アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第61節 プリズム女の脅威の能力

 ということで、ネシェラとライアは早速ロイドを呼んで話をしていた。
「なるほど、そういうことか――そいつはあり得るな。 しかもあの容姿――プリズム族だろ?」
 プリズム族と言うのは――
「あの清楚でおしとやかそうなお嬢様っぽい服装はまるっきりそうよね。 身体的特徴だけでなく内面までも踏襲しているってわけなのね。 ”霊獣レジーナ”は妖魔の森にいるって聞いたことがあるけど、 アルお姉様がいるハズのプリズム族の里の近くにいるということなら――」
 霊獣レジーナ?
「霊獣レジーナは恐らくミラージュ・フライヤの母親のほうのことだろう。 彼女らが人里に降りてくる際に人の姿を借りる必要があるんだが、 プリズム族の里の近くで暮らしているということなら借りる姿も彼女らが手近にいるから採用しやすいってことだな」
 ところが――それに続いてネシェラはとんでもないことを言った。
「それに、プリズム族は妖魔の女……つまり、妖かしの血を以て異性の気を引く種族だからね、 まさに似たような性質として妖かしの幻妖蝶とも呼ばれるミラージュ・フライヤにしてみればプリズム族の姿はまさにベストマッチってわけよ。」
 えっ、どういうこと?
「なんだそれは? どういうことだ?」
 ロイドは訊くとネシェラは楽しそうに話した。
「どういうことってどっちのこと? どっちでもいいけど、いずれにしてもそのままの意味よ。 まず、姿を借りるのなら自分と同じ性質のものがいい、そのほうが自分にかかる負担も軽微になるから、 言ってしまえばプリズム族とミラージュ・フライヤはガワが違うだけで中身の性質は同じ種族という言い方もできるわね。 つまり、セレイナは見た目も性格も美人だけど、それはプリズム族だろうとミラージュ・フライヤだろうと同じ美人だってこと。 んで、プリズム族は妖魔の女についてだけど、 そもそもプリズム族の特殊能力は美貌だけじゃなく、その美貌から繰り出される妖かしの香―― 簡単に言えば”誘惑魔法”で異性を獲得する術を持っているってわけなのよ♪」
 うっ、うそ――ライアは唖然としていた。
「そうなの――!?」
「私の研究では間違いないわね!  そう、ほとんど女性しかいないプリズム族がどうして確実に異性を獲得できるのか――美貌だけで?  それがどうしても疑問だったんだけど、彼女らはまさに癒しの精霊様たる能力を持っているのとは裏腹に、 そういう女の部分を備えているまさに魔性の女たる要素を持っているからなのよ。 私の血にもその血が含まれていて、そういう能力が眠っていることを突き止めたのよ。 だから間違いないわね!」
 私の研究て――大体、あなたについては全然そうは思えないんですけど、 見た目”だけ”だったらそう思ってもいいけど、見た目”だけ”だったら。大事なことなので2回言いました。
「男には……含まれていない?」
 ロイドは訊いた。
「ロイドお兄様がケガした時にこっそり拝借した血を見たんだけど、 平たく言うとその血は含まれいないことになるわね、当然と言えば当然なのかもしんないけど。 でもその反対に女児にはその血が含まれている――そう考えるとアルお姉様もまさにそんな感じだったからすごい納得した感じね!  となるともちろんライアにもその血が含まれているわけだから、ライアも魔性の女たる要素を兼ね備えた女ってことになるね!」
 うっ、うそでしょ――ライアは悩んでいた、ここへきてそんな話を聞かされるだなんて――。
「ねっ、お兄様♪ ライアってとっても美人だよね♪」
 またその話……本人が隣にいるんだからやめてくれ――ロイドは切に願っていた。
「ということでロイドとライア、そしてリアントスとセレイナの将来は確定したのであった。」
「変なナレーション入れるな。誰に向かって言ってるんだ――」

 その血が含まれいる、含まれていない――ずいぶんとかみ砕いた説明になっているが、 厳密には”その血が含まれているが、フラグがONとなっている血が多いか少ないか”というものだそうだ。 その差によって妖魔の香を備えているのかどうかが変わるということらしい。 しかし、それだけでは推し量れない部分もあるようで、どうやら今の科学力でわかるのはここまでが限界のようだ、 まさに生命の神秘というものである。
 それはともかく、これによりロイドと女性陣のリアントスに対する扱いが変わることとなる。 たとえば――こんな感じである。
「随分と無茶したな」
 ある戦闘訓練、実戦形式で一定の魔物相手に戦いを続けている彼ら、 ロイドはリアントスにそう訊くとリアントスは言った。
「言ってないで、最近回復魔法が使えるようになったんだろ、 だったらさっさと治せよ――」
 しかし、ロイドは――
「いやいやいや、俺の力で治療するのは少々無理があるってもんだ。 だから彼女に治してもらえばいいんじゃないか?」
 彼女って――
「大丈夫ですか、リアントスさん――」
 と、セレイナがすぐさま駆けつけてきた。だが、このやり取り――
「またか――なんか妙に彼女にやらせようとしているな」
 と、既に何度も彼女に治してもらっているリアントスだった。
「そりゃそうさ、愛の力に勝るものなしってもんだ――」
 と、わかりづらく、ごにょごにょと濁しながら言うロイドに対し、
「あ? なんだって?」
 リアントスは踏み込んできた。
「えっ? ああ、悪い悪い――別のこと考えていたからな。 とにかく、彼女の実力を見ようじゃないかって話だから彼女に任せることにしたんだ。 だから俺はあっちに行ってくる、あとは任せたぜ!」
 と言いつつ、ロイドはさっさと去って行った!
「なっ!? あいつ――! おい待て! ロイド!」
 だが――少々興奮していたリアントス、痛みが走った――
「だっ、大丈夫ですか――!?」
 セレイナは痛がるリアントスの傍らへと優しく寄り添っていた。
「悪いな……クソッ、これしきの傷で!」
 だが、セレイナは――
「ダメです! リアントスさん! 無理しないでください!」
 と、まさに愛の力――いや、セレイナは訴えるように言ってリアントスをなだめつつ彼の傷を癒していた。
「おっ、すごいな、こんなあっさりと治せるんだな、セレイナさん……って言ったっけ――」
「セレイナでいいですよ、リアントスさん」
 セレイナはにっこりとしていた。そしてその様子をライアとロイドが――
「なんともいい雰囲気じゃない♪」
「だな、もうじき冬がやってくるハズなのに暑くて敵わねぇや♪」
 なんとも嬉しそうに見ていた。しかし、そんな2人の仲をシュタルとネシェラがにこにことして見ていた。
「あんなこと言ってるけどあの2人もイイ感じだよね! 息ピッタリだし!」
「そうよお兄様♪ 他人のことは言えないのよ♪」