約19年前、エターニスにて。
「ティバリスさん――」
ランブルは心配そうに訊いた。
「ああ……残念だが、亡くなっちまいやがった――」
ティバリスはなんとも落胆したような面持ちで話をした。
「そう……ですか――」
ランブルはがっかりしていた。そんな彼に対してティバリスはにっこりとしながら肩を押さえて話した。
「いいんだ、いろいろと世話になったな、ランブル!
むしろお前には感謝しかない――」
ランブルは首を振った。
「そんな――私には、彼女を救うことができませんでした――」
ティバリスは首を振った。
「何を言うか、お前はよくやってくれたよ。
俺にはお前ほどの精霊力はない、だからお前がいなければあいつからもう一つの命が生まれることなんてなかったんだ。
だからお前は一つの命を救ったんだ、ネシェラの命をな。
俺にはできないことだ、だから――あいつが亡くなったのはお前のせいじゃない――」
それはまさにネシェラが生まれて約1年経った後、彼女の母親が亡くなった時のエピソードだった。
それから半年後のこと――
「アーカネル騎士ですか――」
ティバリスとランブルは話をしていた。
「あいつが亡くなっちまったからな――こっちで暮らすってのもいいんだが、
俺はシャバの空気のほうが好きだ――人間の世ってやつのほうがな」
それに対してランブルはにっこりとしていた。
「それはなんとも楽しそうですね――」
それに対してティバリスは焦っていた。
「ああ。だからうちのガキんちょどもをそろそろアルティニアに連れて行こうと思ってな、
あいつらにも向こうの世界というのを見せてやりたいんだ――
いや――だからって、お前にまで来いってわけじゃあないんだぞ」
それに対してランブルはにっこりとして答えた。
「すみません、実は私も住まいを移そうと考えていたところなんです――」
ティバリスは呆気に取られていた。
「どうしてだ? エターニスから離れることもないだろう?」
ランブルは頷いた。
「ええ、実は私の遠い先祖というのがアルクラドと呼ばれる地で英雄として戦い抜いたという話がありまして、
少し興味を持ったのですよ。
それをナフィアさんにお話をしたところ、彼女も行ってみたいというもので――」
ナフィアは亡くなったネシェラとロイドの母の名である。
「ああ――自分が病気でなければもっといろんなところに行ってみたいって言ってたっけな、あいつ――」
ランブルは頷いた。
「ティバリスさんはそのためにエターニスを飛び出しているのでしょう?
あなたが帰ってきたときに彼女にしている話――彼女はいつも楽しそうにしていました、
彼女のあんな嬉しそうな顔……今でも忘れられません――」
ティバリスは頭を掻いていた。
「まあ――そうなんだが。
でも、外の世界はなかなか厳しいぞ? いいのか?」
ランブルは真面目な顔で頷いた。
「覚悟の上です。
元より、私の先祖は外の世界出身ですから、私にできないなんてことはないはずです!
……ダメですかね?」
ティバリスは首を振った。
「いや――、だったら別にいいんじゃないか?
俺だって好き勝手動いているわけだしな。
ただ――エターニスに慣れちまった精霊が外の世界に行けるものなのかって思ってな――」
ランブルは頷いた。
「ティバリスさんは相当苦労されたのですね、わかりました、心得ておきます――」
ティバリスは頷いた。
「ああ、いい返事だ、流石は英雄”ライブレード”の末裔だな――」
だが――
「ティバリスさん! 大変です!」
別の精霊がティバリスのことを呼んでいた、幼き頃のサイスである。
「なんだ? どうしたんだ?」
「ネシェラさんがいなくなってしまいました!」
なんだって!? ティバリスは焦っていた。
「くっ……つい先日立ったを覚えたばっかりなんだが、目を離すとすぐこれだ――」
ティバリスは悩んでいた。
「えっ!? もう歩けるんですか? 早いですね――」
ランブルは驚いていた。
「あまりに早いんでちょいと心配だったんだがな、
それでも思った以上にしっかりと歩くもんだから心配いらねえかと思ったらやたらと動き回る娘でな、
だからむしろそっちのほうが心配になってきてな――」
それは心配だ。すると別の精霊が――
「大変ですティバリスさん! お嬢さんが、エターニスの外に行ったらしいのです!」
なっ、なんだって!? 全員パニックになっていた。