アーカネリアス・ストーリー

第4章 争乱の世

第108節 闇に葬られた騎士団の動き

 ルイスを置いて、ロイドとネシェラの2人はそのままアムレイナのもとへとやってきた。
「あらネシェラ! どうかしましたか?」
 ネシェラはにっこりとしながら訊いた。
「ねえお母様♪ 昨日話してくれた知人のお話をもう少し詳しく教えてくださってもよろしくって?」
 そう言われてアムレイナは悩んでいた。
「ふぅ……流石ですね、私が想像している以上に早いです――。 そうです、もはやある程度知っているようですのではっきりとさせておきますか――」
 アムレイナは例によってセディルの家に行くように話をしていた、ただし――
「あの、申し訳ないですけど、シュタルには――」
 ネシェラは頷いた。
「ええ、恐らく、当人の意向なんでしょ、まだ伝えない方がいいって言うのならそうするわね。」
 やっぱりそこまで勘付いているのか――アムレイナはむしろ嬉しそうだった、思いっきりネシェラのことを可愛がっているようだ。

 フラッティル邸の例の部屋にて、ネシェラは話を切り出した。
「それで……ナナル=ヴィームラスと何の話をしていたの?」
 セディルは驚いていた。
「……ヴィームラス? ナナルって……シュタルの母親?」
「それとも、ナナル=エデュードのほうがいいか?」
 ロイドはそう訊いた、エデュード……
「何っ!? まさか――シュタルの母親はあのナナル=エデュードなのか!?」
 セディルは驚いているとネシェラは言った。
「恐らくね。 でも、多分だけど、子供であるランバートもシュタルもこのことは知らないみたいなのよ、ね?」
 アムレイナは答えた。
「ええ、まさしくその通り。ですが、子供たちには伝えてはいないそうです、勘付いてはいるかもしれませんが――」
 そうなのか……セディルは唖然としていた。
「エドモントンに伝説のハンターがいるという噂を耳にしたことがあったが、そうだったのか――」
 すると、アムレイナは意を決して話した。
「彼女らとは長い付き合いです。 元は私たち4人……シルル=ディアンガートとナナル=エデュード、 そしてアムリナ=ドリーンとシェリル=ラトリスの4人はハンターでした」
 それにはロイドも驚いていた。
「アムリナ=ドリーンとシェリル=ラトリスだって!?」
 ネシェラは考えた。
「どちらも幻のハンターと称されている人物ね、伝説のハンターのシルナル・コンビと行動を共にしたことがあるって。 でも、その後に彼女らがどうなったのかさっぱりわからなかったんだけど、後になってシルナル・コンビの2人だけが――」
 アムレイナは頷いた。
「ええ、アムリナ=ドリーンは私のことです。 プリズム族としてアーカネルの世をわたり歩き、一族の伝説たる”プリズム・ロード”となるその日まで修行を重ねていく―― その時の私はアムリナ=ドリーンとしてやってきました。 私とシェリルは名前を変えていたのはプリズム族がアーカネルの世を渡り歩いても大丈夫なのか気にしてのこと、 本当の名はアムレイナ=ドリーンとシャオリン=ラトリスと申します――」
 そうだったのか、つまりはアムレイナとシャオリンはプリズム族――
「私たち2人はお互いの里の使い手として、 そして一族の伝説”プリズム・ロード”となる日までハンターという職業に身を置き、 切磋琢磨していました、もう50年ほど近く昔のことです。 そんな折、彼女らに出会ったのです――」
 シルナル・コンビである。
「4人とも、女性同士ということですぐに打ち解け合いました――」
 ロイドは頷いた。
「今でこそそれほどでもないが、当時はハンターと言えば男社会だったからな、女性の集まりというのは珍しい方だったみたいだな」
 アムレイナは頷いた。
「そうです。それに何より、シルルがプリズム族だったこと、それで私たちはすぐに仲良くなれました――」
 えっ!? そうなの!? 3人は驚いていた。ただし、ネシェラの驚きは違う理由だった。
「ん? えっ? あれ? 知ってるの私だけ?」
 お前知ってんのかよ、むしろそれはどうしてだ。言ってもネシェラだから知っていても不思議ではない気がするが、なんとなく。
 とにかく、アムレイナは話を続けた。
「彼女は孤児だったそうで、エデュートさんのところに拾われて、ナナルと共に幼少期を過ごしていたそうです。 彼女らはそれ以来の仲なんだそうです」
 アムレイナは頷き、さらに続けた。
「ご存じかと思いますが、当時のアーカネルはハンター事業に対する規制が厳しい時代でした。 そのため私たちはアーカネル騎士を目指すことにしたのです、そう――それが私がアーカネルに入ったきっかけです――」
 その頃にはアムレイナもシャオリンも元の名前を名乗ることにしていたそうだ。ん、でも、ということは……?
「4人でアーカネル騎士に? ということはまさか、シルルもナナルもアーカネル騎士をやっていたことがあるというのか!?」
 セディルはそう訊くとアムレイナは頷いた。
「はい。騎士の段位はクラス3と4……ナナルが3でシルルが4、それもたったの4年で成し遂げた快挙として、 一部の騎士たちからは称賛された一方で、一部の主に騎士出身の貴族たちからは疎まれていました――」
 何となくわかる気がする、3人は悩んでいた。
「そんな4人で結成したのは”白銀の騎士団”でした。 活動記録が残っていないのは当時の貴族出身の執行官による陰謀で、私らのことをよく思っていなかったが故の事でしょう。 無論、私は執行官長となった後にそのことを断罪し、深く追及したのですが、残念ながらすべての記録は抹消されていて、残っていなかったということです」
 怖い怖い怖い。アシュバール様はお怒りにならないでください。
「ですが――闇に葬り去られた記録、あの記録だけはどうしても取り戻したくて、 かつての”白銀の騎士団”の面々は人知れずに活動しています」
 その記録とは? アムレイナは話した。
「”白銀の騎士団”――ハンターのみならず、女性同士の集いはアーカネル騎士でも珍しいものでした。 そう言うこともあり、他にも3名の女性が私たちと共に活動することとなりました。 ですが――その3人のうちの1人のメンバーが謎の不審死を遂げています。 シルルはその謎を解明すべく、再びハンターとして身を置くと、当時の謎を今でも追っているのです――」
 そうなのか――3人は悩んでいた。
「私は執行官となりそして結婚をいたしましたし、シャオリンも執行官となった後に結婚をし、 その後退役をするとともに、今は故郷の森へと戻っているようです。 ナナルは結婚してエドモントンに移り住んでいますがシルルは1人で探しています。 もちろん、私たちは彼女と共に行く選択をしたのですが、 私たちは結婚したのだから幸せな家庭を築き上げてほしいと言って聞かないのです。 ですが、彼女のためならとずっとフォローだけはしています。 とにかく、彼女の身が心配です――」
 つまり、キーマンはシルルということか、3人は考えていた。
「やっぱり、伝説のシルルお姉様は伝説のシルルお姉様ってわけね。」
「らしいな、噂じゃあ相当の女だって話らしいが――まさにその通りって感じだな」
 ネシェラとロイドはそう言った。いや待て待て、もうシルルお姉様扱いか。
 なお、ハンター業への規制緩和が進められたのはアムレイナが執行官長になったあとのことからだったらしい。