ところが――ネシェラに対するさらなる嫌がらせが。
「えっ、どういうことです?」
サイスは訊くとノードラスは答えた。
「セレイナ執行官を現地で働かせるために貴族院の認可が下りないのだ、理由は――」
ネシェラが言った。
「とっても単純。実技試験を実施していないからでしょ、騎士選抜の騎士試験も面接だけだったし。
だから私の時と同じく実技として現地執行官適性試験をやればいいと思うんだけど――」
確かに単純。だが――ノードラスは続けた。
「ただ、その現地執行官適性試験の条件が厳しくなってしまった。
ネシェラ執行官につける補佐官はやはりネシェラ執行官ほどの能力の持ち主が妥当という判断となった。
その力量を推し量るために将軍位の者との対戦を行うように指示が出されているのだ――」
なんだって!? ネシェラとサイスは耳を疑った。
「将軍位の者って、誰です!?」
ノードラスは言った。
「それは――アラドス将軍だ」
なんと――ネシェラは考えながら言った。
「アラドス……まさに貴族オブ貴族から生まれ出た実力ある将軍ね。
赤い色の鎧がトレードマークの”紅蓮の騎士団”のリーダー……
ふふっ、いいわ、望むところよ――」
なっ!? ノードラスは驚いていた。
「まっ、待った! まさか、魔法を使用させる気ではあるまいな!?
確かに、それならそれで勝算はあるかもしれんが、それで相手が無事で済むのかどうか!
それに、魔法を使用しての戦いで貴族院が納得するのかどうか――」
ネシェラは頷いた。
「そこは大丈夫よ、セレイナだってバカじゃないわ、執行官になるほどの女なんだからね。
それに、きちんと戦技系の技を使わせて勝ちを奪って見せるようにするわね。」
だが、問題は――サイスは言った。
「それで例え勝利を得られたとして、貴族院が納得するか――ですね……」
確かに問題だった。すると後ろから――
「話はすべて聞かせてもらいました、セレイナが挑戦するのですね?」
なんと、そこには麗しのお母様が!
「まさか、アムレイナ様ですか!?」
ノードラスは驚いていた。
「こうして現場に戻ってくるのは久しぶりです、まだ席を残しておいて正解でしたね――」
サイスとノードラスは驚いていた。
「えっ!? てっきり引退なされたものだと――」
「そうです、確か結婚を機におやめになられたのだと――」
ネシェラが記録を眺めながら言った。
「アムレイナ様の扱いは現地執行官としての身分の一時返上と、
執行官職の無期限休職――辞めたなどとは一言も言ったような記録はないわね。」
そう言われてノードラスとサイスも記録を見直していた。
「もう子育ても終わったことですし、あの人も既にこの世にはおりません。
ですから独り身となった私は今の世界の現状を打破すべく、こうして戻ってきたのです――」
彼女の懐にはかつて執行官長として第一線で活躍していた時にも携えていた2本の剣が。
「問題は貴族院ということですね、そちらは私が何とかしてみます。
ネシェラ、セレイナのことは任せましたよ♪」
アムレイナはそう言うと、ネシェラはいつにないぐらい大真面目に答えた。
「はいっ! アムレイナ様っ!」
自分たちにはこんな態度見せないんだけど――サイスとノードラスは唖然としていた。
ここでも野郎忌みを発動するのねこの子……。
それから2日が過ぎ、アーカネル実技試験の会場となるハズの場所でそれは行われていた。
ディアスとセディル、そしてランブルとランバートの四将軍が見ているところでの試験である。
セレイナの相手は例によって赤い鎧が特徴のアラドス将軍――果たして勝算はあるのだろうか。
「さて、お嬢さん――申し訳ないがこれは一応試験なのでね、本気を出させていただくことにするよ」
セレイナは息をのみ、マジメな顔で構えていた。
一方で、ネシェラとロイドとライアは例の部屋で彼女のことを待っていた。
「セレイナがどうやったら勝てるんだ? アラドスと言ったら貴族騎士の中でもかなりのツワモノだぞ、将軍位の存在でもあるわけだしな。
まあ――それでもネシェラだったらわけないかもしれないが――」
「ええ、それがセレイナっていうのが……」
ロイドとライアは心配しているがネシェラは違った。
「大丈夫よ、セレイナなら勝てるわよ。
魔法の使用に際しては必要最小限を伝えてある、クロノリア遠征前よろしくわからないレベルのね。
さて、そろそろ決着がついたころじゃないかしら? 行きましょ。」
えっ!? もう!? 2人は唖然としていた。
一方、アムレイナは――
「おおっ! これはこれはアシュバール様ではありませんか!
少々お待ちくださいませ! 旦那様! 旦那様!」
アーカネルの有力な貴族の家、カルディオシス家に赴いていた。
アムレイナは来客室へと促されると、旦那様がすぐに駆けつけてきた。
「なんとこれは珍しい! 本当にアムレイナ様ではありませんか! 相変わらずお美しい方だ!
いつもいつも思うのですが執行官時代のあの頃から全くと言っていいほど変わっておられないとは!
まさに奇跡と呼ぶに相応しいお方だ!」
そう言われ、アムレイナは照れた様子だった。
「ところでアムレイナ様! 本日はどのようなご用件で参られたのでしょう!?」
アムレイナは早速用件を切り出した。
「もちろんですとも! 他でもないアムレイナ様のご用命とあらば――」
流石はアシュバール、アーカネル屈指の貴族というのは伊達ではない。