アーカネリアス・ストーリー

第4章 争乱の世

第92節 圧倒的存在感のネシェラ

 ウサギはネシェラ相手に身構えていた。
「さて、どうしてあげようかしら?」
 ネシェラは得意げに言った。
「きっ、気を付けてネシェラ! そいつ――強いわよ……」
 シュシュラとシュタルは茂みに隠れながら応援していた。
「大丈夫よ大丈夫。ライア、みんなのこと助けてあげて!」
 そう言われてライアがロイドの元へとやってくると、彼のことを癒していた。
「大丈夫?」
「くっ、なんとかな……。 とにかく、あれは厄介だぞ、もしかしたらこの森の主ってやつかもしれないな……」
 しかしその時、ウサギはそっちに反応し、力をためると――
「テメェはくたばってろ! 必殺・ライトニング・ロード!」
 ロイドめがけて猛突進!
「なっ!? ライア、離れろ!」
 ロイドはライアは突き飛ばした!
「えっ! そんな! ロイド!」
 だが、その時……
「ちょっとぉ? 私を前に余所見する暇があるなんていい度胸しているわねぇ?」
 なんと、ロイドの前にはネシェラが!
「なっ!? ネシェラ!」
 しかし、それに対してウサギが――
「うえっ!?」
 すぐさま反応! 慌てて急ブレーキをかけると、ネシェラの目の前で止まった!
「……えっ!?」
 ロイドは驚いていた。するとネシェラ、そのまま跳び上がると、ウサギの背中に乗って物干しざおで頭を何度かぶん殴っていた。
「この! クソウサギ! そろそろいい加減にしなさいよ!」
「いっ、痛い! 痛いよお! わかった、わかったからもう降参だぁ!」
 えっ、どういうこと……そんなあっさり降参……何人かはその光景に呆気に取られていた。

 ロイドは周囲を見渡していた。
「やられているのは……男ばかりだな」
 ネシェラは頷いた。
「所詮は女の子には目がないただの色ボケクソウサギだからね。」
 それに対して全員目が点になっていた。
「ほらぁ! あんた! ちゃんと謝りなさいよ!」
 ネシェラはそう言うとウサギは照れた様子で答えた。
「いやあ、ごめんごめん、本当に御免よ。 ここ最近魔物に無茶苦茶襲われてピリピリしていたんだよ。 だからついついキミらに当たっちゃってね――」
 えっ、なんなんこのウサギ……。
「ほら、色ボケクソウサギ、ちゃんとあいさつしなさいよ。 このままじゃああんた、ただの今晩の夕飯のおかずにしかならないわよ。」
 そう言われてウサギは焦って答えた、しっかり尻に敷かれているようだ。
「えっ!? あっ! それもそうだね!  俺の名前はディラウス=シャルエールっていうんだ! ディアとでも呼んでくれるといいよ!  以後、お見知りおきを! お嬢さんたち!」
 と、主に女性陣に対してそう言うと、ネシェラが腕をポキポキ言わせていた。
「あっ、いや、その……今のはちょっとした冗談です……」
 ウサギは身を引いていた。
「ディラウス=シャルエール? なんだ、どっかで聞いた名だな……」
 ディライドはそう言うとディアは得意げに答えた。
「ふふん、流石はお目が高いなそこの兄様は。 何を隠そう、この俺こそが――」
 しかし、ネシェラがすぐさま遮って話を続けた。
「ただの色ボケのクソウサギ。 出身地はアトローナという通り、あの地の職人の1人という存在にすぎないってワケ。 ま、こいつの名誉のためにきちんと言ってあげるとするならば、 こいつはアトローナの中でも優れた技術を持つ職人でもあり、 そして今は”ヴァルハムス”と呼ばれる者がいるんだけど、 こいつはその”ヴァルハムス”の後継者ってわけよ。」
 ”ヴァルハムス”の後継者って!? それにはディライドが驚いていた。
「なんだって!? ”ヴァルハムス”の後継者!?  ヴァルハムスってことはつまり……”聖獣ディヴァイアス”の後継者だってのか!?」
 この世界には”聖獣”と呼ばれるこの世界の守り神みたいな存在がいる。 例えば、かのクロノリアには”クロノーラ”という大きな鳥の聖獣がいる。 そのほかにもかのヴァナスティアにも”ヴァリエス”、アルティニアには”ラグナス”、 ドミナントには”サーディアス”と、そしてアトローナの聖獣”ディヴァイアス”の5体がいるのである。
 聖獣”ディヴァイアス”の役目を担うものとして今は”ヴァルハムス”という者がいるのだが、 彼はどうやら次の世代に聖獣の座を譲りたいらしく、その後継者として白羽の矢が立ったのが――
「この色ボケクソウサギってわけよ。」
 ネシェラはそう説明すると、ディアは照れていた。
「いやぁー! ネシェラに色ボケクソウサギって言われると反論のしようがないねぇ……」
 その様にスティアが呆れていた。
「何故照れてるんだ……」
 リアントスが答えた。
「当人にとっては誉め言葉のつもりなんだろ」
 そして、ネシェラは色ボケクソウサギに釘を刺しておいた。
「あのさ、次一戦交えるようなことしたら一週間分の食料にするからね。」
「はいっ! すみません! ネシェラ様っ!  今後あのようなことは一切いたしません故、どうぞご安心ください!」
 完全に尻に敷かれている聖獣候補……流石はネシェラである。
「一週間で食べきれるかしら?」
 シュシュラはそう言うとライアが答えた。
「余裕でしょ、ネシェラが言うぐらいだからね。もっとも、一週間も持てばいいほうだと思うけど」
 そうです。大正解。