アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第71節 黒幕の動き

 リアントスはボウガンを組み立てているネシェラと話をしていた。
「なーんか流れ的にライアの姉貴の生存についてどんどんと知れ渡っているのは気のせいだろうか?  セディルさんに始まりディアスも知っているのは……大丈夫なのか?」
 ネシェラは答えた。
「そうね、本当はあんまりよくないんだろうけど、怪しむポイントが違うからね。」
 怪しむポイントは何処なのだろうか、リアントスは訊いた。
「まず、流星の騎士団がクロノリアに行ったのに、 風雲の騎士団と違ってその後にばらばらに活動していないことと失踪していないこと。 これは明らかに当時とは違うことを示しているわね。 つまり、黒幕としてはこの時点で風雲の騎士団の時とは違う成果を得られたことを示しているとみて間違いなさそうね。」
 確かに、言われてみればそうか。
「これらからすると、向こうとしては別に流星の騎士団を目の敵にする要素がないということを示しているか、 もしくは、今の流星の騎士団の状況からして安易に手を出すのは得策とは言えないと判断してのことかもしれないわね。」
 確かに今の流星の騎士団はまさに時の人、今やロイドのみならず、アレスやシュタル、 ライアなどの他のメンバーまでもが戦術強化特別室という部門を設立し、アーカネル騎士団の戦術強化を測っているほどである。 さらにはアムレイナの圧……いや、尽力により貴族院からの支持も得られていることなどからして、手出しするのが難しい状態でもあるわけだ。
「とうとう俺にも白羽の矢が当たっちまったな、 ”戦術強化特別室射撃戦術強化担当”とかいう長ったらしい役職名までもらってな。 期待されてんのはいいんだが、ちょっと期待しすぎって気が――」
 リアントスは言うと、ネシェラは訊いてきた。
「そういえばなんでアーカネルを嫌ってたのにわざわざ入ってきたの?」
 リアントスは悩んでいた。
「なんでだろうな、ロイドを見ているうちに考えが変わったのかもしれないな。 あんただって俺と似たような気持だったんだろ?」
 ネシェラは答えた。
「そうね、アルお姉様はもちろんお父様を亡き者にしたアーカネルには思うところがあったわね。 だけど――大きくなってから、根本の原因はアーカネルそのものじゃなくて、 ここを支える何者かの陰謀だった――だから私はそれを暴きに来たってワケよ。 無論、それをするからにはアーカネルに入り込んでことを起こすまで、 だから今の私はここにいるのよ。つまり、あんたもそういうことなのね?」
 リアントスは頷いた。
「その通りだ、そのほうが手っ取り早くわかるってんならそれもいいか、そう思ったまでだ。 フィダンの森の問題のやつはエンドラスってことがわかった、 ヤツの提案を推し進めていったやつが、今はどんなツラさげて生きているんだろうな―― それに、俺がこれまで調べた中では執行官を辞めただの中には辞めさせられただの、はたまた死んだだの―― なんともろくな末路を送っていないような連中が多いこともわかった。 となると、何かしらの陰謀説が考えられるってわけだな」
 そこまで調べたのか――ネシェラは感心していた。
「中でも一番気になっているのは経歴がなんともクリーンなクリストファーだな。 当時の戦いに関与していた中ではあいつだけは妙に真っ白だ。 他にはアムレイナさんも白いほうだが――よく考えたらあの戦いが起こるずいぶん前に戦線離脱していたみたいだからな。 そう考えるとクリストファーが一番怪しいよな」
 なるほど――ネシェラは考えていた。

「そういや、怪しむポイントの話の続きがまだだったな、あれで終わりってことないだろ?」
 リアントスはそう言うとネシェラは話を続けた。
「ええ。その話で一番疑問に思っていること――それは、なんで風雲の騎士団がそもそも命狙われてんのって話ね。 流星の騎士団はそんなことないのになんで彼らが?」
 リアントスは悩んでいた。
「確かに、言われてみればその通りだな、風雲の騎士団と流星の騎士団の違いについては最初にも聞いた通りだが、 それでも流星の騎士団がセーフってのも気になるところだな。 手を出しづらいから? いや、単にそれだけって感じでもなさそうな気がするな――」
 リアントスは考えた。
「そうだな、俺が思うに――黒幕側に今の流星の騎士団を直接どうこうする人間がいねえのが一つの理由なんじゃないか?」
 ネシェラは頷いた。
「ええそう、それは確かにそう思った。 だからセディルさんやディアスにもアルお姉様の話をしたのよ。」
 やっぱり織り込み済みか――リアントスは呆気に取られていた。するとネシェラは――
「一つの理由ってことは他に何か考えてんの?」
 抜け目ないな――リアントスは話を続けた。
「そうだな――俺が考えているのは、本当は命なんて狙われてないってことだな。 当時は狙われていたんだが、今となったらそこまで神経質にならんでいいっていう判断かもしれないな。 だから当時の風雲の騎士団は狙われたが流星の騎士団は狙われていない。、 風雲の騎士団ももういいだろうってことになっているかもしれないな」
 ネシェラは頷いた。
「そうよね、まさにそれだと思うのよね。」
 おいおいおい、こっちも織り込み済みかよ――リアントスは悩んでいると、ネシェラは話を続けた。
「本当にそう思う? 問題はその確証を得ようがないことなのよね――」
 確かにそれはその通りだった。
「お姉様の存在を解放してもいいのかしら?」
 ネシェラはそう言った、やっぱりこの女も”アルお姉様”に会いたいんだろうな、リアントスはそう思ったが――
「いや、やめておいたほうがいいな。 問題は黒幕が殺害を誰に頼んだか、それで解放していいかどうかが変わるぞ。 そこいらのハンターや適当な戦士だったらまだしも、それが暗殺者だったら話は変わってくる。 やつらは確実に任務を遂行しようとする、金のためなら人殺しも辞さない連中なんだ。 当時のその話が今になってまだ生きているとしたら――今もなお探し続けているに違いない。 風雲の騎士団失踪なんて11年も前の話だが、暗殺だの陰謀だのなんてのは今のアーカネルでも続いている―― 生き残りを今でも探しているうえで別のやつを殺害している――そういう算段もありえなくはない感じだな。 なんたって、”アルお姉様”は普通なら見つかりようがない場所に隠れているんだろ?  サイスだってそれぐらい考えてやっているのなら黒幕もそれぐらいのことは見越していてもおかしくはない―― 黒幕がサイスの先輩のクリストファーだとしたらなおのことな。 だったらアルクレア殺害の話は期限を問わず生きている……という理解でいいのかもしれないぞ」
 それに対してネシェラは嬉しそうに言った。
「さぁっすがリアントスお兄様! イケメンなことだけはあるわねぇ♪」
 いや、どういう意味だよ、リアントスは悩んでいた。
「この世にはイケメン補正という言葉がありましてねぇ♪」
 へえ、そうなんだ、そいつは初めて知った……リアントスは呆れていた。
「ほら、大掛かりなコンポジット・ボウができたわよ。 ちょっと反動がデカイけど、いかがかしら?」
 ネシェラはようやく組み立てるとリアントスに見せた。
「おっ、いよいよか。こんなのも作れるんだな――」
 と、リアントスは照準を合わせてトリガーを引くと――
「ん、なんだかここの部分が妙に引っかかるな――」
 それについてネシェラが言った。
「ええ、それがないとうまい具合に照準を合わせるのが難しくなるからね。 いい具合に照準を合わせても、その時の環境や距離、何より反動の大きさもあって誤差が大きくなってしまうのよ。 だから誤差を小さくするために取り付けた補正パーツなんだけど、 最初はあまりに引っかかるもんだからそれでもだいぶ削ったほうなのよ。 量産品はその辺を考慮に入れて作るけどね。」
 するとリアントスは――
「だったらこいつは俺が使う。 経験次第でどうとでもできる程度のものだったら俺にはこんなの要らないから外してくんないか? いいだろ?」
 ネシェラはにっこりとしていた。
「仕方がないわねぇ、イケメンであることに感謝すんのよ♪」
 ……そう言うことにしておくか、この際だからリアントスは素直に受け取っていた。
「プロトタイプだから売り物にする気もないし、ちょうどよかったわね♪」
 当然のごとく、ちゃっかりしているな。