結局、森の主という存在には出会うことがなかった。
というのも、それもそのはず――
「森の生態系がだいぶ変わっているみたいだな。
みてみろよ、いろんな魔物が生存競争でやりあった痕だぞ、これ。
平野部での戦いはこんなところでも起こっているんだとみたほうがよさそうだな」
ディアはその場の惨状を眺めながらそう説明していた。
「こいつは厄介だな、まだこのあたりだけの話にとどまっていればまだしも、
いずれこれがアーカネル近辺でって話に……町のほうまで被害が及ぶのも時間の問題ってわけだな。
なんとかしないとな……」
ロイドもその惨状を見てそう判断していた。
「ヴァナスティア聖騎士団はそのためにやってきたんだ。
もちろん、フォーンの白騎士団にも協力をしてもらっている、だから手始めにアルクラド平原を取り戻すのが先決ってところだな」
ディライドはそう言うとネシェラは頷いた。
「そうね、ここを取り戻さない限りは苦しい状態が続くのは必然ってことね。
アーカネルで籠城していてもやがてはアルクラドの状態が世界全土に広がっていくのは確実……
だからその前に何とかしなければ行けないということになりそうね――」
そのままオーレスト方面へと戻る道中、グリフォンが……
「こいつは……早めの対策が求められそうだな……」
アレスは悩んでいた。見渡す限り、そいつは10体ほどいるようだった。
「鶏肉料理は得意なんだよな♪」
ディアは得意げに槍を取り出しつつ構えていた。
「あら、奇遇ね、私もそうなのよ♪」
ネシェラも得意げに構えていた。
「だそうだ、今晩の夕飯は決まったようだな」
リアントスも得意げにボウガンを構えていた。
「今晩どころか、しばらくは食糧難とは無縁になりそうだな」
ロイドも剣を構えていた。
「らしいわね。難民が多いから大助かりよ」
ライアも大槍を構えていた。
「いよっしゃあ! 覚悟しろよ、夕飯ー♪」
スティアは楽しそうだ。
「このメンツなら、気にするのは今晩のおかずだけってことになりそうね――」
シュシュラも得意げだった。
「よし! そうと決まったら早速食料の調達だ!」
アレスの合図とともに戦闘が始まった。
それから数日後、ネシェラは執行官執務室で事の次第を話していた。
彼女と共にロイドとディライド、そしてシュシュラとディアまでもが話に参加していた。
「なるほど、ヴァナスティア様とフォーン殿までもが加勢に……」
ノードラスはそう言いつつ、ディライドとシュシュラに対して祈りを捧げるかのように挨拶をしていた。
「このままだとジリ貧になるのは確実……今のアーカネルをみるや、
全く危機に瀕している様子は見られないようだがひとえにこのネシェラ執行官のおかげってやつなんだろ?
なら、この女の言う通りにしてみたらどうだ?」
ディライドはそう言うとアムレイナが話をした。
「ですってよ。
ヴァナスティア様までが言うのだから、この際、その通りにしてみてはいかがかしら?」
するとノードラスは頷き、ネシェラに言った。
「ネシェラ=ヴァーティクス執行官、これまでの働き等を踏まえ、今後の方針についてはすべて貴殿に委ねよう。
無論、その責任はこの私が取る――いや、状況が状況だからな、むしろ成功しないことには明日はないと思っていい。
とはいえ、貴殿のことだからそのようなことは今更だとは思うが――。
それからアムレイナ様……貴族会の動きについては引き続きよろしくお願いいたします」
そして、この争乱の世のミッションについてはネシェラの執行のもとで行われることとなったのである。
話は続けられた。
「随分な大役を任されて緊張するわね。」
ネシェラはそう言った。緊張しているようなやつが得意げになって語るようなセリフではない。
「そうね、貴族会ならアーカネルのバックを、東側のほうを任せたほうがいいんじゃないかしら?
言ってしまえばクレメンティル側を任せるようにすればいいのよ。
それなら彼らとしても納得のいく口実になるんじゃないかしら?」
ノードラスは考えた。
「貴族騎士にアーカネルの守りを、ですか?」
ネシェラは頷いた。
「彼らは下々の騎士や兵隊たちを使って主力部隊を任せていたというのだけど、
それはあくまで彼らのプライドだけの問題だからね。
でも、プライドがって言うんだったら遠征地に飛ばすよりもホームで戦わせたほうが彼らとしては納得のいく話になるんじゃないかしら?
それで足りない分は聖騎士団を少しだけ配置させましょう、聖騎士団と一緒というのなら連中もある意味納得するんじゃないかしら?」
貴族のプライドを刺激するネシェラの作戦――恐るべし、なんとも納得のいく話ではないか。
「それなら”アナスタシア聖騎士隊”をここに置くことにしましょう。
ヴァナスティアの聖女と共にということなら人々も安心することでしょうし――」
シュシュラはそう言うとネシェラは頷いた。
「ありがとう、そのほうがいいかもしれないわね、一般民のケアか――」
そして、次はウサギの件である。
「アトローナの職人ですか?」
サイスはそう言うとネシェラは得意げに言った。
「見ての通りの色ボケクソウサギでしかないんだけど、腕”だけ”は確かよ。
あと、これは内緒なんだけど、色ボケクソウサギのクセに次代の聖獣ディヴァイアスだからね。」
そう言われて照れている色ボケクソウサギ、それに対してサイスは頷いていた。
「なんと……聖獣様まで尻に敷かれていらっしゃるのですね、流石です。
確かに、あなたはホーリー・ラビット種……手先が器用というのも頷ける話です、
ゆえにアトローナの職人ということですね」
そう言われた色ボケクソウサギは嬉しそうに答えた。
「流石はネシェラのお兄様! お目が高い!」
ネシェラは舌打ちをした。
「一応念のために言っとくけど、あんたのとこに嫁に行くなんて、たとえ口が裂けようが天地がひっくり返ろうが絶対に言うことないから安心しなさいよね?」
ディアは驚きながら答えた。
「えっ!? あっ、いやいや! そんなことまったく考えてないから心配しなくてよいよ!?
だって――キミと添い遂げようものなら絶対にものの数秒で影も形もなくなるに決まってんじゃん?
流石の俺でもそれだけは考えさせてもらいたいなぁ……」
というと、サイスは思わず思いっきり噴き出してしまった。
それに対してむっとしていたネシェラは得意げに答えた。
「そう……わかってるんだったら話が早いわね。
2人とも、後でものの数秒で影も形もなくなるまでボコボコにしてあげるから覚悟しときなさいよね♪」
ネシェラはにっこりと嬉しそうに言うと2人は冷や汗が止まらなかった、しまった――