話は2年後の選抜試験の刻へと戻る。
だが、流星の騎士団のメンツについてはこれ以上変わることなく、
アーカネル騎士団全体の体制が変わったぐらいのものだった、まさに”争乱の世”が訪れようとしている前触れである。
そんなアーカネルだが、既にある程度の電気の普及が進んでおり、
夜でも街の灯りは素晴らしいほどに灯されていた、暗雲だけは立ち込めている中での灯りだが。
「電気事業が間に合ってよかったわね、なんとか魔物に抵抗する手段までは得られたってわけね。」
魔物は基本的に人の文明のある所にまではやってこない、自らの身を守るためである。
「それでも町を襲撃に来る魔物もいるじゃないか?」
アレスは言うとネシェラは答えた。
「何事も”絶対”って言葉は”絶対”にないものなのよ。
だから騎士団がメシにありつけるわけでしょ。」
確かにそれもそうだ。
「それで一度魔物たちが味を占めたら次々と襲ってくる……
行けると思った時点で続々と流入し、最期は魔物たちの楽園ってわけだ」
ロイドはそう続けた。
「ということは、パタンタは今頃――」
レオーナは窓から西の方角をじっと眺めていた。
「人がなければ文明もなくなる――つまりはそう言うことだな……」
リアントスも悩んでいた。
それから数日後のこと、流星の騎士団の一部はパタンタに向けてやってきていた。
「なんだ、魔物が巣食っているのとは違うみたいだな」
ロイドはそう言った。
とはいえ、辺りは廃墟だらけ……かつての街道の活気具合は全く感じることはなかった。
「でも、街道が荒れているわね。
こんなんで馬車が通り抜けできるかしら?」
ライアはそう言った、パタンタの西門側は魔物が滅茶苦茶に荒らした跡があり、なんとも無残な姿だった。
「馬車は通れそうだけど、問題はここから西の魔物の強さに要注意ね。
仕方がないから安全ルートを通りましょう。」
と、ネシェラは地図を出すと、全員にわかるようにその場に魔法で展開した。
「便利な魔法だな――」
リアントスは感心していた、例のミラージュ・フライヤが地面に文字を刻んだのと同じように、
彼女もまた地面に地形図を魔法で描画していた。
「私らがいるのはここね、パタンタの跡地。
本来ならこの線――街道に沿っていくわけだけど、モンスターが強いからここは通らないわね。」
するとライアが気が付いた。
「もしかしてここを通るの?」
そこはここから南西に、この大陸の南の海岸に沿って進むルートだった。
「ええ、そう。
例によってサンダー・フールに襲われやすいのが問題だけど、大型の危険なヤツが出たって言うような報告は受けてないのよ。
つまり、平原部を避けて西に進めばアルトレイにつけるんじゃないかってことよ。」
そう、彼らの心配はアルトレイの状況だった。
彼らはアルトレイの状態を確認する任務のために西へとやってきたのである。
「遠回りではあるが、危険度で言えば限りなく低いか。
ただ――一つだけ問題があるな……」
と、リアントスが言うとロイドは頷いた。
「海岸へと出るまでに経由する森だな。
例のパタンタのがけ崩れの件、もし本当にキラー・スネークの仕業だとしたらやつらが根城にしている可能性が高い場所だな……」
そう、そいつとの遭遇が避けて通れないということである。
「ま、ドラゴン・スレイヤーが2人もいるんだから平気でしょ。
そうと決まればさっさと行くわよ、善は急げって言うでしょ。」
俺らかよ……ロイドとリアントスは悩んでいるが、ライアは密かに笑っていた。