サイスは観念した、観念して話をすることにした。
「すべてはネシェラさん……あなたが考えられている通りです。
最初はクロノリア行きなんて――今回の件同様に、あの事が発端です――」
クロノリアに赴いた風雲の騎士団は次々と行方知れずに――
「最初はエルヴァランさん、次にレギナスさん、
現在でも遺体すら見つかっていないティバリスさんまでもがいなくなってしまい、
私は恐怖していました、このままではアルクレアまでもがやられてしまうのでは、と……。
だから私は、私自らの手でアルクレアを亡き者にしたのです、
彼女を守るために彼女の存在を隠蔽し、そしてさも死亡したかのように見せるため、
書類上からも彼女の存在を抹殺し、亡くなってしまったかのように偽装したのです――」
サイスは両手で頭を抱えていた。するとライアはサイスに目線を合わせて話をした。
「お姉様のこと、大事だったのね――」
サイスは真剣な眼差しで答えた。
「それはもちろんです! 私たちは将来を語りあう仲でした!
ただ――まだアルクレアのお母様にはきちんと話ができていないので、
婚約したとまではいきませんがね――」
なお、一方のお父様のほうは戦死しているようだ。
「それで? アルお姉様を何から匿ったの? ”大きな力”の真実は見えているの?」
サイスは考えた。
「一応、目星らしいものはついているのですが、残念ながら確かな証拠として見つけられたわけではありません。
もちろん、それというのは前の執行官長であるセドラム氏の執行記録なのですが、
一通り調べたところ、特に不自然な記録は見当たりませんでした。
なんならネシェラさん、自ら御覧に入れることも可能ですが――」
彼女は頷いた。
「とりあえず、それは追々で。
それともう一つ訊きたいことがあるんだけど、アルお姉様は”プリズム族の里”にいるのね?」
そう言われて悩むように答えたサイス。
「はい……、流石ですね、ネシェラさん。
あの場所は特殊な場所でして、他の者からは”ただの迷いの森”にしか見えないような構造になっているんです。
ですので隠すにはうってつけの場所なんです。
もちろん私はプリズム族では非常に珍しい男児で、母は既に亡くなっておりますが、
祖母はあの里で長を務めるような方です。
つまり――向こうでのことはすべて祖母に任せているのです――」
サイスはさらに続けた。
「もちろんこのような話、最初はアルクレアにも反対されるだろうと私も考えました。
ですが――もはや流石としか言いようがありませんがネシェラさん――
あなたなら自分がどうなっているかをすぐに気が付かれるんじゃないかと言うことで、
彼女は驚くほど素直にこの話を聞き入れてくださいました。
そう――彼女としてはやはり仲間の死の真相を知ることと、そしてネシェラさんのことをずっと気にかけていたようですね――」
僅か3年間しか一緒にいなかったのに、アルクレアにとってネシェラの存在はそれだけに大きな存在だったようだ。
「それからもちろんライアさん――あなたのことも心配しておりました。
自分のことを追ったためにあなたも命を狙われることになるのではないか、
それをずっと心配されていました。
だからお姉様は、あなたが騎士になることを反対したのです――」
そっか、お母様が反対していたのはお姉様がそうして欲しいと言っていたからだったのか、ライアは考えた。
「ということは――お母様はお姉様の生存についてはご存じなのね――」
ライアはそう言うとサイスは頷いた。
「はい、私がアルクレアの公式上からの抹殺について提案させていただく際にお母様も同席されていましたので。
当時のあなたでは説明できることではなかったというお母様の判断で、あなたには知らせないことにしたのです。
ただ――あなたがどうしてもお姉様のことを追うと聞かないものですから、
お母様はあなたのことを私に託し、万が一のことがあっても一人前に戦えるすべを身に着けさせたのです」
なんと、ライアが騎士になるまでのことについてはすべてお母様の――
「そうでしょうね、それは私も思った。
サイスお兄様はアルお姉様とのこともあるから、普通ならライアを家に帰るように説得しているハズだからね。
でも――ライアのお母様は、ライアのことだから言っても聞かないだろうと考えてサイス兄さまに託した――
そんな筋書きかしら?」
サイスは微妙な面持ちで言った。
「やはりお見通しですね。
そうなると、やはりプリズム族の里の場所まで既に検討できていますね?」
えっ、そういえばそれは聞いていなかったような――ライアは考えると、ネシェラは得意げに答えた。
「ええ、もちろん! サイス兄様、墓穴を掘ったようね!
これが私だからまだいいけど他の人に見つかったらどうするつもりだったの?」
えっ、何の話――サイスは困惑していた。
「これよ!」
と言いつつ、ネシェラは複数枚の書類を取り出した。
「これは……アーカネルの公式地図ですか? これが何か?」
ネシェラはとある場所を指さした。
「答えはここよ、サイス兄様が存在を隠したかったプリズム族の里はここってわけ。」
えっ!? なんで!? 全員驚いていた。すると、ネシェラは何やら機械を取り出し――
「なんですかこれは?」
「これは筆跡分析機――私が12年前に作ったものよ。
元々は学校の宿題で楽するために用紙の複製するために作った筆跡追跡機っていうものだったんだけど、
これを応用するとこんなことができるのよ――」
すごいの作るな。すると――
「はい、この通り、同じものが出来上がり――のハズなんだけど……」
だが――
「えっ? でも、同じじゃなくない? だって、書かれていないハズのものが書かれているように見えるんだけど――」
と、シュタルは言うと、クレアが元の紙のほうを見て気が付いた。
「あっ! これを見てください! ここの部分です! ほら、よく見ると何か消した跡がありませんか!?」
僅かな跡だが、それでも確かに消した跡があった、ということはつまり――
「そう、分析機が原本をもとにして筆記したほうには記載があるけど原本にはそれを消した跡がある……
つまり、この分析機にかかれば消す前の内容がわかるってことよ。
消したのはサイス兄様よね?」
ネシェラは訊くとサイスは白状した。
「はい、消しました――」
だが――
「あれ? よく見ると、消している箇所は1つだけではないようですが――」
と、セディルは分析機の筆記したものと原本とを見比べて気が付いた。だが――
「でも、問題の場所はここしかないのよ、その根拠は――」
サイスが答えた。
「その通りです、”プリズム族の里”ですからね。
我々は森の中に里を形成するというのが慣習としてあります。
”ただの迷いの森”に見せるということが可能なのも森の中にあるからこそです。
そして、そのアーカネルの公式地図のそこの里の地理情報を消したのですが、
一か所だけ消しても安心できなかった私は、
他の辺境の地の地理情報――削除したところで大勢に影響を与えないだろう場所をピックアップし、
そのすべてを消すことでカモフラージュすることにしたのです。
ですが――迂闊でしたね、言われてみれば確かに――
森に該当する場所で消したのはまさにその場所だけだったことを失念しておりました――」
とはいえ、こんなことに気が付くなんてネシェラぐらいしかいないだろう――ますますヤバイ女である。
「ただし、問題は一つ。
不安な状態が続いているのに、アルクレアに会いに行くというのは――」
と、セディルは言った。
「もっ、もちろん私としても彼女には会いたい限りだけど――」
セディルは本音をぶつけるが、ネシェラは――
「もちろん私も会いたいけどね。
でも――もう少し、十分な準備をしてからにしたほうがいいかなって思うわね。」
流石はネシェラ、この娘は感情論だけでは動かない。
「となると、あとはライア次第だけど――」
するとライアは――
「ええ、ネシェラがそうしたいというのなら私もそうすることにするわ。
もちろん、今でも生きていることは確実なのよね?」
サイスは頷いた。
「何かしらがあればすぐに私のもとに連絡が来るはずです。
しかし、それがないので少なくとも無事であることは間違いありません」
ライアは頷いた。
「わかったわ、それならじっくりと待ちましょう。
お姉様に会うのはもう少し力をつけてからにするわ。
私が一人前になった姿を見せるつもりでね――」
というと、シュタルとクレアは互いに顔を見合わせてにっこりとしていた。
そして、セディルは優しそうな眼差しでにっこりとすると、ネシェラは安定の得意げな表情で笑みを浮かべていた。