アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第59節 ネシェラとセレイナ

 アーカネルの騎士選抜試験には2つの選考試験があり、今回の面接試験としばらく間を開けた後の適性試験がある。 面接試験は対話型の一次試験と売り込み型の二次試験、そして実技も交えた多人数型の三次試験まであるわけだが、 今回はあの4人というよりかはネシェラの千里眼が強力過ぎるがあまりに一次をパスした者と兵士適性だった者が合格したという結末となった。 ただし、兵士適性者に回されたことが不満で断った者もいたとかなんとか。
 その一方で、アレスたちも受けたような適正試験ではまず軽い集団面接という形式の面談があり、面接試験ほど厳しくないのが特徴である。 そのため、その時点では余程のことがない限りははじかれることはあまりない。
 ただ、受験者の選択で兵役のみを選択している場合は以降のハードルは低い。 無論、兵役は騎士選択の選考から漏れた場合のすべり止めとしても機能しているのだが、 ハードルの高い騎士選択の受験料が高いので、手に職をつけたいというだけの者の場合は安牌を取って兵役のみを選択する者もいる。 一方で受験料の高い騎士選択の場合は今回のように兵役選考もされるのである。 とはいえ、アレスもロイドもシュタルもライアも騎士一択だったようだが。
 そして、集団面接以降のカリキュラムとして、筆記試験と実技試験が受けられるようになる。 そう、集団面接でパスしないと試験すら受けさせてもらえないのだ。 だから素行に問題ありという人材の中には面接試験や臨時選抜を狙ってくるものもいるのだが、 当たり前ながらそんなんが受かるわけがない、考えてほしいもんである。
 筆記試験は一定の知識や教養があるかを求める試験で、 実技試験は国や民を守るために必要な戦闘能力を求める試験と、だいたいその通りの内容である。 もちろん、いずれも兵役選択の場合はあまり多くを求めないためハードルは低いことは言うまでもない。
 なお、臨時選抜の場合は少々趣が違い、面接試験と実技試験をしっかりとやらされるハメになる。 ただし、これに挑む者は基本的に実力者であることが多いため、特に実技試験についてはハードルが甘くなっている。 また、面接試験ではリアントスやスティアのような特例もあり、 流星の騎士団の推薦で面接試験や実技試験のハードルの減免特例が適用されるケースもあるようだ。

 ということで話を戻し、一方のあの女性とネシェラはどうなったのかというと……
「ねえ! あなた!」
 ネシェラは彼女を呼び止めていた。
「あっ、先程の――」
 女性は振り向いて答えると、ネシェラは気さくに話してきた。
「さっきはごめんね、こっちからあんまり話を聞いてあげなくって。 あなたとっても綺麗だからついつい魅入っちゃってね……」
 と、ネシェラは照れた様子で言った。
「そっ、そんなことは……それを言ったらむしろあなたの方こそ――」
 言われたネシェラは照れた様子で言った。
「私? そんなことないわよ、あなたには断然負けてるわね。」
 ネシェラはすぐさま話題を切り替えた。
「あっ、それでさ、もうちょっと話をしてみたいなって思ってさ、時間大丈夫かしら?」
 すると女性は素敵な笑顔で答えた。
「はい! 私は大丈夫です! 今は他にやることもありませんので!」
 こっ、これは……ネシェラはなおも魅入っていた――あなたも女の子でしょ。 そう――だからネシェラ中身本当は男なんじゃないか説。性質はほぼ男である、女子にもモテるし。 とはいえ、そんな彼女でも”むしろこんな男いない”というネガティブな理由で女子であることは間違いないとされている―― いや、女じゃないかもって言ってて男でもないとかどういうやつだよ! ……なんとも絶妙な存在感を示すネシェラである。
「アルティニアから来ているのよね? 泊まるところは決まっている? なければうちに来ない?」
 そして質問連打。女性は答えた。
「えっ、あの……決まっていないです……。 本当に行ってもよろしいのでしょうか?」
「もちろんよ! 今から案内してあげよっか? それとも後にしたい?」
 女性は嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます! それでは今すぐお願いできますか!?」
 もちろん、行く場所は他にないのだが。

「とゆーワケで連れてきちゃった♪  名前は麗しの美女セレイナ=レイティア、私と同じ18歳! みんな、仲良くしてね♪」
 楽しそうに言うネシェラだが、彼女はドキドキしていた。 まさかと思ったがマジで連れてきたのか……ロイドは唖然としていた。
「よう、さっきはどうもな――」
 ロイドは軽めにそう言うとセレイナはなんだか緊張した面持ちだった。 それに気がついたネシェラは心配そうに聞いた。
「大丈夫?」
 セレイナは焦っていた。
「あっ、す、すみません……ちょっと疲れているのかな……」
「そりゃあそうよね、面接したばかりだもん、疲れるわよねえ。 そんじゃ、こっち来て♪」
 と、ネシェラは彼女を部屋へと促した。
「だとさ。俺も他人のこと言えた義理じゃないんだが、勝手に泊まることになりそうだぞ」
 と、ロイドはアレスに言った。
「あはは……まあ、別に……ロイドも言うようにただ広いだけの家だからね……」

 部屋に入るとネシェラが話をした。
「ここは私の部屋なんだけどね、でも――実はここ、ティンダロス邸なのよ。 さっきゴツイ鎧来ていた男の人いたでしょ? あの人の家なんですって。 でも――大きな家なのに寂しいから私たち”流星の騎士団”の宿舎として提供してくれているみたいなのよ。」
 と、ネシェラはしっかりと説明するとさらに続けた、まだあるんかい。
「で、私の部屋なんだけどやたらと女の子がやって来たがるから他の部屋よりも広い部屋にしてもらったのよ、 だからベッド数も御覧の通り4つもあってね。 同い年なんだし、仲良くなれるといいかなって思って同じ部屋はどうって思ったのよ。 もしイヤだったら変えてもいいけど――」
 というと、セレイナは訊いた。
「やたらと女の子が来るんですか?」
 ネシェラは照れた様子で答えた。
「……自分で言うのもなんだけどさ、私ってば妙に女の子に気に入られるみたいでね、 騎士団の仲間から、面接で一緒にいたシュタルって子とライアって女の人もそうだし、仲間の他には近所の女の子なんかもそうね。 それでみんな無茶苦茶甘えてくるのよ――ま、それで調子に乗っちゃう私も私なんだけどさ。」
 そうなのか、セレイナは考えると、
「あの……同い年ということなら……ちょっと訊いてみたいことがあるんですけどよろしいですか?」
 彼女は少々遠慮がちに訊いた。
「もしかして踏み込んだ話ってこと? ええ、全然平気よ、何かしら?」
 と、そこまで来たらこの女の場合はどんな質問が来るのか大体予想はできそうな感じこそするのだが、 そこはやはり恋愛興味なし娘、そういったことについては無頓着ゆえに一切ノーマークである。
「ネシェラさん……とっても素敵な人だと思うんです、ですから……その……彼氏さんとかいらっしゃるんですか?」
 ああ、なるほど――言われてようやく気が付いたネシェラ、臆せず答えた。
「残念だけどそういうのはいないのよね。 そもそも私、むしろ男に恐れられてる系だからだいたい男から逃げていくのよね――」
 と、ネシェラはその武勇伝について軽めの話を包み隠さず説明していた、その軽めですら十分重いのだが。 すると――
「すごいです! ネシェラさんってすごい人なんですね!  いじめられたお友達さんの代わりに男の子に仕返しするだなんて本当にすごいです!  男の子にはちょっと悪いですけど――でも、私のためにそんなことしてくれるんだったらちょっと嬉しいかな――」
 すると、ネシェラは得意げに言った。
「そうね、セレイナが男にいじめられたら――とにかくその男を徹底的にボコボコにするわね。 そして――こうしてあげるの――」
 と言いつつ、ネシェラはしっかりとセレイナを抱きしめた――
「えっ……!?」
 セレイナはびっくりしたが、次第に――
「セレイナ、大丈夫? ほら、泣かないで、もう大丈夫だから――こんな風に抱いてあげるわね――」
 それにはセレイナも嬉しそうだった。
「わあ……ネシェラさん、暖かいです―― ネシェラさんが女の人に人気がある理由、すっごくわかります――」
 そう、この娘の最大の特徴はとにかく同性に対する面倒見の良さにある。 こんな彼女だからこそ、女性陣は彼女を頼るのである。
 するとネシェラは何かに気付いた。
「えっ……!? これってまさか――なるほど、この娘の秘密――まさにワケアリってところね――」