まさかのクリストファー……クロノリア遠征の件といい、何かと話題のお人である。
クロノリア遠征は納得せざるを得ない理由だったが、ここにきてまたしても――
「怪しい理由はどういったことで?」
サイスは訊くとディアスは少々悩んでいた。
「確か大学の先輩に当たる者だったな。
そのような者が今やクレメンティル教の法王――
誇りと思っている者を相手に疑うとは申し訳ないのだが――」
ディアスはそう言うが、サイスは気さくに話した。
「いえ――それはお構いなく。それより、お話頂けますか?
正直言うと、あの方は私にもわからないところがあります。
ですから、少しでも何かがわかるようでしたらむしろありがたいほどです」
流石は根暗先輩クリストファー……サイスにもそこまで言わせるような人なのか、
ロイドとネシェラは悩んでいた。
無論、ライアもこれこそが根暗先輩と呼ばれる所以なのかと察していた、実際、どれほどの根暗なのだろう。
そして、ディアスは話をし出した。
「それなら遠慮なく言うことにするが、
当時、クロノリアへの遠征後の風雲の騎士団の各メンバーに別々に遠征に行くよう指示したのは他でもないクリストファー本人なのだ」
なんだって!?
それには全員が驚いていた。
「どういうことですか!?」
セディルが訊くとディアスは答えた。
「わからんが、私はその際のやり取りについてこの耳で聞いてしまったのだ。
ただ、極秘事項というのでな、任務については口外無用の扱いだったことは覚えている。
クリストファーは何かを確かめると、風雲の騎士団のメンバーそれぞれを各地へと派遣し任務を行うように指示していた。
その時私は特に何も気にも留めることはなかったが、まさかその後に失踪とは思いもよらなかった。
その後、クリストファーもアーカネルの執行官の職を辞し、クレメンティル教の法王となっていた――
もはや何がなんだかわからぬ――」
確かにわけがわからない。すると、ネシェラは言った。
「風雲の騎士団のクロノリア遠征なんだけど、実はクロノリアに行けていない可能性があるのよね――」
えっ――!? それはディアスもサイスもセディルもアムレイナも初耳だった。するとそこに――
「何やら面白い話をしているようだから私も混ぜてもらおうかなー?」
それにはディアスもセディルも流石に警戒していた。
「セディル様! 大変申し訳ございません! 侵入を許してしまいました!」
それに対してサイスが言った。
「やれやれ、噂を聞きつけるのがいつも早い人ですね。
すみませんセディルさん、ディアスさん、この怪しい人が何を隠そうクロノリアの長なんです。
仕方がないので話をさせてあげてください――」
なんと、この人が!? 2人は驚いていた。それについてロイドも言った。
「ああ、何処からどう見てもただの不審人物にしか見えないが、これでも一応重要人物なんだ」
ネシェラも得意げな表情で追随。
「もっとも――こんな獄潰しのウッスラ野郎だからこそ、貴重な存在なんだけどね。」
ネシェラの毒が強すぎる……
「あはははは! 3人とも、歓迎してくれて光栄だね!」
誰がお前なんか――3人ともそう言いたそうな顔をしていた。
ウッスラ――スクライトの話は何とも強烈な話だった。
「それでは――風雲の騎士団はクロノリアに行っていないと?」
「しかも魔法が使えるのですか!?」
セディルとアムレイナは驚いていた。
「つまり、あの時クリストファーが確認していたのは――」
スクライトは頷いた。
「そう、クロノリアに行ったことを示すために魔法が使えるかどうかを確認していたということだね。
だが、彼らはクロノリアに行かずして魔法の力を得るに至った、私の父の力によってね。
これによってクリストファーの意図したことが達成されたのかどうか――それは残念だが知る由もない。
でも――確かなこととして、魔法が使えることとは何かしらの関係があることは間違いないらしいね」
知る由もない――どうやら肝心なところが見えていない可能性がありそうだ
ロイドは頭を抱えていた――中途半端に使えない能力……。
「だが、今回はクリストファーの意図したとおりにクロノリアに行くことがかなった――」
ディアスが言うとネシェラが言った。
「風雲の騎士団が魔法が使えるようになっていたことで最初はクロノリアに行ったものだと思っていたんだけど、
もしかしたら途中でクロノリアに行っていないことに気が付いた可能性がありそうね。
だから流星の騎士団にクロノリア行きを改めて頼んだ――ウッスライト、そういうのどう?」
スクライトは頷いた。
「もちろん、そのシナリオが正しそうだね。
となると当然、クリストファーの動向については注視していかなければならないことになるだろうね」
すると、アムレイナは目をつむり、そしてディアスに訊いた。
「ところでディアス、それからセディル、例のものをお返しいただけますか?」
すると、2人はそれぞれ剣を1本ずつ取り出した。
「久しぶりにアムレイナからの呼びかけだったからな、もちろんここにある」
「久しぶりね、アムレイナ執行官長――」
なんだって!? 何人かは驚いていた――
「おっ、お母様が執行官長!?」
当然、ライアが一番驚いていた。ディアスが説明した。
「そうとも、アムレイナは当時では最も力の強かった執行官であり、
しかも当時の我々”王剣の騎士団”の現地執行官の任にもついていた。
その当時の騎士団のメンバーは私とセディル、そしてリーダーのエラドリアス=アシュバールもいた」
えっ、アシュバールってことはまさか――しかし、ライアは言った。
「お父様が騎士だったのは知っているけど、まさか――」
ネシェラは気が付いた。
「ん、執行官と騎士が恋仲に?」
アムレイナはため息をつきつつ話をした。
「そう――私も禁忌を犯した身、サイス、あなたと一緒ね――」
えっ!? サイスは驚いていた。
「うふふっ、まさか、この私が知らないとでも?
あの時のサイスとアルクレアの嬉しそうな顔、間違いないと直感したものです。
だから私はあなたにアルクレアのことを託したのですよ」
サイスはともかく、アムレイナが禁忌を犯していることについてはディアスは知らなかったようだ、そのため――
「だが、あれは執行官を辞めてからの話ではなかったのか!?」
セディルが言った。
「それは違いますね。
アムレイナはね、エラドリアスの子アルクレアを身ごもったから現役を退いたの。
その時にアムレイナの剣を私たちが1つずつ預かりました。
そして、それと同時に王剣の騎士団もまもなく解散されたんだけど、
当時の私たちの騎士としての階級も上位にあり、3人とも将軍位を授かることになったのよ」
そっ、そうだったんだ――ライアは母の真実にとにかく驚愕していた。
すると、アムレイナは剣を引き抜いて確認していた。
「しばらく使っていませんので少々錆びているようですね、仕方がありません。
町の鍛冶屋に頼んで火入れをしてもらいますかね――」
すると、それについてはネシェラが言った。
「待って! それなら私に任せて!」
えっ……それについては再び何人かが驚いていた。
「あっ、そうだったな、言われてみればここに腕のいい鍛冶師がいるじゃないか」
ロイドは得意げに言った。