アーカネリアス・ストーリー

第4章 争乱の世

第82節 死の病

 スティアは床の上で大の字になって寝ていた。
「こいつ……もう少し行儀よくできねえのかよ……こんなところでなんちゅー態度だ……」
 リアントスは呆れかえっていた。
「いえいえ! お若いんですからたくさん力仕事を任されているのでしょう!  それならいくらでもお休みいただいても構いませんよ!  ただ――こんなところで寝ていて風邪をひかなければいいのですが……」
 ガドリウスは心配そうに言うとロイドは得意げに答えた。
「その心配は不要だ、バカは風邪ひかないからな」
 ライアとレオーナにはそれが聞こえたためか、手をたたいて笑い転げていた、 この2人……ブラックユーモアに対する沸点が低いのか――奇しくも2人とも良家の御令嬢様という共通点がある。
「確かにこいつが病気したのを見たことがねえな。 昔は病弱って聞いていたが、どこでネジが取れたんだか――」
 リアントスは再び呆れていた。
「病気と言えば、お前大丈夫なのか?」
 リアントスはロイドに訊いた。ロイドは病気にかかったばかりだった、その病気というのは――
「病気されたのですか!? 大丈夫でしょうか!?」
 ガドリウスは心配そうに聞くとロイドは頷いた。
「今まで魔法を使うことを制限していたからな、 それが急に使い始めるようになって、身体の中でうまくコントロールできていないんだ。 精霊族特有の病気でな、とにかくおとなしくしていればなんとか大丈夫だ、 今はすっかり治っているんだけどな」
 それに対してガドリウスは頷いた。
「”マナ・ディフィシェンシー(マナ欠乏症)”というものですな、 うちの家内も出産のときに患いました。 精霊族は人間族や魔族と違って身体の調子を整えるうえで大半はマナの力―― そこいらにある自然の力を直に頼って生きております。 確かに、魔法を使う上で自らに含まれるマナの力を使ってエーテルに変換し、 魔法を打ち出すなどということを続けていればいつかは自らにためているマナが枯渇して身体の機能不全を起こしかねません。 本来なら使用したマナはすぐにでも吸収されるハズですが、 昨今のアーカネルにおいては魔法というものはほとんど使われていなかった状態―― 身体が慣れていなかったのでしょう、マナの吸収が遅くなったことでご病気されたのですね?」
 詳しいな――リアントスはそう言うとロイドはガドリウスに対して答えた。
「そういうことだな。そんな話を知っているってことはランブルか」
 ガドリウスは頷いた。
「彼もまたマナ・ディフィシェンシーを発症したことがあるそうですね。 しかし、彼の助言のおかげで家内もレオーナも助かりました、 助けられてばかりで感謝、感謝しかないですね――」
 というか、魔法の使用だけでなく、出産に際してもそんなことが起きるのか――リアントスは言うとロイドは話した。
「必ず起きるとは限らない。 そもそも俺がマナ・ディフィシェンシーを発症したもの初めてじゃあないんだ。 何かが引き金になって起こるとは限らないが、一度食らえばしばらく身体が安定してくるからすぐには再発しない―― 一時的な症状だからそんなに気に病むほどじゃない、安心していいだろう。 ちなみに……俺のお袋はもっと重篤な状態だった、 ”ディス・マナーブル・シンドローム(恒常性重度マナ欠乏症候群)”は一度発症すると死ぬまで身体のマナが失われるほどの難病で、 エターニス総動員で手を施すほどの重篤なものだったが、お袋は堪えられなかった。 俺は当時5つだったが僅かに覚えている――。 ネシェラは流石に覚えていないが、お袋のような犠牲者は二度と出すまいと勉強だけはしているようだな」
 そっ……そんなことがあったのか……ガドリウスとリアントスは絶句していた、 ヴァーティクス兄妹の母親の最期……なんとも壮絶なものだったというのは想像に難くない。

「もう……最っ高! すっごい笑かしてくれたわね――」
「ほんと! みんながどれだけ仲がいいのかもわかる気がするわね!」
 バカは風邪ひかない話がツボにはまっているライアとレオーナは話をしつつ、 女性陣が寝泊まりしている部屋へと入った、流石にその後の病気の話は聞いていなかったか。
 部屋の中ではネシェラは何やらずっと考えているようだった。
「ネシェラさん、どうしたのでしょう……さっきからずっと悩んでいるようですけど――」
 セレイナは心配そうに言うとライアが言った。
「クレメンティルの話をした途端にだったわね、何か関係あるのかしら?」
 レオーナは訊いた。
「ねえ、ネシェラ! どうかした?」
 ネシェラは答えた。
「うーん、それがねぇ、クレメンティルと言えばなーにか引っかかるような気がするんだけど、それが何だったのかが思い出せなくってねぇ――」
 そんなことでも何か引っかかることがあるのか……そこにいた女性陣は悩んでいた。
「ネシェラのことだから多分重要なことなのは確実だろうけど――」
 ライアはそう言うとネシェラは頷いた。
「きっと、ね。でも、だからってここまで考えて思い出せないんじゃしょうがないわね。 あーあ、もう少し食べておけばよかったわね。」
 まだ食べる気か! 女性陣はさらに悩んでいた。
「冗談よ冗談。 考え事していると無心になってじゃんじゃん食べちゃうのよ。 食べてたでしょ? だから流石にお腹いっぱいよ。」
 はい……食べたのみんなどこに行ったんだと思うぐらい食べていました――女性陣はなおも悩んでいた。