あれからさらに2年ほどが経ち、
魔物の激化に伴って騎士兵士の需要も高まったことでこの機を境に騎士選抜が2年おきに開催されることとなった。
そのお題目は”第555回(拡充)アーカネル騎士選抜”試験である。
まさに激動の時代の幕開け……となるのだろうか?
”拡充”のお題目が付いている場合、通常は4年おきに実施される選抜試験だが例外的に前の選抜試験から2年後に開催される場合を差す。
もう1つ、2年後に開催される場合に”変則”というのがあるが、”拡充”は次回の選抜試験が2年後に行われるのに対し、
”変則”は行われた時期から4年おきに再設定されるという違いがある。
要は、”拡充”は必要に応じてサイクルを狭めて人手を増やすのが目的であるのに対し、
”変則”はサイクルを1回だけ狭めたいときに用いるということである。
なお、過去には”拡充”も”変則”も何度か行われており、直近で”変則”が行われたのは”第550回(変則)アーカネル騎士選抜”試験の頃、
奇しくも、その当時は風雲の騎士団結成の時期の事だった。
当時”変則”が実施された主な理由として、第550回の5年前にアルクラドの戦いが起きている、その補填のためである。
第550回の2年前の第549回の定期開催選抜試験だけでは足りないと判断してのことらしい。
そんなこんなで、今後は騎士選抜が2年おきに開催されることとなるため、
4年おきの定期選抜に加え、さらに2年おきの拡充選抜が交互に開催されるというわけである。
話を戻すどころか遡ることになるのだが、
”第555回(拡充)アーカネル騎士選抜”試験が行われることになった背景として約1年前のこと――
とある問題が発生したためだった。
「最近は魔物がだんだん強くなっているな。
アーカネルはもちろんだが他の町の防備も含めて大丈夫なんだろうか?」
リアントスが言うとアレスは答えた。
「とりあえずは大丈夫らしい。
ここはもうみんなの力を信じるしかないな」
そう言われるともはやそれしかないという感じである。
「信じるのはいいが、実際問題どの程度まで騎士団だけで乗り切れるかだ。
特に……アルクラド平原は大型の魔物も入り込んでいて相当やばいらしいぞ。
直に俺らも本格的に動員されるだろうな――」
ロイドはそう考えた、どこまでやれるのか――なかなかシビアな話である。
「そんなにヤバイのか?」
アレスは訊くとシュタルが答えた。
「ヤバイも何も、あのグリフォンらしき魔物を街道で見たって話もあるぐらいだよ? これはどう考えても――」
えっ、マジで……アレスは悩んでいた。
「リベンジになるのか、それとも俺らにとどめを刺しに来たのか――」
リアントスはそう言い、スティアも悩んでいた。
「俺、あいつ嫌いだぞ……」
サンダー・フールにブレイズ・フール、そしてグリフォン……何の因果か、何気に鳥系の魔物に泣かされる世界情勢である。
そして、いよいよ問題が起きてしまった――。
「どうしたんだ、ランブル!」
オーレスト門にて、ロイドはボロボロの状態のランブルを見て驚いていた。
「アルクラドからの魔物の流入でパタンタが破られました。
それで何とか押し返すことに成功こそしましたが、多大な犠牲を払う結果となってしまったのです――」
なっ、何だって!? ということはつまり――
「今やパタンタで食い止めているので精一杯――私の部隊は彼を残して全滅してしまいました――」
綺麗な顔で何それとなく平然としている彼だが、鎧はもはやボロボロで、態度とのギャップがあってなんとも妙な感じだった。
ところで彼というのは? 馬車の荷台を覗きこむと――
「おう、見ての通りだ、なんとも無様な姿をさらしてしまうことになるなんてな――」
……ゼクスだ。彼が大の字になって寝そべっていた。鎧が破損しており、酷いけがをしているようだった。
「大丈夫か!?」
ロイドは訊くとゼクスは答えた。
「この程度! お前の一撃に比べればどうってことないぞ!」
……恐らく大丈夫ということだな、ロイドは思った。
「ランブルの回復魔法が効いているようだな……だからって無理すんじゃねーぞ。
それよりもランブル、お歴々が話をしたいそうだ――」
ロイドはそう言うとランブルは頷いた。
執行官長の部屋――
「そうか、パタンタで食い止めているのだな――」
ノードラスは考えるとロイドは言った。
「だが、このままだと破られるのも時間の問題――
今はアレスたちが前線で指揮を執っているから何とか持ちこたえてはいるが魔物は日増しに強くなってくる……
すぐにでも決断が必要な事態じゃないかと――」
ノードラスはそう言われて悩んでいた。
「ノードラスさん! 一刻の猶予もありません!」
サイスもそう言うが、ノードラスは……
「もちろん、わかっている。
だが――それで戦力をアルクラドに集中させてしまうと、城の防備がおろそかになってしまう。
ただでさえアーカネルにも魔物がやってくるというのに西のほうまでは流石に――」
確かにそれもそうだった、そうなると――
「このままパタンタで防御し続けるのは得策とは言えないってことね。
てことはつまり、パタンタを投棄するべきってことね。」
ネシェラはそう言うと一部は驚いていた。
「しょっ、正気かね!? 投棄ということは見捨てるということだぞ!?」
ノードラスは言うとネシェラは何それとなく言った。
「はぁ? 何言ってるのよ?
西に人を回せないって言っている時点で既に見捨てているでしょ?
……ったく、さも私が見捨てたかのような言い方すんの辞めてもらえるかしら?」
そう言われると――ノードラスは悩んでいた。さらにネシェラは続けた。
「言っとくけど、私は町を見捨てても人の命まで見捨てるようなマネだけはしないからね。
パタンタにいる騎士兵士だけでなく住人の避難もさせるつもりよ。
そうなったらきちんと避難民の受け入れ口を確保しなさいよ。
さあ二つに一つ、西にもっと人を回すか、それともパタンタを諦めるか――」
なんとも難しい決断を迫られたものである。