流石に戦いの行方も見えてきているので後日談、アーカネル城の執行官執務室にて。
「あんな魔法にも耐えられるだなんて、ネシェラってやっぱりプリズム族なのかしら?」
ライアはそう訊くとアムレイナは答えた。
「少なくともその類なのは確かだけど――
でも、プリズム族でもそこまで魔法に強い子はいないのよ――」
そっ、そうなのか――ロイドは狼狽えていた。
「単にプリズムの血を引いているからというだけではない……つまり、わかんねぇってことか――」
ネシェラも悩んでいた。
「そうなんだ――私にしてみれば昔からこんなだから何がどうってことはないんだけど、
それでもやっぱり私も何故こんななのかはとても気になるのよね――」
どうやらネシェラの魔法耐性について一番気になっているのはほかでもないネシェラ本人のようである。
「生まれたころからということは先天性のもの――それ以上はわからないということですね」
生まれつきである――生きている間に何かあったということではないのならそれ以上の追及は難しそうである。
「ふぅん……わからないんじゃあ仕方がないか――。
せっかくだから帰った時にヴァルハムスに訊いてみるかな――」
ディアは難しい顔をして考えていた。
何はともあれ、ネシェラ執行官の活躍で――またこの女かって感じだが、
とにかくすべての魔は沈黙した。
ティンダロス邸のリビングまで戻ってきた一行、皆疲れていたので休もうとしていた。
「ウロボロス、ほぼ似たような攻撃しかしてこなかったな。
あんなのが伝説を名乗る魔物なのか?」
リアントスはそう訊くとロイドは答えた。
「破壊の悪魔だからな、破壊すること以外の感情は持っていないんだろ。
そもそもあれが生まれ出たのはまさにセント・ローア期と言われているが、
それ以上のことは何もわかっていないらしい。
確かなことはランブルの言った通り、その時々に応じて破壊の化身たる姿が変わるって言うことだけだろう。
感じた分には、その姿を破壊の化身たる姿を整えるには長い年月を必要とするってところらしいが――」
ネシェラはベンチの上に腕と脚を組んで座っていた。
「そんな感じだったわね。
特に復活が完全ではないせいか”力不足な破壊の化身”ってのははっきりと感じたわね、
あいつの力なら私でも耐えられるぐらいだったし。
もしあれが完全復活としたら今回のようにはいかないハズね。」
リアントスは考えた。
「”破壊の化身”ゆえに目先の敵に対してとにかく力を一心不乱にぶちまける能しかなかった、
だが、その実態は”力不足な破壊の化身”ゆえにネシェラを灼いたが効かなかった――と、
そういうこったな」
そこへランブルが言った。
「ですが、何故その”破壊の化身”が復活することになったのか――それも問題のように思うのです」
するとネシェラがため息をついて話し始めた。
「やれやれ、話するタイミングを今か今かと待っていなくたって――
さっさと出てきなさいよ、ウスライト!」
と、呆れたように言うとウスライトが楽しそうに出てきた。
「あははっ! 流石にバレているね!
なるほど、”ウロボロス”が復活した理由か――そいつは何とも大きな問題だねぇ――」
ロイドは呆れていた。
「もったいぶってないでさっさと話せっつってんだろ」
しかし、ウスライトは――
「いやいや、残念なことに、まさに大きな力が働いているから見えなかったんだよ、そもそもやつが復活することがね。
無論、やつがいるっていうことはキミらも感じているのと同じぐらいには感じたよ。
だけど、私としてもその程度のものだよ」
と、ウスライトは話を切ると――
「そう――ま、それは大体想像している通りだけど――で?」
そう言われてウスライトはお手上げだった。
「やれやれ、キミほど手ごわい人はそうはいないよ。
”ウロボロス”が復活した理由としてもっともなのは私が見えなかったのと恐らく同じ理由だ、
”何かしらの大きな力が働いている”から。
キミのことだからそんなことも大体考えているだろうけど、私が考えられるのもそんなところさ」
ネシェラは訊いた。
「じゃあさ、セント・ローア期の”ウロボロス”を斃したのは誰?」
ウスライトは頷いた。
「なるほど、そういうアプローチか、いい質問だ。
ローアのウロボロスはいくらでも蘇ったんだ、暗黒時代だから破壊の化身の現れるサイクルもとても早かったんだ。
しかし、そのたびに世界の勇士たちによって討伐されている――それで、
世の中の闇を振り払うために英雄が立ち上がったわけだ――」
ネシェラは頷いた。
「”イセリア=シェール”って女でしょ。
彼女はプリズム族の生ける伝説”プリズム・ロード”の元祖と呼ばれた使い手なんでしょ、
プリズム族の間では有名の話みたいね。」
それを訊いてウスライトは狼狽えていた。
「おっと――その話を持ち出すとは……そっか、プリズム族の伝承を調べたことがあるんだっけね。
如何にもその通り、その彼女がまさに当時の英雄と呼ばれた存在であり、
”世界を均す者”として当時の数多の英雄たちを導いたともいわれているらしいね――」
ん? その話――ロイドは気が付いた。
「あれっ、”世界を均す者”って”シルグランディアの名を継ぐ者”?
てことはつまりその――”イセリア=シェール”というのは――」
ウスライトは考えた。
「残念だけど確証はない、同一人物なのかもはっきりはしていない。
ただ――イセリアには当時の仲間がいて、例のヴァナスティアのヴァディエスなどもそのうちの一人さ。
でも、そんなわけだから”シルグランディアの名を継ぐ者”は案外イセリアに近しい人物の可能性があるね」
そこははっきりしないんかい――全員呆れていた。
「はああ……ウロボロス相手にして、そのまま休みなしで戻ってきたばかりだから流石に疲れたわね、いい加減に風呂入って寝るわ――」
ネシェラは手で口を押さえてあくびをすると、ゆっくりと部屋を出ていった。
「……今の話、もし同一人物としたら、イセリアって女はネシェラみたいな女だってことになりそうか?」
リアントスは訊くとウスライトは答えた。
「あるかもね……。
それこそ、もしかしたら”シルグランディアの名を継ぐ者”である彼女がウロボロスを斃せたのもイセリアの系譜の者ゆえなのかもしれないね――」
だんだんとんでもない方向へと話が――。
「……だとしたら、今後はネシェラ1人でも十分じゃねえのか?」
リアントスは冗談交じりにそう言った。いや、案外――