あの戦いのあった年からまた2年の月日が流れた。
ある日のこと、アレスは慌てて家へと戻っていた。
「大変だ! また魔物の群れが!」
しかし、リビングにいたのはシュタルただ一人だった。
「えっ? 魔物?」
アレスは戸惑っていた。
「あれっ? ロイドは?」
シュタルは楽しそうに答えた。
「もう! いっつもロイドに頼りすぎだよ!」
アレスは照れているとランバートが現れて言った。
「そりゃそうだ、長い付き合いだし、同じ付き合いでもシュタルだってロイドに頼り気味だろ?」
それに対してシュタルが意地悪そうに言った。
「だったらアニキだって一緒じゃん♪」
ランバートは照れていた。
「まあ――あいつがハンターの時代からそうなんだけどな。
ったく、あいつの戦闘能力は一体何処からきているのやら――」
ランバートは改まった。
「ロイドならいねえぞ、アルティニアに行くミッションだ、またエレメント素材を取りに行くんだとさ。
しかもライアさんとサイス執行官、ネシェラ執行官とアムレイナ執行官まで一緒だ、
なんとも豪華なメンツだが、休暇がてらに仕事をこなすことにしたんだとさ――」
そう言いながらランバートはネシェラが作りかけの武器を眺めながら言った。
その武器は今度は基本の刀鍛冶はそのままに、さらにいろんな素材を掛け合わせて強度と軽さを備えつつ、
特殊な製法によって加工された代物なんだそうだ、ネシェラ曰く”疑似セラミック製”、
転じてセラミック製の武器をアーカネルに売り出す予定らしい。
今後はこの武器が主流になってくるようだ。
「せっかくなら離れた相手と直接話ができる道具みたいなのでも作ればいいと思うんだけどな――」
それに対してシュタルが言った。
「それ、昨日の話? 昔の魔法使いたちは魔法を使って遠くに話ができるっていう――」
ランバートは頷いた。
「ネシェラ執行官だったら再現できそうなんだけどな――」
だが、シュタルは違った。
「私はそうは思わないな、ネシェラ姉様の話を聞いたらねぇ……」
どうしてだ? ランバートは訊いた。
「気軽に遠くの人と話ができるとその分ありがたみが薄れるって――」
遠くに話ができた結果、むしろそれありきとなってしまう。
それにより、今度は仕事がそれ中心に回るようになり、とても忙しい世の中になってしまう――
ネシェラはそれを気にしていたようだった。
「だから作れないことはないけど、今のアーカネルはそんな世界じゃないから作るとしたら今じゃないんだってさ。
確かに1分1秒を遠い場所から管理される世の中――そんなこと言われたら私もあんまりいいとは言えないなぁ……」
なるほど――ランバートは考えた。
「仕事に使われたらか……まあ、それが実現したらそういうことにもなるってわけだな。
確かに伝達手段は申し分ないが、そうなると仕事量も増えそうだな、
今でも手一杯なのにいろいろと用事を時間単位……いや、分単位秒単位で押し付けられそうだ。
なるほどな、作るにしても必要・不必要をちゃんと見定めて作っているんだな――」
と、悩んでいると、アレスが――
「あの……魔物が――」
あっ、そうだった、そう言われて2人は我に返った。
「俺らもちょうど休暇を取ろうと考えていたところだったんだがちょうど良かったな。
よし、休み前に一仕事行ってくるか!」
ランバートがいうとシュタルも調子よく言った。
「そうだな! アレス、案内しなさい!」
完全にネシェラ姉様の影響を受けている……。
その一方でロイドたちはアルティニア方面へ、
”ノース・エンド”と呼ばれる付近を歩いていた。
季節はすっかり夏を通り越しておりこれから涼しくなっていく時期へと差し掛かるわけだが、
そうなるとこの地域で心配なのは天候である。
しかし、それ以上で問題なのは当然――
「ちっ、面倒だな――魔物もだんだん激化してくるな、
アルクラドでの戦いからさらに酷くなっている気がするな――」
ロイドは剣を片付けつつ言うと、ライアも同じく槍を片付けつつ言った。
「それでも、私たちでも相手にできるような魔物だからまだマシな方なんじゃない?」
確かに、それもその通りか――ロイドは考えた。
「ということは常に鍛錬を怠るなってことか」
そういわれてライアは悩んでいた。
「そういうことになるわね――」
”ノース・エンド”地方とは、アーカネルが属している地域であるアルキュオネ平原の北限を意味した地方ということである。
古来からそう言われている地方であり地理的にいろいろと不便な土地でもあることから大きな町が根付くこともなく、これと言った文化も発達していないのが特徴である。
但し、ここから先はアルティニア雪原の入り口……つまり、雪の降りしきる土地へと差し掛かるため、入念な準備が必要とされるのだが――
「あそこがノース・エンドの終端ですね――」
アムレイナはそう言うとネシェラは頷いた。
終端の目印として石造りの城壁のようなものが大破した跡が残されていた、
かつて関所があったことの名残らしく、その跡なのだという。
「ええ。
でも、まだ冬には早いから雪を拝むことになるのはだいぶ先に進んでからになりそうね。」
ということは、しばらくは安心できそうである。
「”アルティニアの港”はどこにあるの?」
ライアは訊くとサイスが答えた。
「もう少し先、少なくとも白い大地が見えてからですよ」
”アルティニアの港”というのはアルティニアの町とはずいぶんと離れた位置にある町のことである。
アルティニアの港というからには文字通り港としても機能しているのだが、そもそもアルティニアは雪と氷に閉ざされ、
なおかつ海抜もずいぶんと高いところにある地であるため、港を置くことができない土地である。
そのため、港は町本体とはずいぶんと離れたところに置かれており、
彼らはまず、そこを目指しているのである。
アルティニアの町本体はさらに遠く、この大陸の北東端を目指すため、厳しい雪原を横断しなくてはならない。