アーカネリアス・ストーリー

第4章 争乱の世

第80節 パタンタ投棄、命を守る作戦

 そして、パタンタの街道で陣を張って構えているアレスたちの元へと伝令が急いでやってきた。
「お疲れ様です! アレス大佐!」
 アレスはまた随分と偉くなっていた、一個隊を任される隊長職ゆえに出世のスピードも早い。 他は中佐どまりだがスティアだけは少佐と……それでも彼だって少佐なんだから随分と偉くなったものである。 それに、以前に比べるとアレスもなんだか頼もしくなっていた。
「お疲れ様です! ごめん……えっと、レオーナさんだっけ!?」
「はい! 同期で既に大佐位を任されるような人が現れるなんて! アレスさんは私たちの誇りです!」
 そう言われてアレスは照れていた。
「……いやいや、みんなの支えあってこそだよ――」
 とはいえ、それはあくまで騎士としてはというだけの話であり、 話題についてこれているかでいえば別の話である……残念!
 そういえば、アーカネル騎士団の階級精度について話をしていなかった。
 アーカネル騎士団の階級制度は8段階、 ハンターのグレードと違って階級ごとに段階を設けてはいないのでとってもわかりやすい。 ただし、いつぞやのアラドス将軍のように上位貴族出身の騎士となると爵位みたいなのが入って面倒だったりする。 でも、ここではそういった面倒なところを省いて一般的なアーカネル騎士の階級について説明しよう。
 アーカネル騎士団の階級はゴールド・ハンターやグレート・ハンターのような名称は設けておらず、 数値でしかあらわされないため最初の”騎士見習い”である最低位のクラス1から、 ”将軍”である最高位のクラス8まで設けられているのがアーカネル騎士団の階級制度である。 ちなみにアーカネル騎士”団”なので厳密な最高位は”団長”なのだが、 それはアーカネル国王が担うのが習わしであるため、ここでは割愛する。
 ただし、純粋に階級の数値でしかあらわされないというのも味気ないということから便宜的に上級幹部を示す”佐”と”軍曹”と”将軍位”が便宜的に用いられており、 厳密な”将佐尉曹士”のような別があるわけではない。 そのため、騎士団に入団したてのころはクラス1の”騎士見習い”から始まり、 クラス2の”一般騎士”、クラス3の”軍曹”でクラス4の”少佐”とクラス5の”中佐”と、 そしてクラス6の”大佐”ということで、アレスはクラス6の階級なのである。 ちなみにクラス7は”副将軍”位で、クラス8が”将軍”位というわけである。
 さて、話を戻そう。シュタルが話を聞いた。
「レオーナ! どうしたの!?」
 そう言われてレオーナは反応した。
「あっ! そうそう、伝令です!  パタンタから4時間以内に撤退せよということです! つまり――」
 アレスは考えた。
「そうか……とうとうパタンタから避難することが決定してしまったということか、仕方がない……。 みんな! 魔物の侵入を阻止することは続けてくれ!  その間、他のメンバーは住民たちの安全を確保しつつアーカネルに向けて避難誘導!  住民たちの非難が完了したら俺たちも順次ここから離脱する! いいな!?」
 という以前のアレスとは思えないほどの頼もしさなのだが――その決断はつらいものだった。
「時間はないよ! みんな、急いで!」
 シュタルは剣を片付けると、住民たちの避難を担当していた、彼女もまた随分と頼もしくなっていた。
「レオーナ! オーレストで住民たちの避難場所の確保はできてる!?」
 シュタルは訊くとレオーナは言った。
「ええ、それは大丈夫。 私はシュタルと一緒に住民の避難を手伝うことにするわ!」
 なんだか仲良さそうだった。 それもそのはず、彼女もダーク・エルフの女性―― 話は随分と遡るが、例のアーカネルのミストガル門に迫っていた”タスクライノ”のことは覚えているだろうか、 最初にシュタルと一緒に戦っていたダーク・エルフの女騎士とは彼女のことである。 それもあってか、ネシェラの一存で彼女も流星の騎士団にメンバー入りしていた。 ちなみに彼女、こうみえて実は――

 それから数日が経ち――
「オッケー、ありがとうね。 とりあえず、パタンタ撤退作戦は成功したみたいね。 そうとくれば、早速次の作戦を練らなければいけないわね――」
 ネシェラはレオーナと話をすると、サイスにそう言った。
「ですね、次は――オーレストやアーカネルへの魔物の進行を阻止しないと――」
 すると、レオーナが一礼して去ろうとしていた。
「待って、私も行くよ。」
 えっ!? サイスは驚いていたが、時計を見ると――
「おや、もうそんな時間でしたか……。 相変わらず何が起ころうともブレることがないですね――」
 少々呆れ気味にネシェラが去って行く姿を眺めていた。
「しまった、一歩遅かったようだな――」
 そこへノードラスがやってきたが――
「何か御用でしたか?  御覧の通りです、今日はやることがあるから残業は絶対にしないと言っていました、元から残業するような人ではありませんが……」
 ノードラスは悩みながら言った。
「いやな、実は……パタンタからの避難民だが、受け入れる場所が足りなくてな、 それでアーカネルにもやってくることになるんだが、どうしたもんかと思ってな――」
 サイスは頷いた。
「その心配には及びませんよ、そのために病院や学校などのインフラ施設を増設したのですから。 ネシェラさん、いつかこうなることは見越していたようですね――」
 そっ、そういえば……ノードラスは悩んでいた。
「……私も耄碌したか――そろそろ引退を考えねばなるまい……」