アーカネリアス・ストーリー

第4章 争乱の世

第89節 聖騎士たちとの同道

 翌日のアルトレイにて、あのエスティアが聖女らしい美しい姿で聖騎士たちの前で挨拶をしていた。
「皆様、おはようございます。 ヴァナスティアより遠い地においても我らがユリシアンは私たちのことをいつも見守っております。 さあ皆様、今日も一日人々を命の危機からお守りください、我らがユリシアンが与えたもうた大事な命を守るために――」
 その立ち振る舞いはまさに聖女様かと言わんばかりの様相だった。
「キレイ! ねえ、あの子って本当は聖女様なんじゃないの!?」
 シュタルは興奮しながら言うとフューナが答えた。
「本当は当番制だったんだけど、自分は戦闘能力で劣っているからできるだけこういうことで応えたいんだって。 それですっかり彼女は聖女としてイタについちゃったみたいね――」
 なるほど、それは聖女だな――ライアは考えた。
「シュシュラ姉様は聖女やらないの?」
 ネシェラが訊くと彼女は答えた。
「私? 私がやると、違うのになっちゃうからねぇ……」
 違うのって?
「私はシュシュラ姉様の聖女様が結構お気に入りなんだけどなー♪」
 そう言われてシュシュラは顔を真っ赤にしていた。
「えっ、どんなの!?」
 シュタルは聞いてくるとネシェラが――
「そうねぇ……言うことは定型句があるから大体同じことを言うんだけど、こうしてこうやって――」
 と、ネシェラはまさにアイドルかと言わんばかりに可愛げに振舞い、しまいにはその場で祈りながら華麗にくるっと一回転――
「こら! ネシェラ! デタラメ言わないでよ!」
 だが、フューナがさらに攻撃してきた。
「へぇ、デタラメ……聖女やっているうちに気分が高揚してついついやってしまうなんて言っていたのはだーれかなぁー?  だいたい、私の振舞い方には可愛げがないからもっとこうしたらどうだああしたらどうだとアドバイスまでしてきたわよねぇ?  まあ――私はそもそもその気がないから可愛げがないのは認めるけど、その分シュシュラのあれはずいぶんと際立っているんじゃないかしら?  もはやあれは聖女様というよりはアイドル様よねぇ?」
 トドメを差されてシュシュラはさらに顔を真っ赤にしていた。
「そうそう! お姉様は可愛いのよ♪」
 ネシェラは嬉しそうに言った。
「確かにそれはアイドルそのものって感じね――」
 ライアは苦笑いしていた。

 女性陣と男性陣が合流した。
「聖女……本物じゃないんだな」
 スティアが言うとネシェラが答えた。
「本物は滅多に聖地から出てくることなんてないわよ。 来ているとしたら基本的に代行さん……アナスタシア聖騎士隊から抜擢された人がやっているって相場が決まってんのよ。 それにミュラ……いえ、本物の聖女様はご病気なされていて人前に出られる状態じゃないからこんなとこまでくること自体が難しいわね。」
 それは病気というか、もはや不治の病というべきものらしい。
「とにかくお勤めご苦労様ね、今日もよく似合っていたわよ」
 シュシュラはエスティアに言うと彼女は照れた様子で答えた。
「ウソでも嬉しいです……」
 ウソじゃないんだけど……シュシュラたちはそう思いながら彼女とフューラがその場を去っていく様を見送っていた。
「着替え? あの恰好、大変じゃないの?」
 ライアはそう言うとシュシュラは答えた。
「ええ、それはもう。 あれで20kg弱ぐらいはあるのよ、並みの鎧程とはいかないけど、それでも結構な重量よ――」
 アレスの重鎧やロイドの軽鎧などとは比べるべくもないが、確かに如何にも軽装備に見えてのそれは相当重たいに違いない、何人かは悩んでいた。
「確かにあれが普段着ぐらいのものだったら着ていられないよな、聖女様って相当大変なんだな――」
 アレスも絶句していた。

 そんなこんなでアルトレイはヴァナスティアの聖騎士団と、 そちらの存在が圧倒的ゆえに触れてはいなかったがフォーンの白騎士団によって守られていたということだった。
「なるほどな、海岸から迂回していくルートがあるのか――」
 ディライドはそう訊くとネシェラは答えた。
「純粋に通れそうな道を進んできただけよ。ただ――あの道はちょっと遠回りね。 しかもサンダー・フールが随分飛来してくるから通り抜けるにも大変な感じよ。 でも、平野部のそれに比べたら全然よ。」
 そうなのか、シュシュラは納得した。
「そうなのね。 それで、本当はアーカネルの現状を見たいんだけど――」
 彼女は続けざまにそう訊くとディライドは頷いた。
「そうなんだ。 こういう状態だからアーカネルに行って今後について話をしたいと考えたいところだが、案内できるか?」
 ネシェラは頷いた。
「ええ、それは別に。 私らはアルトレイの現状を報告しに戻らないといけないからね。 そのうえでぜひ同道したいというのなら大歓迎、ぜひ一緒に行きましょ。」
 ということで、ディライドとシュシュラの2人が加わり、アーカネルへと一緒に戻ることとなった。