アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第57節 最強の女の手回し法

 ある日のこと、流星の騎士団チーム会議にて。
「人数を増やすのも結構なことだが、問題は何人まで増やすかだな――」
 ロイドは腕を組んでいた。
「でも、今後は魔法の力も使えて即戦力になる人材が求められる。 ただ――これから騎士になる人はまだまだそういった能力に目覚めていない人が多いし、 何より、現状の騎士でさえもそこまで至らない人がいるのも事実だからね―― 俺もまだ使いたてでほとんど慣れていない部分があるし……」
 アレスはそう説明していた。
「そう言えばいきなり新規勢を増やす話しか聞いてないんだが、何かあったのか?」
 リアントスは訊くとライアが答えた。
「新規勢を現地で慣れさせて即戦力になる人員を増やしましょうっていう執行官勢からのお達しよ。 その際に既存のチームに入れて先輩方の指導のもとでやるのが効率的っていう話にまとまったらしくってね、 私らみたいな年齢層の低いチームを対象にしてやることが決まったみたいなの」
 シュタルが両腕を頭の後ろに組んで言った。
「へんなのー、それならディアス将軍の”黒曜騎士団”やセディルさんの”光天騎士団”とかに配属させればいいのに――」
 だが――
「いや、ディアス将軍もセディル将軍も年齢層が上だからな、今時の若い者と馴染みにくいだろうって判断していたらしい」
 と、アレスは言うとシュタルは続けて訊いた。
「そうかな? だって――ディアス将軍はよくわからないけど、セディルさん滅茶苦茶いい人だよー? 私、好きだけどなぁ……」
 ネシェラが話した。
「光天騎士団は過去に次々と殉職者が出てきた結果、今はセディル含めて3人しかいないの。 なんだけど、セディル以外の2人は年齢的に今年いっぱいでリタイアすることが決まっているのよ。 それで光天騎士団は解散することになるんですって――」
 えっ!? そうなのか!? 何人かは驚いていた。
「セディルはどうなるんだ?」
 ロイドは訊くと、ネシェラはにっこりとしていた。
「うっふっふっふっふ……いい質問ね!」
 彼女がこれを言うたいていの場合は嫌な予感かとびきりデカイニュースかのどちらかの二択である。ネシェラは話を続けた。
「ふっふっふ……実はねぇ……来年から流星の騎士団に配属されまーす♪」
 なんだってー!? 全員驚いているがそれだけではない。
「ちょっとちょっと、そんなに驚かないでちゃんと余力を残しておきなさいよ、もう一つ伝えなければいけないことがあるんだから。 ランバートのチームも今年限りで解散されんのよ。 その後のランバートの再配置も決定していて、うちのチームで引き取ることになってんのよ。」
 なんだってー!?
「おっ、おい! どういうことだよ!? なんでランバートまで!?」
 と、リアントスが言うとネシェラは答えた。
「ランバートの”烈火の騎士団”は現在4人で、そのうちの1人は以前に大ケガしているからね、 もうそろそろ限界だから無理させないようにと退役させることにしたのよ。 もう回復魔法でも手の施しようがないレベルだからこれ以上大変な目に遭わせるわけにはいかないって判断したそうよ。 残りの2人は実家の農家を継ぐためにもともと早期退役が決定していて、今回のそれを契機に辞めることになっていたみたいよ。 そうなるとランバートの行き場がないからうちで引き取ったわけよ」
 するとネシェラはニヤッとしつつ、シュタルに言った。
「ランバート、力では流石にかなわないけど、それ以外はシュタルよりも下ね。 だから後輩だと思ってじゃんじゃんこき使ってあげたらいいんじゃない?」
 そう言われ、シュタルもニヤッとしていた。
「兄貴が後輩かぁ……ふふっ……」
 女は怖い。

 そんなこんなである日のこと、いよいよ4年に一度の騎士選抜が催される前の日がやってきた、 ”第554回アーカネル騎士選抜”試験である。 その日はあくまで公示されただけであるが、翌日は面接試験の日のため、会場は大忙しだった。
「いろんなやつが来るからな、警備を怠らずに頼むぞ」
 と、オーレスト門で指揮をしているランバートの姿があった。  その時にはまだ流星の騎士団への配属は決定していないランバートだが、 彼のチームは既に解散しているため、とりあえず彼らと活動をすることにしたランバートだったが――
「ほらぁ! 新入り! ちゃんとやってるー!?」
 早速ネシェラの尻に敷かれていた。
「やってるだろ!」
 すると――
「ほらぁ! 新入り! ”やってるだろ”じゃなくて、”やってます”でしょ!?」
 と、シュタル……ランバートは悩んでいた。
「やっ……、やってます……」
「声が小さい!」
「……やってます!」
 が、そこでネシェラはボソッと皮肉を――
「……ったく、そもそも”やってます”ってなんなのよ? 普通は”はい”一択に決まってんでしょ? そんなんでよく今まで騎士なんてやってこれたわねぇ。」
「……はい! 申し訳ございません!」
 そこへリアントスが話しかけてきた。
「しっかりと尻に敷かれてんな。 でも別に大したことじゃねえ、あの女とその取り巻きの女の尻に敷かれている男なんて全然珍しくないからな」
 するとそこへネシェラが甘えたような声で言った。
「あら♪ イケメンリアントスお兄様じゃないノ♪ ご機嫌いかが♪」
 対応が全く違うように見えるのだがそれは違う――リアントスは嫌な予感しかしなかった。
「そんな素敵なリアントスお兄様にお願いがあるんだけどよろしくって?」
 と、彼の左腕に収まって無茶苦茶甘えたように言うが、案の定、左腕はがっつりと絞められていた――
「痛いっての! わかったから放せ!」
 リアントスについてはいつものパターンである。
「いいんだか悪いんだか――」
 ランバートは作業を進めながら唖然としていた。
「そういえば、なんでみんなネシェラさんからあんな目に遭うんだ?」
 アレスは訊くとリアントスが答えた。
「陰口が原因だな、だいたいイヤミ言っちまってるから積もり積もった恨みを晴らしているに過ぎない。 ま、それでもまだ可愛げがあるほうだから全然許せる範囲だが――それでもできれば接触は最小限にしたいところだな。 元々野郎忌みゆえに当たりも少々強い――幼少期の育ち方にも一因があるし、気持ちもわからんでもないからな」
 さらにロイドも悩みながら言った――
「そもそも、ランバートは散々ネシェラ”ちゃん”って言ってたしな。 散々警告してきたってのに、それでもついつい言ってるからな。 それでは尻に敷かれても仕方がない」
 そっ、そうなんだ――アレスは悩んでいた、心当たりはあるということか、やはり女は怖い。

 するとその時――
「げっ――なんだ、この恐ろしいまでの触れてはならないレベルの気配は――」
 ロイドは妙な気配にすぐさま警戒し始めた。 そしてその気配がオーレスト門までやってくるとロイドは剣を抜き、その気配のもとである1人の人物へと襲撃した。
「このクソ野郎! 何のつもりだ! ああ!?」
 それに対し、そいつは何食わぬ顔で答えた。
「やあロイド君! 久しぶりだね! 怪しい気配の元に対して素早く対処しようと突撃してくるなんて関心関心♪」
 そう、そいつはスクライト、スクライト=ティルフレイジアだった。
「オメェ……クロノリアに鎮座してんだろ……わざわざ山から下りてくるとはどういう了見の所業なんだ……?」
 ロイドは脅すように訊くとスクライトはムカツクぐらいの笑顔で答えた。
「何を言っているんだい? そのうちこっちに来るって言ったじゃないか! もう忘れたのかい? 物覚えが悪いなぁ!」
 ロイドはそのままそのムカツク顔に対してグーパンを決めようと思ったら――
「えっ、もしかしてウスライト?」
 ネシェラが気が付いた、ウスライトって……すると、スクライトは何故か焦っていた。
「ふぁっ!? まっ、まさか……ネシェラ……?」
 あれ、なんだか雲行きが……ロイドはネシェラの方を一旦振り向くと、意地の悪い顔をしたままスクライトのほうへと向き直った。
「そういやそうだったなぁ、お前……ネシェラが苦手だったなぁ!  ”未来を予測する能力”とか言いながらネシェラのことについてはことごとく外していたよな!?  だったらいいぜ、テメェを深く歓迎してやるよ――アーカネルへようこそ―― さあ、さっさと入りやがれ……テメェの墓場となるこの地になぁ!」
 と、ロイドは恐ろしい笑みを浮かべながらスクライトを招き入れ、少しずつ後ろに下がって行った――
「えっ!? ネシェラの未来を予測できないの!?」
 ライアはそう言うとロイドは元の表情に戻して言った。
「よくはわからないんだがネシェラの未来予測は正確にできないらしい、 だから”いる”とはわかっていてもここの場にいるとは思ってなかったみたいだな。 オマケにネシェラがあんなんだから、反対にスクラ……ウスライトのほうが足元見られているって関係なんだ。 つまり、ネシェラはそのことを含めて最強の女ってことになるわけだ――」
 最強の女! 確かに! ライアは共感していた。
「ネシェラなら最強の女を名乗られてももんくないわね!」
 確かにその通り!

 そして、サイスとスクライトの対面。 そこにはしっかりとネシェラが同席している――負のオーラ増し増しで……。
「まさかクロノリアの長になっているとは――どんな卑怯な手を使ったんです?」
「おいおいおい、私がそんなことをすると思っているのかい?」
「えっ!? 違うとでも言うのですか!? そんなわけないでしょう!?」
「きっとこいつの中ではやってないって認識なのよ。 ”いつもやってる”から今更そんな風に感じることがないだけよ。」
 ということで、そちらの話も着々と進めていた。 クロノリアの魔導士が全面協力するということで、何人かの魔導士たちを各拠点に置くこととなった。
 なお、サイスの処遇についてだが、あの件については口外しないことになっている。 そもそもサイスの目的は風雲の騎士団の一連の謎についてを追っているだけであり、 その後はアルクレアと共にひっそりと幸せな家庭を築き上げるつもりらしく、 この件が終わったらアーカネルを去ることを予定しているのだという、何とも寂しい話である。