そして――
「げほっ、げほっ! なっ、なんだこの女――! どういうことだ――どうなっているんだ!」
アラドスは諦めが悪く、さらに再び剣を振りかざすと――
「まだやりますかっ!? はあっ!」
セレイナはサイプレス・パイル……何の変哲もないひの木の棒を使ってアラドスの足元を狙って思いっきり転倒させた!
――やっぱり物干し竿のネシェラ――何がどうなっているんだ!? アラドスに同情せざるを得ない。
「ぐああああ!」
その様を見てディアスとセディルは冷や汗をかいていた。
「……まるでネシェラ執行官を見ているようだな」
「……ですね、あれが彼女の実力というわけですか――」
「確かに、ある意味ネシェラ様にそっくりでございます。
アラドス氏には悪いですが、これはKO判定と認めざるを得ませんね――」
ランブルはそう言うと2人は頷いたが、ランバートだけは頭を抱えているだけだった。お察しします。
「うむ、異議なしだ、あそこまでやられればそう言わざるを得ないだろう――」
と、ディアスが言ったその時、後ろから別の貴族議員が――
「いや、この戦いはその娘の反則負けだ!」
なんだって!? 4人は驚いていた。
「お前はランダルト! 何を根拠にそんなことを!」
セディルは叫んでいるとランダルトという貴族議員が見下すように言った。
「根拠だと? ふん! むしろ反則していない根拠を示してほしいものだな!
だいたいそのような年端のいかぬ小娘がその程度の得物で将軍位の者を破るなどとは言語道断!
それが何故反則と言えぬのだ!
反則行為を行っているからこそあの小娘の勝ちが成立する! そうとしか思えぬ!」
じゃあ、かつてネシェラと正々堂々と戦って破られてしまった自分はなんなのか――セディルは憤りを隠せなかった。
すると――
「ランダルト、その辺にしておけ――」
また偉そうな男が入ってきた。
男は右目に眼帯と黒いマントと、なんとも偉そうな感じだった。
「こっ……これはロードアン様!
見ましたか! あの女は名誉ある執行官試験を汚したのですぞ!
これは執行官の職を剥奪するべきではありませんか!
無論、このようなことに手を貸したネシェラ諸共に!」
だがしかし、ロードアンは頷き――
「そうだな、それが反則行為を行っていればの話だがな――」
えっ、それは……ランダルトは耳を疑っていた。
「どっ、どうしたのですか、ロードアン様……?
あのネシェラという小娘、このままにしておくわけにはいきますまい?」
しかし、ロードアンは言った。
「いや、このままでよいのだ。
そもそもネシェラ……いや、ネシェラ様にはあのアムレイナ様が付いておる……
流石の我々でもあの方に逆らっては生きて帰ることはできまい――」
アムレイナ様だって!? ランダルトは冷や汗をかいていた、アムレイナ様と言えばあのアシュバールの――
「アムレイナ様が先ほど私の家にやってきた所だ。
昨日はイランドルフ家、今日はこれからカルディオシス家に行くと申しておった――」
そう言われてランダルトは冷や汗がますます止まらなくなっていた。
もちろん、その話にはアーカネルの貴族の勢力図を知るディアスとセディル、そしてランブルとランバートも冷や汗をかいていた。
「アムレイナ……本気だな――」
「彼女を怒らせると怖いですからね――」
「流石……やりますね――」
「ネシェラとアムレイナ様がタッグを組んだらそれで話が終わるじゃねえか――」
このアーカネルには恐ろしい女性がたくさんいるらしい。
そして――ランダルトは何も言わずにその場を去ると、ロードアンは4人に一礼して去って行った。
さらにアラドスも――
「アシュバール様を後ろ盾とは……もはや何も言うまい――」
そのまま会場を後にした。
ということで――
「スコアは総合得点500点満点中420点でいいわよね?」
と、ネシェラが言うとディアスは言った。
「うーん……まあ……正直わからないところもあったし、
本来ならアラドスが負けを認めるところを無理やり押し通しているところもあるから、
今回はそれでいいだろう――」
しかも420点はA判定、良判定ということである……ボーダーは400点だが色を付けていると言ったところか。
なお、合格の判定には筆記も実技も300点以上のC判定があればほぼ関係ないが、将来は明るいとだけは言っておこう。
「まあ――内訳はこの際どうでもいいですからね、その点数ということにしておきましょう――」
サイスはそう言った。
内訳は攻勢判定・守勢判定・戦術的思考の3つからなっており、
試験中の行動によってそれぞれが加点される仕組みである。
攻勢判定・守勢判定は100点満点だが、この2つのうち点数が高い方が倍化される。
さらにそれに加えて戦術的思考は200点満点で評価される。
つまり、総合得点は500点満点である。
ちなみにアレスは守勢判定が倍に、ロイドとシュタルとライアは攻勢判定だったがライアはどちらの点数も僅差だった。
そしてネシェラの場合だが、そもそもこれが戦術だと言わんばかりの戦いを展開していることから攻勢守勢の倍化はなく、
戦術的思考が満点の200点の上にさらに100点のボーナスを獲得しているヤバイ女である、
そう、攻勢だろうと守勢だろうと場を自らの戦術で支配したうえでの茶番でしかないという判定だったためである……。
「しかし――貴族院の反発もアムレイナ様のおかげでなりを潜めました、
つまり、ネシェラ殿は2人でなくとも大丈夫ということになりましたが――」
とノードラスは言うが、ネシェラは――
「せっかく面白い人材を見つけたのだから、むしろこのままいかせていただくことにするわね。
それに、今や流星の騎士団は勢いに乗っていて人数もだいぶ多くなっていることだし、
そうなると、監督者が多いに越したことはないわね♪」
と、楽しそうに言うと、ノードラスは頷いた。
「なるほど、そう言われてみればそれもそうですな。
まあいいです、それについてはネシェラ殿に一任することにしましょう」
すると、ノードラスはサイスの肩をたたいた。
「えっ?」
「もし、さらに流星の騎士団が肥大化するようなことがあったら、
次はサイス殿も投入することにしようかと考えがあってな――」
えっ、どういうこと? ネシェラは言った。
「いや、実はアムレイナ様のお達しについてはこちらにまで届いていてな、
もし必要になるのならサイスも是非にと――すぐにとは言わないまでもそのうち必要だとおっしゃられていたそうだ」
それはアルクレアの件だな――サイスとネシェラは直感した。
「わかりました、そう言うことなら謹んで引き受けましょう、貴族院の目論見とは別の話でもあるわけですしね。
ただ――今はまだその時ではないということですね」
サイス兄様も来るのか――ネシェラは少し楽しみにしていたが、サイスは逆に嫌な予感がしていた、ですよね。