気になったらすかさず調べるのがネシェラ・クオリティである。
「アルクラドの戦いの件ですか? 私を疑うなどとはなかなかいい度胸をしていらっしゃいますね――」
と、アムレイナは少々威圧気味に言うとネシェラは何食わぬ顔で言った。
「あくまで容疑者のうちの1人、一応話だけでも聞いておこうかと思ってね。」
というと、アムレイナは感心していた。
「あなたのような方が執行官にいるととても安心できますね。
その物怖じしない態度に権力に動じぬ姿勢、怖いものがないという感じですね――」
アムレイナは優しい眼差しで続けた。
「もちろん、私にはアリバイはありません。
その戦いが起こるよりも20年近く前に執行官の座から遠のいております――それだけですわ」
すると、ノードラスが慌てて話をしに来た。
「おいおいおい! アムレイナ様になんて失礼なことを!」
ノードラスはとにかく平謝りしていた。
「アムレイナ様! 大変申し訳ございません! 今後はこのようなことがないように――」
というと、アムレイナは話を遮ってノードラスに言った。
「でしたら、アシュバールがその戦いに際して行ったことを代わりにお話しいただいてもよろしいですか?」
そう言われてノードラスは話をし始めた。
「はっ! わかりました!
アシュバール様においてはあの戦いには関わっておりません――
いえ、アムレイナ様が関わっておられないのは確かです。
エラドリアス様については戦いには参加なされておりましたが、納得頂いていないご様子でした。
そのため、エラドリアス様に置かれましてはあの戦いを最後に騎士の職を辞し、
貴族院を通じて執行官勢に抗議されたようです――」
するとネシェラは言った。
「となると、アシュバール様がその戦いについてお怒りになられているため、
当時の責任者はことごとく干されたってことになるわけね。
それで当時の連中の黒々とした辞職劇のなんたるやってことにつながるわけか、なるほど――」
それについてアムレイナが指摘した。
「ほら! ノードラス! この子の観察眼を見習いなさい!
こういうのが執行官として適任と言えるものではありませんか!」
そう言われてノードラスはぐうの音も出なかった。
だが――ネシェラはそこへさらに突っ込んでいった。
「でも――それでもアシュバールの陰謀説として可能性が残っているのよね――」
ノードラスは再び焦り始めたが、アムレイナはにっこりとしていた。
「ええ、その通り、抜け目がありませんね。
確かに、力が最も強い貴族による権力にものを言わせた茶番劇――
そうまで言われると反論しようがありませんわね――」
というが、ネシェラは言った。
「と言っても、残念ながら決め手に欠けていること自体は払拭できていないんだけどね。
そもそもあの戦いは計画の発案者とされるエンドラス個人の思惑で動いているのか、
それとも別に指示した人間がいるなど共犯がいるのか――そのあたりがさっぱりだから可能性だけでしか言えないのよ。
ということは、アシュバールの陰謀説自体も怪しいことになるわけだけど、
いずれにせよ、明確な証拠がない限りはこれ以上のことは言えないのが現状なのよね。」
それに――ネシェラは改めて言った。
「私としてはアムレイナお母様のことは信じてるから、そんなことをする人じゃないって。」
「あら、容疑者である私のことをそんな簡単に信じてもよろしいのでしょうか?」
「ええ、プリズム族は癒しの精霊様、そんなあっさりと命を投げ捨てるような選択はしないハズだからね。」
「大多数の命を守るために少数の命を犠牲にした――という可能性もありますよ?」
「もちろん。
でも、犠牲にすべき命として他人でなく自分のを選択するという気高い行いをするのが”プリズム・ロード”の様式美というものでしょ?」
プリズム・ロード……プリズム族では伝説の存在と言わしめる者らしいが――
「ふふっ、確かに――私はまだまだ”プリズム・ロード”とは程遠い存在ですが――
そうですね、そこまで言われれば私としても譲れないところがありますね。
わかりました、すべてはネシェラさんの信用のために……いいでしょう――」
プリズム族が何なのか”プリズム・ロード”が何なのか――
そもそも彼女らは認知度の低い種族故にノードラスにとってはなんのこっちゃという話だった。
「ノードラス、私はこの子らについていこうと思います」
えっ!? ノードラスは驚いていた。
「流星の騎士団にですか!? ああっ、いえ――それは構いませんが、執行官長は――」
アムレイナは首を振った。
「私は執行官長の職に戻るつもりはありません。
現在の方針では執行官長は現地への出向は原則行わないという方針にも則しているものと思います。
そもそも最後に執行官という職を全うさせていただいたのはずいぶんと昔の話、
それからの復帰ですのでだいぶブランクがあります。
そういうことも含め、執行官としての能力はどう考えても彼女のほうが格上だと判断します。
ですから、老兵である私は若い2人の執行官の補佐として、その役を全うすることにいたしますわ――」
なんと! お母様がついてくるのか! ネシェラは驚いていた。
「あなたとしても、隣にいたほうが私の動きを監視できるのだからそのほうがよろしいでしょう?」
言われてみれば確かにそうなのだが――
「ということでもう決めました。私は流星の騎士団についていくことにします。
他の方々がなんて言うかわかりませんが、これは”アシュバールの決定”です。
ブランクのある老兵には”初心に返れ”と言わしめるような相応しい立ち位置とも思いますので、
他の方々にはアシュバールに倣い、初心に返って職務を全うするようにとお伝えください」
ということでアムレイナが加わった――
「まっ、マジで……まさかの超展開――」
と言いつつ、嬉しそうなネシェラであった。
だが――それによるネシェラの狙いは、こういうことであった……。
その光景にセディルは唖然としていた。
「そうそうそう、その調子よ。
流石はプリズム族の女流剣士、太刀筋が違うわね――」
「うふふっ、ネシェラ様のお眼鏡にかなうなんて光栄にございますわ――」
なんで上下が逆転しているんだろう――セディルは悩んでいた。
どうやらネシェラが彼女の剣を修繕したようで、その際に太刀筋を見ているようだった。
「あらっ!? まあ! 失敗してしまいましたわ!」
と、アムレイナは驚きながらそう言った、いや……明らかに今のわざとじゃないか――セディルはそう思っていた。
「ええっ!? ちょっと新入りさん!? 失敗したらダメでしょ!? ったく――はい! 罰ゲーム!」
えっ、罰があるのか、しかもアムレイナ相手に……新入りさん扱い……セディルは絶句していた。
ところが――
「はい先輩! それでは――」
というとアムレイナはまるで我が子を抱くかのようにネシェラを優しく包み込むように抱きしめていた。
「うわぁい! お母様ー♪」
ネシェラはまさに無邪気な子供の用に甘えていた。
「うふふっ、まったく――しょうがない子ねぇ♪」
アムレイナもなんだかとても楽しそうだった。
「えっ、これが罰ゲーム!?」
セディルは悩んでいた。
「ずっとこれの繰り返しなのよ、私のお母様で……」
その光景をずっと見ていたライアは悩んでいた。
「次は私だからね!」
シュタルは楽しそうにしていると、他の女性陣もワクワクしていた。
「まったく――本当にしょうがない子たちなんだから♪ ほら、みんな一度においで♪ ライアもいらっしゃいな♪」
だが、やっているアムレイナもとても楽しんでいた。
これまであれほどにまで気丈に振舞っているアムレイナとは到底思えないほどに楽しんでいた。