ネシェラはライアとセレイナと一緒に朝ご飯を食べていた。
「シュタルとクレアは?」
ライアが訊くとネシェラは言った。
「あの2人ならアレスやセディルさんたちと一緒に行っちゃったよ。
クリストファーをクレメンティルまで護衛するんだってさ。」
そう言えばそんなこと聞いたような気がするとライアは思った。
「忙しい中で少々忘れ気味ね。
ところで、クリストファー容疑者説の話はそれからどうなったの?」
「いずれにしても行動の根拠とかについても憶測の域を出ないからね、一旦保留よ。」
確かにその通りか――ライアは悩んでいた。
ところで――ライアはネシェラに訊いた。
「そもそも最初から気になっていたんだけどさ、セレイナを執行官にしてよかったのかしら?」
えっ、どういうこと? ネシェラは訊くとライアは――
「そうだ、そう言えばセレイナのこと、直接本人の口から聞いていなかったわね――」
そう言いつつライアはずばり訊いた。
「セレイナ、あなたってもしかしてだけど、リアントスのことが好きなんでしょ!?」
そう言われてセレイナは顔を真っ赤にしていた。
「えっ!? そっ……それはその――」
セレイナはモジモジしているとネシェラはにっこりとしていた。
「そうそう♪ セレイナったら、リアントス兄様に気があるのよね♪」
彼女からもそう言われたセレイナはますます顔を赤くしていた。
「リアントス兄様ったらかっこよくて優しいもんね!
だから私もちょっと好きだけど、やっぱりロイドお兄様みたいなところもあるから、
どっちかっていうとあくまで身内って感じなのよね。」
ああ、なるほど……ネシェラとしてはその程度でしか見てないのか――ライアは考えた。
ネシェラとリアントスは比較的仲良しなところを見受けられるのだが、
そういうことなのか――ライアは妙に納得していた。
「そんなリアントス兄様だからさ、セレイナが好きだって言うのなら私、応援しているからね!」
それにはライアも嬉しそうに言った。
「ええ! セレイナ! 頑張って!」
するとセレイナは少々恥ずかしそうだが嬉しそうに答えた。
「2人とも……ありがとうございます!」
そして――ネシェラは気が付いた。
「あっ、そう言うこと――セレイナを執行官にしたからリアントス兄様とのお付き合いがタブーになっちゃうってことね。」
そう言うことである。ネシェラは続けた。
「別にいいんじゃない? だってセレイナとリアントス兄様だもん、この2人ならうまくやるに決まっているわね。
それこそアルお姉様とサイス兄様、アムレイナお母様たちよろしくちゃんとやるに決まっているわよ。
でしょ? セレイナ♪」
そう言われてセレイナは照れていた。
「確かに……何となくだけどセレイナならうまくやる気がするわね……」
ライアは考えていた。
うまくやるから――ネシェラとしては執行官と騎士の恋についてはその程度にしか捉えていないようだ。
スティアとルイスはザダンのもとで鉄を打っていた。
「おりゃあ! うおりゃあ!」
「鉄を打つのも久しぶりだが……前よりずいぶんと厳しく打たないといけなくなったもんだなぁ――」
ザダンは話をした。
「おっ、兄ちゃん、いい感じじゃねえか!
そうなんだよルイス、例の執行官の姉ちゃん様の指定でちぃと厳しめに打たなければいけねぇってんで若ぇ衆に頑張ってもらわにゃあなるめえ。
ま、そのおかげで売れ筋もだいぶ好調なんだがな。
無論、ものが頑丈なだけに頻繁には売れなくなっちまうんだがそこは流石の執行官の姉ちゃん様だな、
価格設定のほうに色を付けてくれたぜ。
しかも前よりも儲かるようにできているしな! 執行官の姉ちゃん様様だな! わはははは!」
すると、そこへお城の者がやってきて――
「集金です! すみませんが今期分もよろしくお願いいたします!」
集金!? しかも兵士たちも一緒にいて何ともものものしい様子――
「おう! 今日来るっつってたからな!」
所謂、税金徴収である。だが、その集金については何とも簡単なもので――
「はい、確認いたしました! それでは来期分もよろしくお願いいたします!」
と言いつつ、お城の軍勢はものの数分程度で帰って行った。
「えっ、集金はもう終わったのか? 金を持っていった様子は見えなかったが――」
ルイスは驚いているとザダンは得意げに言った。
「おいおいおい――世の中は”しすてむか”だぜ? そんな面倒で古臭いことはしねえのよ。
連中はうちの売り上げを確認しに来ただけで、金は”きんゆーきかん”ってところから回収するんだそうだ。
うちはその”きんゆーきかん”ってとこと提携しているからな、つまりはそっちと直接金のやり取りをしているから、
そういうところと提携している店は城の連中も”きんゆーきかん”から直接集金しているらしい。
ま、全部あの執行官の姉ちゃん様が考えた仕組みなんだがな!」
ん、”きんゆーきかん”というのはつまり銀行――
「じゃっじゃあ……どうやってお金を……?」
ルイスは悩んでいるとザダンは言った。
「信じられるか!? げん玉は要らねえんだ!
うちの店と”きんゆーきかん”、そして城の方とでそれぞれ金額の数値しか動かねえ仕組みなんだそうだ!
それだけで取引できるんだから楽だよな! こいつはすげえ時代が来たもんだ!」
なるほど、ネシェラはアーカネルの渋沢栄一でもあるわけか。
「うちはまさしくアーカネル騎士団直営の店――というより、執行官の姉ちゃん様の庭だからな、
いろんな実験施設の側面としての機能もついているわけだが、
そういうこともあってうちの店に倣って同じようなことがしたいっていう店も増え始めているぜ。
げん玉を運んでいるところを襲われて盗られるなんていうこともなくなってくるだろうし、
治安の改善にも貢献しているってわけだ」
ということで、その”きんゆーきかん”へとやってきたザダンとルイス。
「貴族の家を後ろ盾にしているってわけか――」
と、ルイス。そこはカルディシオス家の敷地内だった。
「元々大富豪商人のお家柄だからな、金の動きに関しては常に敏感なセンサーを張り巡らしているってわけだ。
そんなこともあって執行官の姉ちゃん様が直談判したところ、あっさりと”きんゆーきかん”としての役目をOKしてくださったらしい。
新しくアーカネルで商売したいっていう連中が現れても”きんゆーきかん”に来れば”ゆうし”っていうのを……つまり金を貸してくれるんだ。
今じゃあカルディシオス家とイランドルフ家、そしてランデルフォン家が手を挙げて”きんゆーきかん”としての役目を担っているそうだ。
金が潤沢にあるが贅沢にしか使い道のない貴族たちと、商売したいのに資金がなくてどうにも首が回らない平民たち――
そんな両者の状況を利用して双方のウィンウィンな関係を作ったのがまさにあの執行官の姉ちゃん様ってわけだぜ!」
それはますますやばい女だな。
「ほら、見ろよあれ――」
と、ザダンはルイスを促すと、金融機関の建物からものものしい光景が――。
ディアスにセディルにランバート、さらにアムレイナと、例のアラドスまで一緒にいるという、
さながら重役会議とでも言えそうな光景だった。
「ああやって、定期的にげん玉を運ぶことになっているらしい。
とにかく、厳重な警戒態勢で移送されることになるわけだが、
今やほとんどが処分の対象で、しばらくの間は城のほうで処理されることが決まっているらしい。
具体的には騎士にも知らされていないようなごく一部の人間しか処分の行方は知らされていねぇらしいが、
数値しか動かない世界ならげん玉である必要がないからな――そりゃあそうだ。
そのうち懐の寂しい時代ってのが来るかもしんねえが、
その理由がげん玉じゃなくなっているっていうことかもしれねぇなぁ!」
まさか――アーカネルにはすぐにでもキャッシュレスの時代が来るとでも言うのか!?