どういう人なのかもわからずに彼女を待っていたライアだが、
これまでの話からも絶対にネシェラが特定できると踏んでの行動でもあった――まさかこうもあっさりと特定できるとは。
しかもアルティニア方面だったらアルティ門からくるハズなのだが、
今回はわけがあってオーレスト門側からくるとロイドから聞かされていたため、
ここでの待ち合わせをすることとなったのである。
ネシェラの背は高いとは聞いたがこれは確かにロイド並の身長がありそうだった。
それに胸も確かに大きいが、なかなかのサイズのものをお持ちのようだ……
聞いてはいたが想像以上――ライアは唖然としていた。
しかもこれはなかなかの美人さんだ……ニコニコとした笑顔で話している姿は何とも印象的だった。
でも、直前での魔物との戦い、そして――
「よう! そこのねーちゃん! 俺と一緒に遊ばないか?」
ナンパ男が声をかけてくると、彼女は――
「は? あんた誰よ? 言っとくけど私は忙しいのよ。
ケガしたくなかったら引っ込んでなさいよ、しっしっ!」
と、とても迷惑そうに返していた。だが――
「いいじゃねえかよ、俺と一緒に遊ぼうぜ――」
と、後ろからその汚い手を――
「……えっ!?」
ネシェラはもはや慣れた手つきでその男の腕をがっつりつかむと、勢いよく投げ飛ばして地面にたたきつけた!
「ぐはぁっ!」
そして男の腹を思いっきり踏みつけ、ドスの利いた声で言った。
「ケガしたくなかったら引っ込んでろっつったろーが!? あぁん!?
それなのに――余程ひどい目に遭いたいようだな!? なあ!? おい!?
私ゃ別にあんた一人が死のうが何しようがどうでもいいのよ? 言っている意味わかるよなあ!?」
「はっ、はい……わかります、わかります、だから――」
男はそのまま土下座をし始め――
「大変申し訳ございませんでした! もうしません! もうしませんから!
どうか、どうか許してください!」
「もうしない!? 私、一度警告してんのよ? あっち行けってさあ!?
それなのになんなんあれ? ぶち殺してもいいって意味よねぇ!?」
この人、確かにヤバイ……ライアはただひたすら絶句していた。
「そっ、それは……」
男はもはや恐怖を目の前にしてぐうの音も出なかった。
「ったく……まあいいわ、さっさと失せなさいよ――
お前みたいな馬の骨が私の剣の錆になるなんてまっぴら御免だからね。
でも、次に私の視界に入ったらバラバラにして魔物のエサにするからそのつもりでいろよ――」
男は恐怖を目の前にして腰が引けたまま何度も何度も転倒しながらも一目散にその場を逃げ出した。
「やれやれ、アーカネルにやっと着いたばっかりだって言うのに――頭に来るわね。」
でも、少なくともその気持ちはよくわかる――ライアは共感していた。するこ今度はそこへ――
「あっ、あの……」
と、別の男の人が言った。
「はあ? 何よ?」
ネシェラはイラつき気味に訊いてきた。
「あっ、いえ、すみません――お姉さん、お強いんですね――」
「だったら何よ? なんかもんくある?」
男は全力で首を振っていた。
「あっ、いえ! そんなことはありません! ただ――落とし物――」
と、男は指をさしてそれを示していた、どうやら瓶に入っている薬のようだった。
「あら、本当だわ、派手にやっちゃったわね。
まあいいわ、一応お礼だけは言っておこうかしら。」
と、何故か得意げに言った。
「あっ、いえ、そんな――当然のことをしただけですから――」
男は冷や汗をかいていた。しかし、それとは打って変わり――
「あら、そこにもあるわね――」
と、もう一つの薬と拾い上げようとすると、別の女の人が――
「これ、あなたの落とし物ですか?」
すると、ネシェラは悪びれた様子で――
「あら! ごめんなさいね! わざわざ拾っていただいて!」
「いえいえ! はいどうぞ!」
「ありがとう! 何かお礼ができるといいんだけど――」
「いえいえ、そんな! 当然のことをしただけですから気になさらないでくださいな!」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えて――本当にありがとうございました!」
相手が女性となると手のひらクルー……話に訊いた通りだった。
そして――
「ああっ! ごめんごめん! 変なところ見せちゃったわね!
ライアお姉様! お城への案内、お願いしますね♪」
ネシェラは我に返った、なるほど、これは――ライアはどうしたもんだか悩んでいた。
「お久しぶりです、サイスお兄様♪」
ネシェラはサイスお兄様の右腕に思いっきりしがみついて甘えていた。
「ネシェラさん、相変わらずですね……」
サイスは少々引きつっていた。
「はーい! 私、イケメンなサイス兄様に会いたかったんですよ♪」
「えっ……あっ、そうなんですね――」
「サイス兄様も私に会いたかったでしょ?」
それに対してサイスは悩んでいた、が――ネシェラはニコニコとした笑顔のままサイスの右腕を強く握っていた。
「いっ……! はっ、はい! とっても会いたかったです!」
しかし、ネシェラはつっけんどんに言った。
「そう……まあいいわ、冗談言ってないでさっさと手続きを済ませてしまいましょ。」
えっ、今のなんなん? ライアは唖然としていた。
そして、ロイドたちも合流すると、兄妹の久しぶりの挨拶は――
「よっ!」
「よっ。相変わらず、男泣かせてんのか?」
よっ……の一言とか……
「私がわざわざそんな鬱陶しいマネをするわけないでしょ、勝手に泣いているだけよ。」
ロイドは笑っていた。
「確かにその通りだな、そいつはいい――」
なんだ、案外マトモに話してるじゃん――ライア、シュタル、アレスはそう思った。すると――
「あら! リアントス兄様まで!」
彼女は彼に反応すると、リアントスは遠慮がちに手を挙げていた。
「リアントス兄様、彼女できたー?」
「ああ、とりあえず間に合ってるんだよな。
だからあんたはまず自分の心配でもしていればいいんじゃないか?」
もはや当たり前と言わんばかりにそっけなく返したリアントス、
それに対してネシェラは――
「悪いけど、恋愛とは程遠い女なもんで。」
と言うと、リアントスは頷いた。
「だろうな」
それに対してネシェラは返すことはなかった。そして――
「じゃ! これから用事があるから行ってくるわね!」
用事? アレスは訊いた。
「ええ。これからアーカネル騎士臨時選抜ってのに行ってくるのよ。」
えっ、どういうこと? アレスは悩んでいた。
「彼女が……騎士選抜に?」