アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第78節 高度文明の光

 とある夜のこと――
「3! 2! 1! 点灯!」
 アーカネル城の前にある広場にて、その日はなんとアーカネルには存在しえなかった”電灯”というものが初めて灯された日だった。 機械自体は存在していないことはない世界背景だが、電気で光を灯すシステムはこれが初めてのものであり、 夜中なのに明るい光を初めて見た人々は感動していた。 もちろん、火を灯しての街灯はいくらでもあるのだが、明るさで言えば雲泥の差である。
「どっ、どういう仕組みなんだ!? 魔法か!?」
 ロイドは言うとネシェラは答えた。
「そうよ。ここには通電……電気を流すための設備が一切ないから懐中電灯……スポット的に明るくするための仕組みを作って実現したのよ。 そのために使ったのはエンチャント鉱石で、雷の魔法を使って明かりを発しているのよ。 で、それを継続的に発するためのカラクリを作ることで、こうして夜でも明るい光を拝むことができるようになるってわけ。 つまり、これを利用することで――」
 と、ネシェラは話を続けていると――
「いっ、1個2,000ローダです……」
「じゃあ姉ちゃん! 3個くれや! そしたら俺と一緒に出かけようぜ!」
「おっ、俺は5個だ! 姉ちゃんと一緒に出掛けるのは俺だ!」
「俺は10個だ! いよっしゃあ! 姉ちゃんはこの俺がもらったぁ!」
 セレイナの危機が!
「黙れやこのゴミカスが! 気安く触んな話しかけんな虫ケラ共が! バラバラにしてアビスに埋葬すんぞ!」
「手伝おうか――」
 ネシェラの反応の速さとロイドが威圧気味に背中の大剣に手を差し伸べると、次々と沸いてきた虫ケラ共が一度に離散! 危機は免れられた……。
「ネシェラさんロイドさん! ありがとうございます! 私、どうしようか悩んじゃいました……」
「悩んでないで、嫌だったらぶっ飛ばしたっていいのよ。 それに、うちの大事な大事な看板娘にもしものことがあったら馬の骨共はみんなロイド兄様とリアントス兄様が処刑しないといけなくなるからね。」
「なんで俺――あいつだけで十分だろ……」
 ともかく、売っていたのはいわゆるカンテラというものである。 それ自体は元々アーカネルにもあるのだが、いわゆる電池式の代物なのでより文明的な代物である。
「機械と魔法との融合――相性は良くないと言われていたようですが、まるで正反対ですね――」
「あははっ、まーったく、ネシェラ嬢にはお手上げだねぇ――」
 サイスとは呆気に取られており、スクライトは呆れたような様子だった。

 そしてティンダロス邸ではアムレイナが――
「こっ、これは見事なシャンデリアですな!  しかし、火が灯されている様子は見えないようですが、一体、この光の元はどこから!?」
 例のカルディオシス家の当主オンドミルを初め、多くの貴族たちが玄関ホールのシャンデリアを眺めて絶賛していた。 もはや素晴らしい見事なガラス細工のそれが光り輝いているようにしか見えない。
「先ほどアーカネル城前広場で灯された電灯と同じ仕組みだそうですわ。 あのようなものを使って家中を明るく照らしているのですよ。 あれのおかげで夜でも活動が活発になるでしょうし、 夜襲対策としての防犯の役目も果たされると思いますね――」
 防犯――オンドミルは反応した。
「この間ネシェラ様にお作り頂いた飾りにも備え付けられている機能もそう言うものでした。 なるほど――ネシェラ様はアーカネルの治安にも気を配られていることの現れですな!」
 そう、例の2,000万ローダの装飾品に唯一含まれているのは防犯機能である。
「抜け目のない子ですから当然と言えば当然です。 それに――この光のおかげで人々はもっと豊かな生活を送ることだってできます。 とはいえ、夜更かしは美容の天敵、ほどほどになさらないといけませんがね――」
 そう、それが一番大事である。

 ネシェラの部屋――
「うぉっと! 落としちゃった――疲れてんな……」
 ネシェラは部屋にガラス細工のようなシャンデリアを天井に取り付けようとして脚立に乗っていたが、手を滑らせてしまった!
「えっ!? えぇっ!?」
「うわぁ! 落としちゃったよぉ!」
 ライアとシュタルは焦っているが、ネシェラは何それとなく落としたそれを拾い上げた。
「ったく――。さて、気を取り直して――」
 えっ――壊れてないの!? 2人は唖然としていた。
「ん? どしたの? ……ああそっか、大丈夫よ、これ、ガラスに見えて実は塩ビでできているからね。 塩ビってのはあれよ、その――とにかく、落としても砕け散ることはないってことよ!」
 まさかのポリ塩化ビニル…… 外側は塩ビだが内部はしっかりと機械構造なのでそこが壊れたらアウトだが。 ちなみに、玄関ホールのシャンデリアも実はガラスに見えて塩ビである……。 ネシェラは機械部分を改めて確認すると、天井に取り付けていた。
「よし。家中電気工事をしたのは正解だったわね。さて、やりますか♪」
 そう言うと、ネシェラは電気のスイッチをONにした!
「うわぁっ! すごーい! とっても明るーい!」
「すっ、すごいものを作るのね――まさに文明を作るって言うのはこういうこと――」
 シュタルは感動し、ライアは唖然としていた。
「でも、明るすぎるわね。どら、調光はいかがかしら?」
 ネシェラはリモコンを取り出すと――
「すごーい! 明るくなったり暗くなったりするんだぁ!」
「魔法でいいのか機械なのかわからないわね――」
 シュタルは再び感動し、ライアは再び唖然としていた。 そして――
「ふふっ……文明とはこういうものを言うのよ♪」
 と、ネシェラは別のリモコンを取り出すと、今度はファンヒーターが!
「えっ……何!? すっごく温かい風が――」
「すごーいネシェラ姉様! そんなのまで作れるんだぁ!」
 そしてライアとシュタルは感動していた。
「実家にも似たようなもの作ったからね、欠点は空気が乾燥することもわかってるし。 だからそれ対策に――」
 今度は加湿機能付き空気清浄機をON!
「これで肌荒れや喉の調子を整えられるわね。 さて、今のところはこんなもんでいいかしら?」
 いや、どう考えてもやりすぎである。あんた、未来人か異邦の民か何かですか?  どう考えても今のアーカネルの時代よりも高度な文明の人間ですよね?