アーカネリアス・ストーリー

第3章 嵐の前の大荒れ模様

第55節 伝説の霊獣と伝説の災禍なる魔物

 ということでアルキュオネ大平原北東部、パタンタから山脈に沿って北側へと行くと、確かにその魔物がいた――
「あれがそうか!?」
 その魔物は確かに透けているようだが、ロイドはその魔物を見て驚いていた。
「なっ!? マジか!? あれは”ミラージュ・フライヤ”じゃねえか! なんでこんなところに!?」
 ロイドによると、そいつはまさに幻の存在なのだそうだ。 体はその見た目通り透き通っているのだが、その造形は蝶々のような身体である。
「そっ、そんな魔物がいるのか!? いや、目の前にいるんだよな……。で、どうするんだ? いきなりやるか?」
 と、リアントスが訊くが、ロイドはそれを静止した。
「いや、やめとけ、あれには絶対に手を出さないほうがいい。 訊くところによると絶大な魔力を秘めていて、仇成す者すべてをその力で破壊してしまうほどの能力があるらしい――」
 マジかよ――3人は悩んでいた。
「じゃっ、じゃあ――どうするんだ?」
 アレスは訊くとロイドは考えた。
「あれは魔物というよりは”霊獣”と呼ばれる類で、 こちらから手出しをしない限りは特に何をしてくることもない、無害も同然だから放っておくに限るんだ。 だからそのうち帰るんじゃないか?」
 それに対してスティアが悩みながら言った。
「でっ、でもよぉ、さっきの話だと1週間ぐらいいるって言ってなかったか?」
 言われてロイドは考えていた。
「確かに1週間もああしているってのも妙だよな、 ”霊獣”というぐらいだから魔物なんかよりははるかに知恵のある存在、いつまでも同じところにいるわけがねえか……。 ということはつまり――」
 アレスは頷いた。
「つまり、ワケアリということか」
 そういうことである。

 ロイドは恐る恐る”ミラージュ・フライヤ”に近づくと、そいつはロイドの存在に気が付いたようだ。
「なあ! おっ……おい! どうかしたのか!?」
 ロイドはそう訊いたが相手は何も返してこなかった。 だが、少なくとも敵意みたいなのは感じなかったロイド。
「……言葉が通じねえのか、それとも向こうが俺らとコミュニケーションをとる手段がないのか、参ったな――」
 ロイドは頭を掻いていた。すると――
「うおっ!」
 なんと、いきなりミラージュ・フライヤのほうからロイドに向けて魔法が放たれた!  魔法は球体のようなものがミラージュ・フライヤから放たれると、地面に向かって着弾!
「ロイド! 大丈夫か!? クソッ!」
 と、リアントスはロイドの危険を察してボウガンを構えたが、ロイドは――
「いや! 待て! 今のは攻撃じゃない! こっちに来てみろ!」
 えっ、どういうことだ!? 3人は恐る恐るロイドのもとへとやってくると――
「見ろ……」
 ロイドは魔法の着弾地点である地面を指さした、そこにはミラージュ・フライヤが放った魔法の痕が――
「なんだ? これがどうかしたか?」
 スティアが訊くと、リアントスが言った。
「なんだこれは? 文字のようにも見えるが――」
 ということはつまり――
「何かを伝えたがっているのか?」
 アレスはそう訊くとロイドは文字を見て考えていた。
「これは”エルフェドゥーナ文字”だな、 こんな文字を使ってまで伝えようとしてくるあたり、 こいつはやっぱり相当の知能の持ち主だな――」
 なるほど、確かに――3人は頷いた。
「ロイド、読めるのか?」
 アレスはそう訊くとロイドはしゃがんで読み始めた。
「エターニスでは一応使われている文字だから一応なんとかな――」
 すると――
「ふーん……こっちから言葉は通じているようだな、 騒ぎを起こしてしまって申し訳なく思っているそうだ。 でも、自分の子供がこのあたりで迷子になっちまって困っているらしい」
 子供が? アレスは訊いた。するとロイドからの質問が。
「1週間も迷子なのか? 何かあったのか?」
 すると、再び魔法が放たれると地面に着弾し――
「うーん……なるほど、そういうことか……」
 ロイドは悩んでいた。
「そいつはまずいな……。 子供はただ迷子になったんじゃない、どうやら魔物に連れ去られてしまったようだ」
 なんだって!?
「ただ、生きてはいるらしい。 魔物のほうはこの母親が報復しに来ることを恐れて子供のほうはすぐには食さず、 ここからさらに北の方で人質として捉えている状態だそうだ。 それでこの母親はどうしようかとこの1週間ほどずっと途方に暮れていたようだ」
 さらに再び魔法が放たれ――
「マジかよ――こいつは貧乏くじを引いちまったようだな……。 自分が乗り込めばやつを斃せないことはないが、 子供のことを考えると踏ん切りがつかないからできれば助けてほしいらしい。 ただ――その魔物っていうのが――」
 ロイドは頭を抱えていた。
「なんだ? その魔物がどうした? 厄介なやつなのか?」
 スティアが訊くとロイドは答えた。
「ああ、これは相当厄介な案件だ。 魔物の特徴は”煉獄の業火を操る怪鳥”だそうだ―― そんなやつ、俺が知る限りだとあいつしかいない……」
 まさか、それって――
「お前がこの前言っていたやつだな、サンダー・フールの炎版……しかも炎版のほうがもっと厄介だって――」
 リアントスが言うとロイドは頷いた。
「そいつもまた伝説に名だたる凶悪な魔物、その名も”ブレイズ・フール”と呼ばれるやつだ――」