アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第74節 経済を回す女

 さらにクロノリアが立ち上がったということもあってか、 ランブルの護衛によりクロノリアの魔導士たちがアーカネルへとやってきていた。
「ウスライトのクセに遅いわね!」
 ネシェラは得意げにそう訊くとスクライトは答えた。
「あはは! そりゃあネシェラ嬢には敵うわけないだろう!」
 が、
「笑ってないでさっさとサイス兄様のとこに行ってきなさいよ、このうっすら魔導士が――」
 と一喝。怖っわ。

 ネシェラはそのままスクライトをディアスに引き渡していた。
「はい、ようやく段取り決めてやってきたんだってさ。」
 と、ネシェラは言うとディアスが話した。
「おお! これはこれはようこそ、来てくださいましたな! ウスライト殿!」
 ウスライトで覚えられてる……そういえばスクライトって名前は1ミリも出ていなかったか、予測できていなかったスクライトは悩んでいた。

 ロイドたちは話をしていた。
「クロノリアの魔導士たちが来て、魔法の力の使用についてとうとう本格的に始まったようだな。 そしたら戦術強化特別室も本格的に始動という運びになりそうだ。 長ったらしいネーミングだが、それでも俺らの株もますます上がってくるのもいいもんだな―― 奇しくもあのクソライトのおかげだけどな」
 そういう呼び方もあるのか。
「ということで、クロノリアの魔導士たちはこれで本格的に”アーカネル騎士団協力者”として、 本格的に仲間入りを果たすことになるわけね」
 ライアはそう言うとクレアが嬉しそうに言った。
「はい! みなさん、改めてよろしくお願いします!」
 と言いつつ、彼女は思いっきり頭を下げると――
「ひゃあ!」
 目の前の机に思いっきり顔をぶつけた!
「うえーん! 痛いよおー!」
 クレアは勢いよく泣いていた、
「はぁー! 痛かったなぁー!」
 もちろん数秒後には何事もなくケロっとしているのが様式美だが。
「なんであれで顔をぶつけるんだろう――」
「普通ならどう考えても頭の上から行くよなぁ……」
 アレスとスティアはそれぞれ不思議そうに言った。

 ネシェラはさらに次々と武器の手入れや改造を行っていた。
「はいな。それなら100万ローダでやってあげるわよ。」
「なんだと姉ちゃん!? 100万って……いくら何でもぼりすぎじゃねえか!? 2~3万ぐらいでやれるだろ!?」
「あぁん!? どこがぼりすぎだっていうのよ!?  だいたいなぁ! 今言ったやつ全部実現するのにどれだけコストかかると思ってんのよ!?  材料費・手間賃・技術料……どれをとっても私だから100万で済んでいるところ、どうしたら2~3万できるって言うのよ!?  なぁ!? おい!? やれるもんならやってみなさいよゴルァ!」
 そう言われて男性客はしぶしぶ帰って行った――。
「どうしたんだ今度は――」
 ロイドは呆れ気味に訊くとネシェラは言った。
「ええ、それが武器を改造してくれって言われたんだけど、 もう見るからにズタボロのなまくらソードを持って新品同様に磨いてくれって言ってきたのよ。 それでついでに高級貴族が持っているようなキンキラキンで宝石のような装飾をふんだんに取り入れたデザインにしてくれだってさ。 ついでに――」
 おいおいおい――まだあるのかよ……ロイドは呆れていた。
「確かに2~3万ってなんの冗談だよ……流石の俺でもそれで100万で済めば安い方だと思うな――」
 すると、ネシェラは宝飾品を取り出した。
「多分これのつもりで頼んできたんじゃないかしら?」
 それはよく見ると剣で、まさに高級貴族が携えていてもおかしくないようなキンキラキンで宝石のような装飾をふんだんに取り入れたデザインの代物だった。
「これは結構大変だったからねぇ、1,000万ローダで手を打ったのよ。」
 1,000万だって!? ロイドは耳を疑った。
「本当はこれぐらいので300~400万ぐらいでやれるって言ったんだけど、 1,000万でやってくれって言われたからちょっとだけ私の趣味を入れて色を付けての完成度よ。 もちろん、特殊効果みたいなのは”ほぼ”入っていないデザイン重視の代物よ。」
 ”ほぼ”というのがミソであるようだ。 そう言いつつ、もう一つ同じようなものを取り出した――
「おい、まさか――」
 ネシェラは嬉しそうに言った。
「そう♪ 2つ併せて2,000万ローダね♪」
 いやいやいや、そんなもの誰が――ロイドは悩んでいると、その客が現れた。
「ほうほうほう、これはこれは――確かに噂通り、とてもいい腕をしていらっしゃる――」
 そいつはまさかの貴族だった! 例のカルディシオス家の者だ!
「まあ! これはこれはカルディシオス様! これからお届けに上がりましたのに!」
 ネシェラはいつにないぐらいの丁寧な態度で言うと、カルディシオスは手で止めるようなしぐさをして言った。
「いやいやいや、多分そのつもりだろうなと思って早めに来させてもらった。 というのも、これから少し用事があるのでな、受け取る際に直接この目で確かめたかったのだよ。 だがしかし――これは何ともいい腕をしていらっしゃるようだ、そこいらの職人には早々に真似できないことであろう。 まさに噂通り、ネシェラ様はとてもいいセンスをしておられるようだ、大変気に入りました。 すぐにでもうちの玄関に飾らせてもらうことにしましょう――」
 と言いつつ、カルディシオスはおつきの者に代金を支払うように命じていた。
「あなた様は誠に素晴らしいお方です。 これまで数多の職人がご主人様のために様々なものをお作りになりましたが、 初見でご主人様を唸らせたのはあなた様が初めてでございます――」
 執事らしき者はそう言うが、ネシェラは――
「作るというからには徹底的にやらせてもらうわよ。 でも――もしそれで満足しないってんなら他をあたりなさいよ―― っていうだけの話だからそうさせてもらうだけよ。 もちろん、完成品を切り売りする用意もあるしね。」
 それはそれは――執事は呆気に取られていた、 まさか、最初からそれを見越して作っている……だからご主人様もそれを懸念して購入を決めたのではないかと……。 無論、デザイン的にも多くの者をうならせるようなものを作っているネシェラ、 そう言い切っていることからも余程の腕があって余程自信があるのは間違いない―― そう考えるとますますヤバイ女である、どれだけヤバイのよあんた。
 ほかのおつきの者がその剣をゆっくりと丁寧に馬車の荷台に運んでいた。 そしてカルディシオス一行はそのまま帰って行った。
「客はカルディシオス……アシュバールに次ぐ四大名家の1つの貴族だったのか――」
 ロイドはそう言うとネシェラは頬杖をついて話し始めた。
「ええ、そう。 とりあえず、大仕事はこれで終わったわね。 でも、そのおかげで騎士団の財政難を乗り切ることが出来そうね。」
 あっ、そうだった……ロイドは思い出した。
「お前、最近はずっと工房に入りびたりだったからな、こういうことだったのか?」
 ネシェラはため息をついていた。
「ええ、そう。アーカネルの経済を回しつつ、アーカネル騎士団の財政回復のためになんとかしろ的な指令が下っているのよ、今後の大戦の備えのためにね。 言っても、それは私が純粋に立候補してやってみただけに過ぎないんだけど、とにかくみんなにも協力してもらったのよ。 あんなのはその一環としてやっているに過ぎないんだけど、カルディシオス様には”約束”のために私の本気を見せつけるという意図でやったに過ぎないし、 それに、ついでに私の作り手としての腕をアーカネルに広めないことには始まらない所もあるからね。」
 ロイドは腕を組んでいた。なお、”約束”については後ほど。
「宣伝効果――経済回すということなら他にもいろいろとやっているんだろうが、 お前の能力を知らしめさせる上では一番手っ取り早いところでもあるから当然と言えば当然の所業か。 やたらと俺らにアルティニアにエンチャント鉱石取りに行くように頼んでいたのはそういうわけだったのか」
「ええそう、本物の宝石使うと高くつくからね。 でも、それをエンチャント鉱石で加工して作ることで今のアーカネルでは採掘されていない色の石にもできたりと、 貴族たちにも人気が出始めているのよ。 もっとも、今んとこそれが加工できるのは私かセレイナぐらいしかいないけど。」
 セレイナも? でも、そう言えばそうか――
「ミラージュ・フライヤ様様ってわけだな」
 ロイドは納得していた。
「ところでお兄様は武器の改造はいる?」
 ネシェラは訊くとロイドは悩みつつ答えた。
「実は何度か頼もうと思ったんだが――忙しそうだったから頼むに頼めなくてな。 遠慮しなくっていいって言われるかもしれないが、自分の妹にあんまり負担をかけるのもよくないからな――」
 するとネシェラはロイドの右手に収まり、甘えた声で言った。
「まあ♪ ロイドったら優しいのね♪」
 ロイドは得意げに答えた。
「まあな――自分の妹には優しくしろよって言う妹がいるからな、言う通りにしないとすぐにへそを曲げるし、困ったもんだ――」
 ですね。
「だな、あそこの妹はそもそも強すぎるんだ」
 大正解。ランバートは2人の様子を眺めつつ悩んでいた。