アーカネリアス・ストーリー

第4章 争乱の世

第81節 救いの手を……

 ランデルフォン家……例の金融機関として手を挙げた家だが、その家にて――
「いただきます♪」
「いっただっきまーす♪」
 ネシェラとシュタルが嬉しそうにそう言っていた、何故そんな家で食事を……?
「うまいな、これ――」
「流石は一流貴族だな、いいの食べてるな――」
 ロイドとリアントスを初め、何人かの流星の騎士団員も食べていた。 そんな様子を見てランデルフォン家の奥様は嬉しそうにしていた。 ところで、これがどういう状況なのかというと、
「ネシェラったら……たくさん食べるのね!」
 レオーナはあからさまに名家のお嬢様風な服装だった、そう――レオーナ=ランデルフォン……彼女の実家である。 彼女がダーク・エルフなら両親もまたダーク・エルフだった。
「娘を流星の騎士団に入れてくださって―― しかもそれも娘の命の恩人方だそうではないですか!  いやあ! そんな方々とこうして席を共にできるとはなんともめでたい!」
 お父様もご満悦だったが――
「いや……めでたいというのはいささか不謹慎でしたな……。 パタンタからの住民たちは難を逃れて大変だというこの時期に……。 しかし、それにしてもあなた方がアムレイナと行動を共にしているとは!」
 確かに、そもそもこの催しというか食事の席自体が不謹慎に見えなくもないのだが、 それでも実はこれでもずいぶんと切り詰めている状況での席だったりするのである。 そのためか、出されている食事に関しては非常時にもおいしくをコンセプトにした非常用の食料の会でもあった、 それをアーカネル中に推進するためのプレゼンの席だったりするのである、状況的にも早めの普及が望まれるというわけである。 故に、ロイドの一流貴族だな、いいの食べてるな、というのはただの皮肉である。
 アムレイナは上品にワインを飲みつつ答えた。
「私はただ彼らのような力ある者たちにひかれただけのこと、ごく自然の成り行きに過ぎませんわ――」
 アムレイナは話を続けた。
「ところでガドリウス、右足のケガの具合はいかがです?」
 お父様こと、ガドリウスは照れた様子で答えた。
「いやあ、これはもう治りませんから、すっかり諦めましたよ。 とにかく、生きてさえいればそれでいいということにしたんですよ」
 えっ、どうしたのだろうか、ライアは訊いた。
「私は右足が少々不自由でしてね、大昔に魔物にやられたせいですよ。 あの時はエラドリアスに助けられました――彼がいなかったら右足だけでは済まなかったことでしょう。 彼は命の恩人です、それなのに彼は早くも病気で亡くなってしまうとは――そればかりが心残りでしてね……」
 なんと、彼もまた元王剣の騎士団の団員、エラドリアスやディアス、セディルたちと行動を共にしていた元騎士だという。 だが、彼の引退は足のけがのせいで割と早く、アムレイナが結婚するよりも前には退役していたそうだ。
「ともかく、そうとなれば今後はみなさんに対して報いる形で協力しなければなりませんな!」
 そこへガドリウス、ネシェラに話をした。
「ところでネシェラさん! こんな時になんですが、例の流通システムの話、あれはなかなかよくできた内容でした。 検討させていただきましたが、この度のこともあったからというわけではないですがぜひとも協力させてください!」
 えっ、彼女、また何かしようとしているのだろうか?
「本当!? それはありがたいわね、物資が安定的に供給できるなんてクリエイターとしては願ってもない返答ね!」
 と、彼女は言うが、別に自分のためということではなく、
「目的は物資の安定供給よ。 それができなければ私らはこうしてごちそうにありつくこともできないし、パタンタからの避難民も困るだけよ。 西側との交易が閉ざされてしまった以上は今重要なのは東部と南部の流通拠点、もちろん北部のエドモントンやメタルマインも然りね。 ただし、この問題はアーカネルだけの問題じゃないの、各地で起きている問題になるわけよ。 と言っても各地で物資を順当に回せばとりあえず十分賄える範囲であることは既に調べがついている、 後はいかにしてそれを各地で回せるかにかかっているわけね。」
 そんなにうまくいくのだろうか、リアントスが訊くとネシェラは答えた。
「うまくいくかどうかは関係ない、やるしかないのよ。 できなければ私たちに未来はないの、これはそのための行動――そう思ってもらいたいのよ。」
 確かに、やるしかないか……。
「ですが、それにしても……西はそんなに酷いのですか?  アルトレイとの交易が断たれてしまうのは、あまりにも致命的すぎる――」
 ガドリウスが訊くとネシェラは答えた。
「パタンタは手に負えなくなって完全に投棄されたわ。 今や無人の地、これからはパタンタを……アルクラド平原を魔物の手から奪還することを考えていくことになるわね――」
 ガドリウスは悩んでいた。
「うーん……ということはヴァナスティアに行けないということですか――。 計画していたのに、それは残念なことです。 一日も早く問題が解決するようお祈り申し上げます――」
 ヴァナスティア信者が多いという世界情勢、一日も早い解決が望まれるのだが――
「だったらクレメンティル大聖堂にはいかないのか?」
 リアントスはそう訊くとロイドが言った。
「確かにクレメンティルは聖地ヴァナスティアが遠いからヴァナスティア信者のために開かれているとは言うが、 それでもヴァナスティア巡礼は欠かさずにしたいって言う信者もいるだろ」
 それもそうか、リアントスは考えたがガドリウスは頷いた。
「確かに、こういう時こそクレメンティルに頼ってみるというのもありでしょうな。 まさに困ったときの神頼み……救いの手というのは何処にでもあるものなのでしょう、私はそう信じたいです」
 だが、ネシェラはなんだか悩んでいるような様子だった。
「ネシェラさん? どうかしましたか?」
 セレイナは訊いていた。