何とか休む場所を見つけながら行軍していく一行、
アルトレイにたどり着いたのは10日後のことだった。
いつもの平原の街道を使えばその半分で済むのだが、流石にかかりすぎである。
パタンタを投棄して西との交易が閉ざされたアーカネル、今やアルトレイはどうなっているのだろうか?
一行は町の様子を見ると、なんだか物々しい様子が見えていた……いや、どうなっているのだろうか、
アーカネルの主要部隊がパタンタ側へと移り、そのままアーカネルまで退いたというのに、これはどうしたことか?
だが――その物々しい装いを象徴している旗を見て何人かはことの次第をすぐさま把握した。
「おい! あの旗! まさか――」
スティアも気が付いた。旗は純白の色に赤の丸の中に何か妙な文字が刻まれているようなデザインだった。
「ああ、どうやら留守を”聖騎士団”が守り通してくれたらしいな……」
リアントスはそう言うとアレスは驚いた。
「”聖騎士団”って”ヴァナスティア”の!?」
いよいよ出てきた、聖なる土地の聖なる国、ヴァナスティア。
このアルトレイからはるか北西にあるフォーンと呼ばれる島の最奥にある聖地がヴァナスティアである。
もちろん、ヴァナスティア神教の総本山と呼ばれるところであり、クレメンティル教よりもその歴史は深く、
あのランデルフォンのような信者も多く、世界への影響力は大きい。
ちなみに島の名前はフォーン――歴史が深いハズのヴァナスティアを名乗らない理由は、
ヴァナスティアの意向で島の命名権をふもとの港町に委譲するという慣習に基づいた対応だそうだ、
基本的には慣習的にふもとの港町の名前が島の名前になるのだが。
つまり、今はその港町はフォーンという名前で、
それこそ大昔はフォーンとは別の島の名前だったようだがヴァナスティアだけは変わらない。
そう言うこともあってヴァナスティアはまさにこの世界における教えの礎であり、それだけに世界への影響も大きいのだ。
一行はアルトレイの町の前までやってくると、聖騎士団の騎士たちに止められた。
そしてそのまま宿屋のほうへと促され、そこにいたお偉方と話をすることになった。
彼はラディアッシュ=ボーサルト、ヴァナスティア聖騎士団の執行官役みたいなポジションである。
つまり、聖騎士団に直接指令を伝える存在ということである。
「巡礼者の数が妙に少ないと思いまして、
巡礼にやってきていた方々から事情を聴いたのですよ。
そしたら魔物が大量発生したという話を聴きましてね、
慌てて援軍に来た次第だったのですよ、ですが――」
それに対してネシェラは呆れ気味に答えた。
「悪いわね、魔物の掃討作戦に失敗したのよ。
それで仕方なくアーカネルまで下がったのよ、パタンタを投棄してまでね――」
なんですと!? ラディアッシュは驚いていた。
「そんな! どうしてですか!?」
するとそこへ――
「ちっ、やっぱりパタンタまで棄てちまったのか……。
考えてもみろ、ここ最近の魔物の強さは異常だ。
俺たちは島国でやってくる魔物の種類が限られている分だけ対策も取りやすく、マシと言えるほうだが――」
と、どうやら騎士のような風貌の男がその場にやってきた。
「そっ、それは……確かにそうですが……人々の避難はできていますでしょうか?」
ラディアッシュがそう言うと騎士の男が話した。
「そりゃあ言うまでもないだろ。
見たところ、どうやらアーカネルにはヤバイ女がついているらしい。
この女がいる限り人の命をあっさりと諦めるようなマネだけはしない、だろ?」
ネシェラは得意げに答えた。
「ええ、久しぶりに会ってヤバイ女だなんて随分ね。
でも、あんたの言う通り、パタンタどころか街道沿いの町のすべてを避難させたわね。
アルトレイ側の町は全部こっちに避難しているだろうけど、
こうしてアルトレイの現状含めて心配だったからこうして直接見に来たってわけよ。
お分かりかしら、ディライド兄様?」
と、騎士の男ことディライド兄様に対して言い返すと、
ディライドは遠慮がちに言った。
「いや……俺はいいから、こっちに言ってくれ――」
そう言われてラディアッシュは不思議そうに言った。
「えっ……あっ、はい……そうなんですね――。
それより、お知合いですか?」
するとそこへロイドとリアントスがやってきた。
「あれ、ディライドじゃないか、久しぶりだな――」
「なんか、見ない間に随分と偉くなったもんだな」
どうやらこの2人にとっても知り合いのようである。
アレスたちも合流した。
「そういえばヴァナスティアに留学していたんだっけ?」
アレスは訊くとロイドは頷いた。
「そう。で、こいつはそん時の”兄貴”だ」
と言いながらディライドを紹介した。
「俺の名はディライド=フェルフォーディス、
過去にこの口の悪い弟共の面倒を見てやった兄貴分的存在だ」
と、彼はロイドとリアントスを指しながら言った。
しかし、彼はそれ以上に重要なポジションを担う存在でもある。
「それにしても、まさかお前が聖騎士団長になっているとはな!」
リアントスは茶化すように言うとディライドは答えた。
「今の聖騎士団の実動部隊は俺が年長者だからな。
他の年寄り連中はこっちを引退したやつばっかでヴァナスティアからほぼ離れないやつばかりだし、
それに騎士を退役して神道一本を目指しているやつも多い。
そう言うこともあって、なんだかんだで俺が一番上に立っているな」
すると、ロイドは腕を組みながらアレスをじっと見ていた。
「なっ、なに?」
アレスは焦っているとロイドは首を振りつつ話をした。
「ま、俺らの歳でも一個隊を任されているやつがいるぐらいだから、そんなもんなんだろうな。
俺も戦術室の責任者任されているからお互い様ってわけか」
するとディライドは考えつつ訊いた。
「なあ、お前の妹だけど、まさかアーカネルのお偉方だったりしないよな?」
リアントスは呆れ気味に答えた。
「残念だがしっかりと重鎮群の一部に収まっちまっている。
それもその重鎮群の中ではずばぬけて力があって、しかも新進気鋭の期待のホープ扱いっていうオマケつきだ」
ディライドは首を振っていた。
「やっぱりか……ネシェラだしな、そりゃあそうだ。
しかもやっぱり一番やばいやつだったってオチまでついているとは”まさにまさに”ってわけだな。
アーカネルが何処まで改造されているかはわかんねえが、あの国はしばらくは安泰だな」
アーカネル改造……あたってる――彼の言うことに対してアレスや何人かの男どもは悩んでいた。