お城の1階ホールにて今年の意気込み的な行事をした後、サイスとネシェラは現執行官長のノードラスに呼び出されていた。
「えっ、どういうことですか!?」
「どうもこうも――つまりはそういうことだ、
やはり将軍位なるものをあっさりと2人も引き抜いてしまったことに貴族院がネシェラ執行官という存在に納得していないということだ」
という話である。それに対してネシェラが腕を組んで言った。
「ったく、年明け早々面倒なことがお好きな連中が多いわね、冗談きついっての。
じゃあ、どうすれば納得するというの? まさか、一旦流星の騎士団から離脱させるとかいうのかしら?
それとも、私が辞めればいいということ? それとも、流星の騎士団を……」
ノードラスは答えた。
「いや――そういうわけではない、逆にネシェラ殿を支持している者がいるのも事実だ。
あなたはなんといってもあのティバリス=ヴァーティクスのご息女である――そのうえでもてるその才覚……
特に言語試験の答案を白紙で出された時は驚かれました――」
ネシェラは髪の毛を整えながらナチュラルに答えた。
「ああ、あれね――1日目の常識力のテスト、2日目の理論的思考の数学と科学、3日目は午前の社会的知識までは受けたんだけど、
あの時点での満点400点はわざわざ採点されなくたって既にわかっていることだし、
そうなるとA判定ボーダーまで満たしていることは確実だから、午後の試験は面倒くさくてそもそも受けてないのよ、
んなことしているぐらいだったら別のことをしていたいしね。」
なんて人だ――サイスとノードラスは頭を抱えていた、そういうところは相変わらずである、鬼才変人とはよく言ったものだ。
それぞれ配点は常識力・数学・科学・社会的知識で100点ずつの合計400点である。
A判定は400以上なのでここまでで満点を取れれば確かにネシェラの言う通り次の3日目午後の言語学をやらなくてもいいという理解にはなるのだが――
「つまり、私がやったことが気に入らない根本の原因は、
将軍位の人を2人も引き抜いて流星の騎士団に入れたということをやってのけたのが私みたいな年端のいかぬ小娘で、
しかも言語試験の答案を白紙で出すような小生意気な娘だからということね。」
正解、その通りである――2人はネシェラを見ながら頭を抱えてそう思っていた、自覚しているのか。
「だが――ご自身から言われる通りの小生意気さゆえ、その才能を評価している者も事実だ。
そこで折衷案を考えたい。
今考えている案として有力なのはネシェラ執行官の体制を2人体制にするということだ。
つまり連中を黙らせるには”ネシェラ殿は年端のいかぬ小娘だから2人いないとダメなんだ”ということを見せつけたいのだ――」
そんな! サイスは反論しようとしたがネシェラは――
「生意気上等! それっていうのはつまり私の力を認めたっていう意味よね!
ま、当然よね、将軍位の方を2人――特にセディル将軍を引き抜いているのだから当たり前よね♪」
確かにその通りなんだが――生意気をむしろ誉め言葉として受け止めているこの女……。
「ふふっ、いいわよ、そういうことならそれで。
他の執行官様貴族様のお立場がなくなるっていうことならこのネシェラ、
”ハンデ”ということで”2人執行官体制でなければ職務を全うできません”っていう体でいかせてもらっても構わないわ。
知っての通り、私は別に見た目で執行官やってんじゃないの、実力でやってんのよ。
そのうえで面倒ごとがあるんだったら正直なんでもいいのよ。」
流石――サイスは感心していた、相変わらずのネシェラさんだな、と……。
それに、2人体制の意図を流石に汲んでいるのか――ノードラスは呆気に取られていた、流石は推薦されるだけのことはある。
「そっ、そうか、それでいいというのならその案で推していこう。
だが、問題は誰をつけるのが適任かだな――サイス、お前はどうだ?」
しかし、ネシェラが言った。
「サイスはダメよ、なんたって執行官として確かな力と実績のある人なんだから、
そんな人を付けたらかえって逆効果なんじゃないの? 最悪、サイスの経歴にも傷がつくわよ?
だからつまり――貴族院はサイスも叩くはずよね、そもそもサイスは間接的に私を推薦しているんだし、
それに、私と同じく若くして入ったサイスがもともと気に入らなかった連中からするとちょうどよく処分できるとも考えているんじゃないかしら?」
それは――サイスは悩んでいた、確かに以前はそう言うことはあったが、今はとりあえず平穏を保っている状態である。
言われてみればそれもそうか――ノードラスは悩んでいた……というかこの女、思考がずいぶんと回るんだな、
そうか、だから余計にこの女が気に入らないわけだ、2人は考えた。するとネシェラは妙案を。
「だったら、ちょうどいいのがいるわよ♪
執行官として実力がありそうだけどまだまだ発展途上な未来の卵がね♪」
えっ、だっ、誰!?
ということで、何故かセレイナが執行官の適性試験を受けることになった。
「ごめんね、変なことに巻き込んでしまって。
だけど――セレイナは有能だから、多分できるんじゃないかなって思って――」
ネシェラは言うとロイドは悩んでいた。
「確かに、ミラージュ……いや、セレイナならある程度はやってこなせそうだ。
問題はその常識なんたらと社会的なんたら試験だな――」
と、最後の当たりはボソボソとした声で話していた。それに対してネシェラは言った。
「それは大丈夫! セレイナってば、結構勉強が好きみたいであちこちで本を読んだりしているのよ!
ねえ! そうよねえ!」
セレイナはにっこりとしていた。
「はい! いろんなことが知れて嬉しいです! でも――私なんかがそんな執行官なんて大役、いいのでしょうか?」
ネシェラは嬉しそうに答えた。
「いいのよ♪ それに合格した暁には私と一緒に仕事することになるんだからね♪」
するとセレイナも嬉しそうだった。
「ネシェラさんと一緒ですか!? それは楽しそうです!」
もうセレイナの心を射止めてるのかこの女――やべぇな……男性陣はそう思った。
流石は女性陣にはウケが良いイケメン気質の頼れるお姉さんである。
そして――セレイナはとてつもない成績を収めて無事に執行官職へと任命されるに至った。
「なるほど、それゆえの頭の良さですか――」
サイスとネシェラは話し合っていた。
「ええ、あの子の素質は本物よ。
そこは流石は霊獣よね、世の中のエーテルの構成というのを理解して魔法を使用しているんだから私らなんかとは全然違うものを持っているのよ。
無論、世の中の理さえも看破するような能力もあるわけだし、
これでアーカネルの理論的思考試験と言語学試験なんて出されたところで彼女にとっては朝飯前ってことよ。」
サイスは苦笑いをしていた。
「いえ、あの……ネシェラさんだってどちらの試験も満点を――言語学試験だってその気になれば満点が取れるのでは……?」
するとネシェラは――
「そりゃあそうよ、あの程度の問題、簡単すぎるのよ。
他の人ならわかんないけど私にしてみればあんな問題――ちょっと退屈だったわねぇ。」
執行官採用試験ということは騎士の選抜試験の内容とはわけが違って難易度も高いというのにそれを簡単などとは――やっぱりこの人の能力、本物だ!
サイスは改めて感心していたが、いずれにせよ、その発言内容はやはり可愛げがないことは明らかである。
「なんか言った?」
「あっ、いえ! 何でもないです!
まっ、まあ――身内にこんな人がいるとなると、ちょっと自慢したくなりますね――」
「それを言ったら私のほうこそ。
むしろお兄様がこんなアーカネルの中枢で働いているなんて、私としては自慢だし、励みにもなるわね♪」
そっ、そうなんだ――サイスは照れていた。
「ほら、照れてないでさっさとセレイナの手続き済ませるわよ。」
「あっ、はい、そうですね――」
そしてやっぱりサイスも尻に敷かれていた――ますますヤバイなこの女……。