきてねえな、今日あたり戻ってくるって訊いたんだけどな。
アルティニアに戻るんだろ? 道中、気をつけろよ」
ロイドは得意げに答えた。
「ランバートこそ、俺がいない間にヘマすんじゃねーぞ」
ランバートも得意げに答えた。
「大丈夫、ヘマしていたら今ここでこうしてねーからな」
それはネシェラ効果だろうか……はてさて。